恋愛には向き不向きがあると聞くけれど

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、女性の性や恋愛について考えるこの連載。今回のテーマは、「恋愛には向き不向きがあるか?」です。森さん自身は恋愛に不向きだという自覚を持ちながらも、突然恋に落ちたことがあるのだそうです。

自分は恋愛向きじゃないとか、自分はのめり込みやすいとか、自己評価をする人って案外いる。恋愛に向き不向きがあるって、本当なのだろうか。

私は今まで、恋愛向きではないと自覚していた。物心ついた頃から結婚願望もなく、ずっとひとりで仕事して生きていくと決めていた(暗い10代だな、おい)。その証拠に、10代はろくに恋愛経験はなく(漫画家志望だったので、漫画を描くべく恋愛をかじったようなもの)、ボサッとしたまま二十歳になった。

突然、恋に落ちた

このままボサッとしたまま30代に突入するかと思いきや、落とし穴に落ちたみたいに恋愛がおとずれた。とんでもなく好きな人ができてしまった時、人生は漫画のためにあるのではないと知った(あたりまえだ)。結婚願望すらなかった私が初めて、「この人の子供がほしい」と願った。願った自分に恐れおののき、パニックになった。結婚はもとより出産なんてするもんじゃない(あくまで個人の見解です)と忌み嫌っていた私が、「この人の子供がほしい」だと?どどどどどどうしよう、子供だって、子供!この私が子育て?自分だって自分でうまく育てられないのに?と吐くほど悩んだ。

この時点で両想いにもなっていないし、思いも伝えていない。完全に完璧な片思いだったにもかかわらず、だ。いっそのこと土下座して子種だけいただこうかと本気で思い詰めた。若さ(とバカさ)も手伝ってすごい熱量だったのだ。

自分は恋愛向きじゃない、と一桁の年齢から自覚していたくせに、そんな自覚はガラス細工。あっけなく木っ端みじんだ。いや、確かに恋愛には向いていないかもしれない、が、それだけじゃなく、恋愛恐怖症くらいのレベルだったのだ。それがたったひとりのために木っ端みじん。くッ、練習として恋愛経験をつんでおけばよかった、とか、お前ごときが何言ってんだよ、と自嘲しつつ後悔した。

恋愛向きじゃない人が恋愛にのめり込むととんでもないことになる。24時間、その人のことしか頭にない。当時、少女小説家としてデビューしていたが、その恋愛(しつこいですが100%片思いです)によって小説がまったく書けなくなった。

1行も書けない。1文字書こうとするたびに、好きな人の顔や髪、腕や手が浮かんできてしまう(おばけかよ)。パソコンの画面いっぱいに好きな人があらわれる。書けないことに不安は感じなくて、むしろ胸いっぱいでしあわせだったのだ。

占い師が告げた一言

その後、私は思いも伝えられず、もちろん好きな人からのアプローチもなく、穏やかに自滅していく。数年間、1文字も書けなかった私に占い師が告げたのは(恋愛にのめり込むと大半の女性が占い師のもとに駆け込むよね)、「あなたは俯瞰できる位置で恋愛しないといけません。日常生活が破綻します」というような一言だった。

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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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