脳の「忘れない」「錯覚」を利用。 クリアリングでメンタル管理

スポーツ選手のメンタルトレーニングはどのようなことをやっているのか。多くのオリンピック選手やプロ野球選手のメンタルトレーニングを指導している西田文郎氏に聞いた。

 「忘れない」「錯覚する」。複雑な脳の特徴を単純化すると、この二つが挙げられる。スポーツのメンタルトレーニングでは、この特徴を利用する。

 選手が例外なく取り入れているのがイメージトレーニングだ。「勝つ」あるいは「成功した」プラスの自分を徹底してイメージする。脳はイメージを忘れないし、イメージしたことを実現させようと機能するので本番でも筋肉がイメージ通り動くようになる。

 大事なのは「ミスしたけど、リカバリーした自分」もイメージすること。「先制点を許したが、残り1分で逆転」といったストーリーを複数イメージしておくことだ。

 ロンドン五輪では柔道で世界王者なのに早々に敗退した日本人選手がいたが、想定外の展開に対応できなかったメンタル面が影響したのは間違いない。

 自分では忘れたつもりでも、脳は失敗を覚えている。多くの競技で、1度のミスをきっかけに調子を崩す選手が続出するのはそのためだ。

 だから「クリアリング」と呼ばれるミスの記憶のリセットをしないといけない。 ロンドン五輪の体操で内村航平選手は団体戦でのミスを乗り越えて、個人総合で金メダルを獲得したのはクリアリングに成功した好例だ。

 クリアリングは「忘れよう忘れよう」と思うだけでは不十分。必要なのは、「プラスのイメージ」「決まった動作」「プラスの言葉」の3点セット。イメージは右脳、言葉は左脳で作用するなど、脳全体に影響を与えられる。宗教で、念仏や唱えなどの発声、合掌や十字を切るなどの定型ポーズをするのも同じ原理だと思われる。

クリアリングのポーズをする西田氏。イメージ、ポーズ、言葉の3点セットが脳をリセット

 実はプロ野球の元巨人の桑田真澄投手は早くからクリアリングを導入していた一人だ。「マウンドでブツブツとつぶやいている」とやゆされていたが、あれは打たれたりしたマイナスの気持ちをリセットしようと、後ろを向き、球を握り締め、「なし」と言ってクリアリングしていた。

「緊張しないぞ」ではなく
「緊張せず成功した自分」

 これらはビジネスの現場でも応用可能だ。私も嫌なことがあったときは、成功するイメージを抱きながら、親指を突き立てて「なし」とつぶやいている。

 例えば、上司や取引先にいわれのない嫌味を言われたようなときもクリアリングを行い、ネガティブな気持ちを引きずらないようにする。もちろん本人の目の前で妙なポーズをするわけにはいかないので、ポーズのかたちやタイミングには十分注意しよう。

 常に苦手意識を感じてしまう上司や取引先がいるならば、彼らと接するときに、同時に自分の好きな食べ物をイメージする習慣をつけるといいだろう。私だったらマツタケが大好物なので、相手の頭の上にマツタケがあるとイメージする。すると嫌な感情が鎮まってくる。

 これはマイナスのイメージをプラスのイメージで打ち消しているからで、苦手意識を薄める効果が期待できるのだ。

 また、大勢の前で行うプレゼンテーションなどで緊張しがちな人なら、「緊張しないぞ」ではなく、「緊張せず成功した自分」をイメージしよう。

 効果を疑問視する人もいるが、手のひらに「人」と書いてのみ込むようなおまじないも前述の3点セットで行えば有効だ。(談)


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