今週は質問回答特集です。みなさまから寄せられる質問が鋭く「こんな観点があったのか!」といつも勉強になっています。答えらえる限り、頑張って考えてみます。さっそく行ってみましょう!
ステーキ
ステーキの焼き方は「肉を焼くときは強火で何度も裏返せ!」という記事で解説しました。様々な焼き方がありますが、大事なことは中心温度を54℃〜60℃程度に収めつつ、表面に充分な焼き色をつけることです。記事では強火で表面に焼き色をつけて、休ませているあいだに予熱で肉の中心温度を上げる方法をとっています。食べる頃には少し冷めているという感想はなるほどです。
温度が気になる場合は是非、休ませた後、もう一度強火で表面だけを軽く焼いてください。この時、フライパンに敷くのはオイルでもいいのですが、バターを使うと風味をつけることができます。肉が冷めていると感じるのは最初に口に触れる部分の温度が下がったため。仕上げにもう一度焼けば表面温度が回復するので、温かく感じるはずです。
もうひとつの改善策は盛り付ける皿を温めておくこと。レストランでは専用の温蔵庫やオーブンで温めますが、家庭では湯につけておき、水気を拭きとってから盛り付けるだけで結構です。温めた皿にステーキを盛った後、焼く際に使った熱いバターを少量かけると風味と温度が加わり、さらにいいでしょう。
霜降りについて
肉や魚などの食材を調理の下処理として熱湯に通すことを「霜降り」といいます。霜降りはそもそも鮮度の落ちた魚や肉を湯で洗うことで、増えた細菌や匂いの成分(トリメチルアミンなど)を除去することが目的です。
魚の場合は以前『魚の煮付け』は少ない煮汁でつくれ!』という記事のなかで必ずしなくてはいけない工程ではない、と書きましたが、買ってきた切り身の匂いを嗅いで、臭みがなければこの作業は省略することもできます。
肉はどうでしょうか? 霜降りの目的には臭みの除去以外にも「油を落とすため」と説明されることがありますが、実際にはさっと湯に通すことで抜ける脂の量はわずかです。他に「肉は湯通ししたほうが煮汁が透明になる」という理由を挙げる人もいます。しかし、スープが透明になる原理は、肉からお湯に溶け出したタンパク質が加熱によって固まる際に濁りの原因となる物質を吸着するからで、湯通しとは関係ありません。
では、肉を煮込んだりスープをとる際には、霜降りをしなくてもいいのでしょうか? この答えは魚と同様にやはり「ケースバイケース」と答えるしかありません。別の質問で「牛すじを茹でこぼす作業は必要なのでしょうか? アクを取りつつスープが綺麗になるまで茹でるのはダメなんでしょうか」というものがありましたが、状態のいい牛すじ肉であれば茹でこぼす作業は必要なく、アクをとりつつスープがきれいになるまで加熱をすればいいでしょう。
しかし、買ってきた肉が古く、表面にドリップが浮いているようであれば、茹でこぼす作業は必要かもしれません。湯通しすることで臭みを減らすことができるからです。一つの工程が必要なのかは食材が知っています。比喩的にいえばその声に耳を澄ますことが料理では重要なのです。
牛すじの扱い方
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この連載について
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