はいからさんの一族~最後の鐘~

「タカラヅカ」を支えているのはトップスターだけじゃない!100年以上の歴史を持ち、未婚女性たちが「清く、正しく、美しく」をモットーに歌い踊る宝塚歌劇団。その美しさでファンを魅了するスターの隣には、モヒカンの悪役や貫禄のあるおじさん役を全力で演じきる名バイプレイヤー・天真みちること「たそ」の姿があった……。元SMAP中居正広に「友達になれそう」と、元花組トップスター明日海りおには「宝塚に新ジャンルを築いた」と言わしめた伝説の元タカラジェンヌによる、誰も知らない爆笑宝塚エッセイ。

どうも。

前回のお話で、自身の「卒業」について書いたのですが、同じ位のタイミングで同期2人が卒業するという連絡をもらい……うう。

何とか受け止める態勢が整ってきた矢先、花組の華優希《はな・ゆうき》ちゃんの卒業のお知らせが寝耳に水過ぎて……うううううううううう。

同期の2人とはそれぞれ色んな思い出があるのですが(文化祭の時のあやかちゃん《彩凪翔/あやなぎ・しょう》のプリンシパルが格好よかったとか、ひーちゃん《笙乃茅桜/しょうの・ちお》と予科の時に『ヴィレッジ』というホラー映画を見に行った時、ビビる私の横で笑っているひーちゃんを見て更に恐ろしくなったとか)、

華ちゃんは、花組に配属された時の宴会で、100期生の子達の余興を台本だけ私が書いて出演してもらった時、余りの表現力の豊かさに、「凄い子が入ってきたな……」と、マヤを見染めた月影先生のような気持ちになったことを昨日のことのように思い出します。

本当にそれぞれ色んな思い出があるのですが、今、このような状況下のなか、なお私たちに「夢」を届けてくれるその姿を、私は一生忘れないと思います。

そして、今回卒業される方々が、どんなメッセージを届けたいのか、胸いっぱいに受け止めていけるように、今から準備したいと思います。

というわけで、今回も少し卒業の話になります。ゴー♪


牛五郎さんとの出会い

『雪華抄/金色の砂漠』で最初の鐘の音が聞こえて以降、「耳すま生活」を続けていた私は、『MY HERO』のスマイルスマイリー役で「胡散臭さの極み」の鐘が、『邪馬台国の風』のナシメ役では、「自分で結える唯一の髪型が“みずら”になった」の鐘が、『Sante!!』のポワブロンでは、「イロモノ女役の集大成」の鐘がそれぞれ聞こえ、日々演じる事に大きな充実感を抱いていたのだが、ここに来て「ハッ」とあることに気がついた。

私には、ドライアイス(前話参照)という状況以外で、演じてみたい役がこれといって無かったのである。

これまでの『宝塚おとめ』(タカラジェンヌのタレント名鑑みたいなやつ)の「演じてみたい役」という欄には、「様々な役の人生を演じたいです」的なことを書いており、特定の役に対する意気込みはほぼ皆無だった。

自分から演じてみたいと思える役に出会えたらどんな気持ちになるのだろうか………
そんな想いを抱きながら、タカラジェンヌとして終活の日々を過ごしていた。

そんなある日、次回公演のラインナップが発表された。そこで私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

なんと、あの名作漫画『はいからさんが通る』が花組で上演されるとのお達しだった。


大和和紀先生の『はいからさんが通る』………それは私にとって人生のバイブルであり、教科書であり、友であり、かけがえのない存在の漫画だった。

どんな事があっても前へ進む主人公の紅緒さんに何度心を救われたか。

自分が1度宝塚の試験に落ちたときも(1話参照)、小劇場作品の選抜に落ちたときも(20話参照)落ち込んだ時はいつも、紅緒さんに背中を押して貰ってきた。

そういえば、もし宝塚ではいからさんを上演するなら、自分は「牛五郎」という
主人公の紅緒さんの生き様に憧れ、弟子になった車引きの男を演じられたら良いなあと思っていた。

そんな、『はいからさんが通る』が宝塚で上演されるとは……

しかも、自分の所属する花組で上演されるとは……

宝塚人生の中で、自分から演じてみたいと思っていた役とは、「牛五郎」の事だったのだ!

私は居ても立っても居られなくなって、その足で花組のプロデューサーの元へ向かった。

そして、

「私をはいからさんが通るの公演チームに入れてください!!!!!で、私に牛五郎さんを演じさせてください!!!!!!!!!」

と、人生で初めて、プロデューサーに出演の直談判をした。

それを聞いたプロデューサーは、

「わかったわかった。熱い思いだけは受け取ったから。でも、他の公演のメンバーとの兼ね合いもあるし、演出家の先生の意向もあるから」

と、私の勢いに若干引きながら(というか、ほぼドン引きしながら)、その場を後にした。

私は、教室を出ていくプロデューサーの背中にも、

「お願いします!絶対にお願いします!」

と、念を送り続けた。


数日後……

想いが伝わったのか、私は、『はいからさんが通る』の公演チームに入る事が出来た。

その段階では、主なキャスト以外の配役については未発表だったのだが、自分こそが牛五郎さんを演じるんだ!と、集合日に向けて、何度も何度もマンガを読み返し、アニメを鑑賞し、牛五郎さんのイメージを膨らませていた。

そして迎えた集合日。

高鳴る鼓動をなんとか押さえて香盤表を見に行ったところ、「天真みちる:牛五郎」という文字が目に飛び込んで来た。

私は生まれて初めて香盤表の前で「ぃよっしゃああああああああああああああ!!!!!!」と、ガッツポーズを決めた。

その後プロデューサーに感謝の気持ちと意気込みを伝えに行くと、プロデューサーは、

「実は、牛五郎の配役は、俺と天真の一騎打ちやってん」

と聞き捨てならないことを言った。

「うそ……だろ……?!」

と、演出の小柳先生のところに行くと、先生も、

「そうなんですよー。花組のプロデューサーさんって牛五郎のポテンシャルめちゃ高いですよね」

と、花プロをべた褒めした。

言われてみれば、当時のプロデューサーのプロポーションは、漫画の牛五郎さんそのものだった。

こんなに近くにライバルがいたとは………危なかった………。

私は、「花プロに負けるわけにはいかない」と、より一層身を引き締めて稽古に取り組んだ。


とは言うものの、稽古に入る前から牛五郎さんについて研究していたので、台本読みの段階で牛五郎さんの話し方、所作は全てシミュレーション済みで、自分のやりたいプランもあふれていたので、一刻も早く動き回りたくて仕方なかった。

牛五郎さんの見た目に関しても、細かいデティールにまで拘った。

顎を割り、ゴリッゴリの眉毛を描いたが、まだ何かが足りない……

今までの経験上、「もみあげ」が肝心要だと判断した私は、もみあげを「描く」という2Dではなく、「貼る」という、3D方式にしようと判断し、劇団内で髭・カツラを取り扱う床山さんの所へ相談しに行った。

床山さんは、おじさん役を極める人々にとって無くてはならないところで、ここには、今まで演じられてきた役の全ての髭がファイリングされており、役どころによってカイゼルにするか、コールマンにするか、フレンドリーマトンチョップスにするか(全て髭の種類)、フィッティングしながら(床山合わせと呼ばれている)決めていく。

『はいからさんが通る』は、漫画の他、実写映画、アニメ、アニメ映画など、様々な形で展開しているが、その中でも、舞台では原作漫画を忠実に再現したいと思っていた。

なので、漫画の1ページを見せ、

「これと似た形のもみあげはありますか?」

と床山さんにお聞きした。

すると、床山さんは私のフェイスラインを一瞥し、

「たその丸顔は結構特殊だから、四角に見せるために、一から作るね」

と、オートクチュールで作って頂くことになった。

おじさん役を極めて10年弱、床山さんとの付き合いも長いだけあって、私の輪郭をしっかりと把握してくださっている。いつも見事に男役に仕上げて下さる床山さんに感謝の気持ちしかなかった。

顎、もみあげ、眉毛と、少しずつ枠組みが仕上がってきた。 残る課題は一つ……そう、髪型だ。

漫画の牛五郎さんの髪型は……カッチリ真四角の「角刈り」だった。

研究科12年……干支も一周したところで、男役として覚悟を決め、ここは一丁角刈りにするか!!!!と、覚悟を決めた私は、美容院へ向かった。

席に着き、スタイリストさんに、

「今日はどんな感じにしますか~?」

と聞かれた私は、ただ一言、

「角刈りで」

と答えた。

すると、3秒程沈黙したスタイリストさんが、

「か……角刈りです………か……?」

と、おそるおそる聞いてきたので、私は間髪入れずに

「はい。」

と答えた。

すると、更に8秒程沈黙したスタイリストさんが、熟考の後、

「俺には……出来ないかな。俺は、おススメしないよ」

と、まるで天下の優男のようなセリフを吐いた。

(貴方に……貴方に私の何がわかるっていうの……!!!!!良いから切ってよ!!!!!)

と、心の中で感情を爆発させたが、面と向かって言う程の勇気が無かった私は、美容院を後にした。

今思えば……なぜ、この時に床屋に行かなかったのか。

まさかの角刈り拒否をされた私は、悩んだ末……いつものリーゼントをもっとかっくかくにしたら、角刈りになるのでは?という結論に辿り着いた。

そして試行錯誤の末……散髪屋に売っている「ダンネットエル」という、リーゼントをセットするときに使うラケットのような網を駆使し、かっくかくの真四角角刈りを作ることに成功したのである。

長く在籍した宝塚歌劇団で、私が唯一取得したヘアセットは、「みずら」と「角刈り」になった。

化粧、髪型を納得の行く形に形成出来た私は、順調に稽古を進めた。


そして迎えた本番。

私の生涯の推しであるうたの☆プリンスさまっ♪の聖川真斗様(私はお慕いの気持ちを込めてダム様とお呼びしております)の楽曲も手掛けられている(紹介に偏りがあることをお許しください)エレメンツガーデンの藤間仁さんの作曲による、はいからさんが通るのメインテーマが掛かり、芝居が始まった。

牛五郎として仕えている親分、紅緒さんを演じる華優希ちゃんは、当時まだ研究科4年目だったにもかかわらず、堂々とした振る舞いで、本当に親分のようだった。

芝居のやり取りで私が変顔で話しかけると、彼女も変顔で返してくる。彼女の顔を見ながら、「ああ、私今こんな顔で話しかけているのか」と気づかされる。

どんな無茶ぶりをしても、親分として返してきてくれる。

これは、「娘役」としてはとても難しいことなのに、華ちゃんは、そのハードルを感じさせなかった。

今日はどんなやり取りになるのかな……という期待で、毎日幸せだった。

はいからさんが通るの公演中は「楽しい」以外の言葉が見つからなかった。

日々、牛五郎という役を通じて、自分自身も舞台に息づいていると感じられた。

役なのか、自分なのかわからない幸福感に包まれたのは、生まれて初めてだった。

千秋楽を迎える頃、私はとてつもない「やりきった感」に包まれた。

このとき、「演じてみたい役」を演じる……という、今までの中では、割と大きい鐘の音が聞こえた。


中間管理職としての責任

聞こえてくる鐘の音が、次第に増えていく。

そろそろ、タカラジェンヌとしての終活も完了に近づいてきているのかなと思う反面、一つだけ、どうしても自分で鳴らすことはできないのだろう、という鐘があった。

それは、「中間管理職としての責任感を捨て去ることができるか」という葛藤だった。

タカラジェンヌとして長く劇団に在籍していく上で、上級生になって行けば、必ず下級生が増えていく。「タカラジェンヌ」のあり方は「タカラジェンヌの先輩たち」によって形成、伝承されていく要素がかなり大きいので、自分が今までに見て、教えられて学んできた事を下の世代に繋げて行くことは、大前提だった。

その責任を手放しても良いのか…… そのことがずっとひっかかっていた。

悩み続けた私は、自分だけでは解決できん!と爆発した。

これは、誰かに相談しよう。

でも、誰に……

そんなことを考えていたある日、公演を観に来ていた月組の光月るうさんが、同期の鞠花ゆめと、鳳月杏の所に感想を伝えに来られた。

るうさんは、ゆめとちなつ(鳳月)とは親しかったが、私とは元々接点は無く、2人に話しかけてきて下さる際に、一緒に会話する位の間柄だった。

だが、いつも月組さんで上級生として素晴らしい芝居と素晴らしい統率力を発揮されているるうさんをお見かけした時、相談するならこの方しかいない。と、心の中で声がした。

次の瞬間、私はちなつから連絡先を聞き、るうさんに相談したいことがある旨を伝えた。

すると、すぐにるうさんから、

「それはできるだけ早く聞かないとだね」

と返信があった。その日のうちにお会いすることになり、恐ろしい程の手際の良さでお店を手配して下さり(勿論個室)、車で迎えに来て下さり、助手席に案内され、座るとドリンクホルダーにお茶が用意されており、「飲み物これで大丈夫?」と、ご配慮までいただき………

ほんと、ハンカチ出してすぐにでも

「惚れてまうやろ—!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

と、叫ぶところだった。 一歩手前で何とか踏みとどまり、自分の本来の目的を思い出して、気分を落ち着かせた。

そして、ゆっくりと、自分の今思っていることを打ち明けた。

るうさんは、ずっと丁寧に相槌を打ちながら聞いて下さり、沢山アドバイスもしてくださった。そして、

「これだけは、絶対に覚えていて欲しいんだけど、宝塚歌劇団というところは、たそが仮に辞めたとしても、絶対に次の作品の初日は来るし、続いていくんだよ。

それは、たその事を必要ない!と言ってるわけでは無くて、誰かが卒業すれば、誰かが一生懸命担って行くし、 自分がいなくなったら、宝塚は無くなってしまう!と思い詰める必要はないんだよ。

だから、自分がどうしたいのか、ちゃんと考えた方が良い」

という事を伝えてくださった。

それを聞きながら、心が軽くなっていくのを感じた。

研究科12年目の私が、タカラジェンヌ、ではなく、一人の人間として何がしたいのか。

ここにきて初めての自分自身への問いかけの先に出た答えは……


「自分にしか表現できない世界を創りたい」


だった。

心の中で最後の鐘が鳴り、卒業の意思が固まった矢先、次回公演が発表された。

それは、萩尾望都先生原作『ポーの一族』を、「巨匠」こと小池修一郎先生が33年越しにタカラヅカで初舞台化するというお話だった。

私が巨匠を、そして、「宝塚歌劇団」の存在を知ることになった原点of原点の作品。

こんなにも自分の人生をかたどってきた漫画を舞台作品として上演する機会に恵まれるなんて、幸せの極み以外の何物でもない。


この作品で宝塚歌劇団を卒業しようか………


そう考えた私は、次の瞬間踏みとどまった。 巨匠とのこれまでの歩みを思い返したのだ。

巨匠からは「序/破」と、人生のターニングポイントとなるタイミングで沢山の事を学ばせていただいてきた。

きっとこれが現役生徒として対峙する最後の機会になる。

でも、それを「もうこの公演で卒業するから……」と、オブラートに包まれたようなマインドで向き合いたくなかった。

そう思った私は、次回作ではなく、次々回作で卒業することを胸に決めた。

そして、巨匠との最終決戦に向け、これまでの経験を総動員し、鍛錬を始めるのであった。


次回、31話

「巨匠との出会い~Q~」

お付き合いいただければ幸いです。では。

この連載について

初回を読む
こう見えて元タカラジェンヌです

天真みちる

「タカラヅカ」を支えているのはトップスターだけじゃない!100年以上の歴史を持ち、未婚女性たちが「清く、正しく、美しく」をモットーに歌い踊る宝塚歌劇団。その美しさでファンを魅了するスターの隣には、モヒカンの悪役や貫禄のあるおじさん役を...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Vaara1218 読みながら泣いちゃった…涙なしに読めない… 約14時間前 replyretweetfavorite

ohkinia https://t.co/YKwHz50AbV 序文の同期生お二人のお話、もっと聞きたかったー!!涙  でも今回も内容濃い!美容師チャラ優しい!(このセリフに元ネタあります?) そしてイケコのヴァンパイアものへの執着たるや。蒼いくちづけとか薔薇の封印とか…とうとう来た…!! 約18時間前 replyretweetfavorite

77ho851118 るうさん。これは惚れるわ。 約23時間前 replyretweetfavorite

takarazuka_og_s 「」 〜 #天真みちる さんのブログより〜 https://t.co/FI2GiaMdVt #og_news 約23時間前 replyretweetfavorite