第310回 読むための対話:理由を求める問いかけ(後編)

証明ができたと思ったけれど、ノナちゃんからの意外な質問が飛ぶ。「僕」は何と答える?……あなたもいっしょに考えよう!

【お休みのお知らせ】

結城浩です。いつもご愛読ありがとうございます。 おかげさまでこのWeb連載も今回で第310回を迎えました!

みなさまの応援に感謝します。

さて、たいへん恐れ入りますが、さらなるパワーアップをはかるため、 このWeb連載の更新を2021年1月1日までお休みさせてください。

日程は以下の通りです。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

Web連載「数学ガールの秘密ノート」予定

・2020年11月20日(金)第310回更新
・2020年11月27日〜2021年1月1日 お休み
・2021年1月8日(金)第311回更新
・(以後、毎週金曜日更新)

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

ノナユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。

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平行線の錯角

ノナユーリの三人は、図形の証明問題を題材にいろいろおしゃべりをしている(第308回参照)。

いまは補助線を引いて平行線の錯角を利用した問題について話しているところ(第309回参照)。

ノナ「補助線は……こうです$\NONA$」

ユーリ「お兄ちゃんは、この補助線を引けなかったの?」

「そうだね。小学生で初めてこの問題を見たとき、この補助線を教えてもらって本当に驚いたよ。この補助線があれば、《平行線の錯角は等しい》ということを使って、すぐに答えがわかる」

ユーリ「44度と36度を足して、80度」

ノナ「角を集める$\NONA$」

「そうだね。ノナちゃんの言う通り。《平行線の錯角は等しい》ということを使って角を一箇所に集める。そうすれば、求める角の大きさがわかる」

ユーリ「《平行線の錯角は等しい》って、三角形の内角の和が180度であるのを証明するときも使ったよね(第309回参照)」

ノナ「$\NONA$」

「うん。そうだね。平行線の錯角が等しいことはよく使う」

ノナ「$\NONA$」

ノナが、身体をもぞもぞと動かし、やたらと前髪をいじり始めた。何だか落ち着かないみたいだ。

ユーリ「ノナ、どしたん? あ……」

ユーリは、ノナに耳打ちをして何かを話す。ノナは首を振る。

「気になることがあったら、何でも言っていいんだよ、ノナちゃん」

ノナ「理由は大事$\NONAQ$」

「うん、そうだね。数学で理由は大事だよ。だから、理由がわからないことがあったら、どんなことでも聞いていいんだ。どんなことでも『どうして?』と聞いていいからね」

ノナ《平行線の錯角は等しい》は……どうしてですか$\NONAQ$」

理由を尋ねる

「なるほど! 《平行線の錯角は等しい》という主張の理由が気になったの?」

ノナはこくんとうなずく。

ユーリ「平行線の錯角が等しいのに理由ってあるの? あるか……」

「理由というとわかりにくいかもしれないけれど、《平行線の錯角は等しい》という主張を、 もっと基本的なことを使って証明することはできるよ。 ちょうど、さっきユーリが《三角形の内角の和は180度である》を証明したようにね(第309回参照)」

ユーリ「へー……」

《平行線の錯角は等しい》を証明できるよ、とは言ったけれど、その証明をパッとは思いつかないな。

でも、何かの本で以前読んだことがあるのは覚えている。 証明そのものは覚えていないけれど、 証明を追いかけて納得したことは覚えているぞ。

だから、少し時間を掛ければきっと再構成できるはず……とは思った。

「それにしても、ノナちゃんはすごいよ。本当にすごい」

ノナ「$\NONAQ$」

「『《平行線の錯角は等しい》のはどうして?』と、理由をきちんと聞いたよね。それはすごいことだよ」

ノナ「わからなかったの$\NONA$」

「そこがすごいんだ。みんなが当たり前だと思って話していることについて、自分がわからないときに『それはどうして?』と質問するのには大きな勇気が要るよね。 すごく大きな勇気が要る」

《大きな勇気》というの言葉に、ノナは強くうなずいた。

ユーリ「ユーリもよく質問するよ! 『なんで?』って」

「そうだね。ユーリもよく理由を尋ねるよね。ユーリも偉いな!」

ユーリ「ふふん。だって理由がわかんないと、つまんないし。話を聞くだけになっちゃうから」

「そういうことだね。理由を尋ねるのは、自分で考えている証拠だ」

ノナ「何でも質問していい$\NONAQ$」

「もちろんだよ。だって、せっかくいっしょにおしゃべりしているんだから、質問したいときに質問しなくちゃ」

ユーリ「本読んでると、いらいらすることある。『え! なんでそーなるの』と思っても質問できないもん」

「ああ、あるよね。考えながら本を読んでいると、理由を確かめたくなるから」

ユーリ「理由をちゃんと書いといてくれればいーのに」

ノナ「$\NONA$」

ユーリ「えーと、そんで、平行線の錯角が等しいことの証明は?」

「うん、たぶんできると思うんだけど、いきなり証明を書くことはできないから、考えながら行きたいな。 考えやすいように問題の形にしよう」

問題1:平行線の錯角は等しいことを証明せよ

問題1

平面上に平行な二直線AとBがあります。

また、二直線AとBに交わる直線Lがあります。

このとき角aと角bの大きさが等しいことを証明してください。

ユーリ「えー、こんなのどー考えるんだろ」

ノナ「結論$\NONAQ$」

「ノナちゃんがいいことを言ったね。証明を考えるときには、まず、最後に示さなくてはいけない結論が何かをはっきりと押さえておこう」

ユーリ「$a = b$」

「うん、そうだね。結論は《角aと角bの大きさが等しい》ということだから、aとbをそれぞれ角の大きさを表すものとするなら、 $$ a = b $$ が結論になる」

ユーリ「あとは仮定も?」

「そうなるね! 証明では、与えられた仮定も押さえておく必要がある。仮定から結論までを理由の連鎖で繋がなくちゃいけないんだから。仮定は何だろう」

ノナ「平行$\NONAQ$」

「そうそう。《直線Aと直線Bは平行である》というのが仮定。二直線AとBが等しいことは、 $$ \PARALINES{A}{B} $$ と表すこともある。これが仮定。だから、すごく大ざっぱに書けば、証明はこんな感じになるんだろう」

$$ \PARALINES{A}{B} \INDUCING \cdots \INDUCING a = b $$

ユーリ「大ざっぱ過ぎね?」

「いやいや、まあまあ。ここから自然と《AとBが平行であるならば、何がいえるだろう》と考えられるよね。つまり、《AとBが平行である》ことからいえる次の一歩は何だろうか、と考えを進めるんだ」

$$ \PARALINES{A}{B} \INDUCING \text{?} $$

ユーリ「《AとBが平行である》から、いきなり《錯角が等しい》に一歩で行っちゃダメだよね?」

「そりゃそうだね」

《AとBが平行である》から、何が言えるか……

しばし、僕たち三人は考え込む。

ノナ「《同位角が等しい》も……ダメですか$\NONAQ$」

「うん、僕もいまそれを考えていた。《AとBが平行である》から《同位角が等しい》に進んで、さらに《対頂角は等しい》ことを使って《錯角が等しい》と進むことはできる。 それは、こんな証明になる」

解答1a

(証明)

図のように角a'を定めます。

すると、角a'と角bは平行線の同位角なので、大きさが等しくなります。

$$ a' = b $$

また、角a'と角aは対頂角なので、大きさが等しくなります。

$$ a' = a $$

したがって、

$$ a = b $$

となります。

(証明終わり)

ユーリ「証明はできたけど……」

「これでも一応、平行線の錯角が等しい証明にはなっている。でも、この証明だと、新たな質問が出てくることになる。ユーリはわかるよね」

ユーリ「わかる」

「新たな質問、ノナちゃんはわかる?」

ノナに水を向けたとき、ノナは解答1aを読んでいる途中だった。

はしばらく待ってから、もう一度尋ねる。

「この解答1aを読んで、ノナちゃんは何か気になる?」

ノナ「《平行線の同位角は等しい》のは……どうして$\NONAQ$」

「その通り! いまの質問で、ノナちゃんが僕たちといっしょに考えているのがよくわかるよ!」

ノナ「わからなかったの$\NONA$」

「解答1aでは《平行線の錯角は等しい》の証明に《平行線の同位角は等しい》ということを使った。これで《平行線の錯角は等しい》から《平行線の同位角は等しい》に問題が移ったことになる。 だから、《平行線の同位角は等しい》を証明しなくちゃいけなくなる」

ユーリ「同位角が等しいって証明するのに、錯角が等しいことを使っちゃダメだよね?」

「そうだね。循環論法(じゅんかんろんぽう)になってしまうから。これは論点先取と同じ種類のまちがいだ」

ユーリ「《対頂角は等しい》の証明も必要だし」

「確かに! それもあるね……あ、でも対頂角が等しいことの証明はすぐできるけどね」

ユーリ「ふーん……《平行線の同位角は等しい》を使わないでも、問題1の証明ってできるの?」

「うん、それを考えてみようか」

ユーリ「考えてみようっていっても……」

「問題1の仮定は《二直線AとBは平行》だった。だから、僕たちはここで、二直線が平行であることを定義しなくちゃまずい」

と言いながらは、ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学の話を思い出していた。 《平行線の公理》に関した歴史的な話が頭をよぎる。 さてさてここで、あまりとんでもない深みに入らずに、しかも意味のある証明を組み立てるには……

平行の定義

ユーリ「ほほー……平行の定義とな」

「うん。こんなふうに定義してみよう」

平行の定義

平面上の異なる二直線が交点を持たないとき、この二直線は平行であるという。

ユーリ「ふむふむ」

ノナ「はい$\NONA$」

「それから、平行に関しては《平行線の公理》が決定的に重要になる」

《平行線の公理》

ひとつの平面上で考える。

直線Lがあるとする。

また、点Pは直線L上にはないとする。

このとき、点Pを通り直線Lに平行な直線が一本だけ存在する。

ユーリ「へー……これがそんなに重要なの? 点Pは直線L上にないんだよね? だったら、点Pを通る平行線が存在するって、当たり前じゃないの?」

「うん、これは数学の歴史上、めちゃめちゃ重要な意味を持っているんだ。でもいまは、この《平行線の公理》を成り立つと認めることにする」

ユーリ「ふーん」

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ノナ「ぽあんかれ……よそう$\NONA$」

「《平行線の公理》では、点Pを通る平行線が《存在する》というだけじゃなくて、《一本だけ存在する》というのが重要だからね」

ユーリ「それも当たり前じゃないの? だって点Pを通る平行線が二本あったら……どっちかは直線Lにぶつかるに決まってるじゃん?」

「うん、それはユーリが《平行線というもの》を頭に思い描いているからだよね。平行線というものはこういうものだというイメージが先にある。 そのイメージにしたがえば、平行線が一本だけ存在するのは当然だろう……という流れで考えている」

ユーリ「まーね」

「でも、この《平行線の公理》は、そういうふうに受け止めちゃいけないんだよ」

ユーリ「?」

「思い描く平行線のイメージを使って平行線についての何かを導くんじゃないんだ。そうじゃなくて、平行線とは、この《平行線の公理》を満たしているものだと考えてほしい、ということ」

ユーリ「んんん?」

「平行線に関して何かを言いたかったら、この《平行線の公理》をおおもとの理由にしてね、ということ」

ユーリ「んー……」

ノナ「ダメなの$\NONAQ$」

「はい?」

ノナ「《平行線の公理》がどうしてなのか……質問してはダメですか$\NONAQ$」

「『《平行線の公理》がどうして成り立つんですか』という質問するのはもちろん構わないよ。数学ではどんなことでも質問して構わないからね。 こんなことを質問してはダメかどうかなんて、まったく心配しなくていいんだよ、ノナちゃん。 数学では、何を質問しても馬鹿にされたり、怒られたりすることはないんだ」

ノナ「よかった$\NONA$」

「《平行線の公理》が成り立つ理由は、答えるのが難しいけれど、こうなるよ。《平行線の公理》が成り立つということを前提にして、これからの議論を考えることにしよう、と定めたから。 それが理由だね」

ノナ「$\NONAQ$」

「公理というのは、定義と少し似ているところがある。それ以上さかのぼって理由を考えなくてもいいことにしよう。ここを出発点として議論を展開しよう。 公理はそういう種類の主張なんだよ」

ノナ「難しい$\NONA$」

「数学のいろんな主張は、証明されてはじめて成り立つといえる。でも証明で理由をどんどんさかのぼっていくと、どこまでいってもスタート地点が決まらない。 どこまで行っても『それが成り立つと言えるのはどうして?』と質問できるから」

ノナ「理由は大事$\NONA$」

「そうだね。さかのぼっていくとやがて《直線AとBは平行である》のような主張にたどり着く。でも、じゃあ、平行だとしたら何がいえるの? となったときにどうすればいいか。 そのときに《平行線の公理》を使うんだ。 平行線については《平行線の公理》が成り立つものと決めておく。 そして、そこから何がいえるかを考える」

ユーリ「ちょーっと待った。《平行線の公理》は、ルールをそう決めたってこと?」

「そう考えていいよ。僕たちがふだん学校で習っているユークリッド幾何学では、《平行線の公理》がルールの中に含まれている。それは決めごとだから、《平行線の公理》が成り立たないというルールにしてもいい。 別のルールを使うことに決めたならば、ユークリッド幾何学とは違う別の幾何学が生まれる」

ノナ「$\NONAEX$」

「それはまたものすごく楽しい話になるんだけど……話を戻そうか」

ユーリ「何考えてたんだっけ」

「ええと……そうそう、《平行線の錯角は等しい》ことを証明するんだった」

ユーリ「同位角を使わずに」

改めて、問題1:平行線の錯角は等しいことを証明せよ

問題1(再掲)

平面上に平行な二直線AとBがあります。

また、二直線AとBと交わる直線Lがあります。

このとき角aと角bの大きさが等しいことを証明してください。

「うん、いまおしゃべりしてきたから、だいぶわかってきたぞ。ちょっとおもしろい証明になりそうだ」

ユーリ「わくわく」

ノナ「$\NONA$」

「僕たちは角aと角bの大きさが等しいことを証明したいんだけど、こう考えたらどうだろう。 錯角が等しい直線A'を引いてしまうんだよ」

ユーリ「は? 意味わかりましぇん」

「だからね、直線A,B,Lはそのままにしておく。そして、直線AとLの交点をPとする。そして、点Pを通って、錯角の大きさが角bに等しい直線A'を引くんだ」

直線A'

ユーリ「それって、ろんてんせんしゅじゃないの?」

「論点先取? 違うよ」

ユーリ「だって、錯角が等しいことを使ってるじゃん」

「いやいや違うよ。A'という直線を、錯角の大きさが角bに等しくなるように引いただけだから、ぜんぜん論点先取じゃない。 点Pを通る、そういう直線A'を引いても構わないよね」

ユーリ「……あ、そーゆー意味? 平行な直線Aとは関係なく、錯角が等しい直線A'を引くってこと? 何か変なの。でも、だからといって、何も証明できてないじゃん」

直線Aと直線A'

ノナ「$\NONA$」

「そうだね、まだ何も証明できてない。ところで、もしも《錯角が等しい二直線は平行である》といえたとしたら、何が起きるだろうか」

ユーリ「えっ、えっ……」

「もしも《錯角が等しい二直線が平行である》といえるなら、直線A'と直線Bは平行になるよね」

ノナ「AとA'は同じなの……同じですか$\NONAQ$」

「そうなんだ、そこがポイントになる」

ユーリ「わかんないわかんない! 何言ってるかさっぱりわかんない!」

「あとでちゃんと証明は書くけど、アイディアはこうだよ。途中で逆が出てくるのがすごくおもしろい」

  • 直線Aと直線Lの交点をPとします。
  • 点Pを通り、錯角が等しい直線A'を描きます。
  • 錯角が等しい二直線は平行だから、直線A'と直線Bは平行になります。
  • 《平行線の公理》から、直線Aと直線A'は一致します。
  • したがって、平行線の錯角は等しいといえます。

ユーリ「えーと……」

ユーリはしばらく考える。

ユーリ「《平行線の公理》を使うって、こーゆーこと?」

  • 直線Aは直線Bと平行ですね、と。
  • 直線A'は錯角が等しい直線ですよ、と。
  • 錯角が等しい二直線は平行だから、直線A'も直線Bと平行ですよ、と。
  • 直線AとA'は両方とも直線Bと平行ですね、と。
  • でも、直線Bに平行で点Pを通る直線は一本しか引けないんだから、直線AとA'は一致するぞ、ってこと?

直線Aと直線A'

「そうそう! ユーリは飲み込みがめちゃくちゃ早いな!」

ノナ「ダメ……ダメです$\NONA$」

「何がダメかな?」

ノナ「《錯角が等しい二直線は平行》なのは……どうして$\NONAQ$」

「うんうん! その『どうして』もいいね! ノナちゃんはちゃんと話についてきてる。さっきの僕の説明では、《錯角が等しい二直線は平行である》ということを使っていた。 だから、これもまた証明しなくてはならない。ノナちゃんの『どうして?』は正しい。とても、正しい」

ノナ「わからなかったから$\NONA$」

「《錯角が等しい二直線は平行である》の証明に入る前に、ここまでの話を問題1への解答として書いておこう」

解答1b

(証明)

直線Aと直線Lの交点をPとします。

点Pを通り、錯角が等しい直線A'を描きます。

錯角が等しい二直線は平行だから(★)、直線A'と直線Bは平行になります。

直線Aと直線A'はどちらも直線Bと平行で、しかも直線B上にない点Pを通ります。

だから《平行線の公理》より、直線Aと直線A'は一致します。

したがって、平行線の錯角は等しいといえます。

(証明終わり)

ユーリ「あとは★を証明すればいーの?」

「そうだね。★も問題の形にしよう。さて、これはどうすれば証明できるか……」

問題2:錯角が等しい二直線は平行であることを証明せよ

問題2

平面上に二直線AとBがあります。

また、二直線AとBと交わる直線Lがあり、錯角が等しいとします。

このとき二直線AとBが平行であることを証明してください。

ノナ「難しい$\NONA$」

ユーリ「こっちも、《当たり前すぎて難しい》問題だよー」

「確かにそうだね。明らかに成り立つように見えるから、わざわざ証明しろと言われると困るかもね。でも、証明を考えるときに最初にやるのはいつも同じ」

ユーリ「仮定と結論!」

ノナ「仮定と……結論$\NONA$」

「そうだね。何から何を導くか。問題2はこうだ」

$$ a = b \INDUCING \cdots \INDUCING \PARALINES{A}{B} $$

ユーリ「問題1と逆」

問題1(平行ならば錯角が等しい)

$$ \PARALINES{A}{B} \INDUCING \cdots \INDUCING a = b $$

問題2(錯角が等しいならば平行)

$$ a = b \INDUCING \cdots \INDUCING \PARALINES{A}{B} $$

「そうなるね。もちろん、循環論法にならないようにするために、問題2の証明をするときには、問題1の結果……つまり《平行ならば錯角が等しい》を使うことはできない」

ユーリ「それはわかるけど……」

「いま僕たちは、錯角が等しいならば平行だということを証明したい。仮定も結論もわかっている。それから使ってはいけないこともいくつかわかってる。 《平行ならば錯角が等しい》だけじゃなくて《三角形の内角の和は180度である》なども使ってはいけない」

ノナ「合同は$\NONAQ$」

「三角形の合同? ……うん、それは使ってもいいよ。たとえば、《三辺が等しい二つの三角形は合同である》や《二辺の長さがそれぞれ等しくて、挟む角の大きさも等しい二つの三角形は合同である》も使える」

ユーリ「でも、問題2は平行線の問題だから三角形は出てこないんじゃね?」

「いやいや、そうとは限らないよ……ちょっと待って」

ユーリ「ほえ?」

ノナ「$\NONAQ$」

は考える。

《錯角が等しいならば平行》を証明したい。だとしたら……

「うん、行けそうだよ! 僕たちは《二直線の錯角が等しいならば、その二直線は平行である》を証明したいんだよね」

ノナ「はい$\NONA$」

ユーリ「そだね」

「何が成り立ったら《平行である》と言えるんだろうか」

$$ \text{?} \INDUCING \PARALINES{A}{B} $$

ユーリ「そりゃ……直線AとBが交わらなければ平行なんだから《交点がない》っていえばいーんじゃね?」

ノナ「難しい$\NONA$」

「そうだね。錯角が等しい直線AとBには《交点がない》っていえばいい。でも、《交点がない》と証明するのは難しそうだ。さてさてどうする? ああ、おもしろい証明になるよ!」

ユーリ「ひとりでおもしろがらないでよー」

ノナ「交点$\NONA$」

「もしも、直線AとBに《交点がある》と仮定したら、何が起こるだろう」

ユーリ「《交点がない》ことを証明するのに、《交点がある》と仮定するの?」

「そうだよ。背理法(はいりほう)を使うんだ!」

ノナ「はいりほう$\NONA$」

ユーリ「はいりほー……ってどーゆーのだっけ」

「背理法というのは、証明の方法の一つだよ。平面上の異なる二直線AとBがあったと仮定すると、 《交点はない》か《交点はある》かのどちらかになる。必ずね」

ノナ「$\NONA$」

ユーリ「……」

「うん、そこで……ああ、なるほど!」

ユーリ「一人で盛り上がってないで、話を聞かせてよー」

「《交点がある》と仮定したら、 矛盾(むじゅん)が起きたとする」

ユーリ「むむ?」

「《交点はない》か《交点はある》のどちらかになるはずだけど、《交点はある》と仮定したら矛盾が起きちゃった。としたら《交点はない》といえることになる。つまり二直線は平行だと証明できる」

ユーリ「思い出した! $\SQRT2$は有理数じゃないって証明で使った?」

「そうだね。その背理法を使おう」

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『数学ガール/フェルマーの最終定理』

ユーリ「この問題2で背理法を使う……」

問題2(再掲)

平面上に二直線AとBがあります。

また、二直線AとBと交わる直線Lがあり、錯角が等しいとします。

このとき二直線AとBが平行であることを証明してください。

「そうだね。二直線AとBに《交点がない》といいたいから、《交点がある》と仮定するんだ。そして矛盾を導けばいい!」

ユーリ「おー!」

ノナ「矛盾……って何ですか$\NONAQ$」

「矛盾というのは、《Xである》と《Xではない》の両方が成り立つことだよ。どんなことでもいいんだけど、《整数Nは偶数である》と《整数Nは偶数ではない》の両方が成り立つとか、 《点Pは直線A上にある》と《点Pは直線A上にない》の両方が成り立つとか。 そういうことが示せたら、矛盾が起きたというんだ」

ユーリ「でも、矛盾を導くってそんなに簡単にできんの?」

「うん、僕はもう見つけたよ。さっきのノナちゃんの言葉がヒントになった」

ノナ「何も言ってない……言ってません$\NONA$」

三角形の合同を使うんだよ!」

ユーリ「平行線なのに三角形?」

直線AとBに《交点がある》と仮定すると、三角形ができるよね! こんなふうに三角形PQRができる」

ユーリ「おっおっ……この図、なんじゃあ!」

ノナ「曲がってる$\NONA$」

「曲がっているところには目をつぶってほしいな。ほんとうは《交点がない》んだけど、《交点がある》と仮定しているから、図に描くとどうしてもおかしく見えるんだよ。曲がっているようにみえるけど、直線Aは直線。 その直線A上に、点Pと点Rがある。 そして、直線B上に、点Qと点Rがある」

ノナ「交点がある……から$\NONAQ$」

「そうだね。錯角が等しいにもかかわらず《交点がある》としてみよう。もちろん、実際にはそんなことはないんだよ。でも、仮に《交点がある》としてみる。 すると、三角形ができる。三角形ができてしまう」

ノナ「$\NONA$」

ユーリ「でも、三角形ができても……変な話だけど……矛盾はしてないよね」

「まだね。矛盾はここからだよ。まず条件を整理しよう」

  • 二直線AとBがあります。
  • AとBの両方と交わる直線Lがあります。
  • 二直線AとBの錯角が等しいとします。
  • 二直線AとLの交点をPとし、二直線BとLの交点をQとします。
  • いま、二直線AとBに《交点がある》と仮定します(☆)
  • すると、三角形PQRができます。

ユーリ「はいはい、わかってるって。☆が背理法の仮定でしょ? でも、矛盾はどこにあるの?」

「もうちょっと待って。ここで、直線A上に点R'をとる。ただし、点R'は、直線Lに関して点Rと反対側で、 $$ \TT{QR} = \TT{PR'} $$ になるようにとる」

ノナ「$\NONAQ$」

ユーリ「えっ? 点R'を図に描いてよ」

「こういうことだよ」

点R'

ノナ「二つの三角形$\NONAQ$」

「そう、そうなんだ。《三角形PQR》と《三角形QPR'》を考えてみよう。わかりやすいように三角形二つを切り出して見せるよ」

《三角形PQR》と《三角形QPR'》

ユーリ「あっ、合同じゃん!」

「そうなるよね。《二辺と挟む角が等しい》という合同条件」

ノナ「合同$\NONA$」

「二つの合同な三角形が見つかった! これは強力だよ。ここから何がいえる?」

ノナ「対応する辺と角が等しい$\NONAEX$」

「そうだね。まったくその通り! だから、こんなふうに書くことができる」

《三角形PQR》と《三角形QPR'》は合同

ユーリ「え? どーゆーこと? 対応する角が等しいのはわかったけど」

「点R'と点Pと点Rは直線A上にある。つまり、角RPR'は180度だね。とすると、角R'QRの大きさも180度になるわけだ」

ユーリ「$\ANGLE{RPR'} = \ANGLE{R'QR}$ってこと?」

「そうだね。だから、点R'と点Qと点Rは一直線上にある。ということは、点R'は直線B上にある」

ユーリ「え? 最初から点R'は直線B上にあるんじゃなかったっけ?」

「違うよ。点R'は直線A上の点としたんだ。そして三角形を作るために、R'とQを結んだ。いわば無造作にR'とQを結んだんだけど、三角形の合同を考えると、 点R'と点Qと点Rはすべて直線B上にあることがわかった……となる」

ユーリ「あー……」

「だから、もしも直線AとBに《交点がある》と仮定すると、二点RとR'はどちらも直線A上にあるし、直線B上にもあることになる」

ノナ「おかしい……おかしいです$\NONA$」

「おかしいよね。だって《異なる二直線AとBが、異なる二点RとR'で交わる》ということになってしまったから!」

ユーリ「あっ、これが矛盾?」

「そういうこと。異なる二直線の交点の個数を考えると、交わらない場合は交点が0個で、交わるとしても交点は1個しかない。 つまり《異なる二直線の交点は1個以下である》はずだ。 それなのに異なる二直線AとBの交点が2個あるんだから、 《異なる二直線の交点は1個以下ではない》になる。 矛盾が起きた!」

ユーリ「おー!」

ノナ「$\NONAEX$」

「これで証明が書ける!」

解答2(錯角が等しい二直線は平行)

背理法を使います。

錯角が等しい二直線AとBに交点があると仮定し、その交点をRとします。

すると三角形PQRができます。

直線A上に、$\TT{QR} = \TT{PR'}$となるように点R'をとります。

すると、三角形PQRと三角形QPR'において、

$$ \begin{align*} \TT{QR} &= \TT{PR'} && \text{(点$\TT{R'}$ $\HIRANO{}$ 定義)} \\ \TT{PQ} &= \TT{QP} && \text{(共通)}\\ \ANGLE{PQR} &= \ANGLE{QPR'} && \text{(錯角が等しいという仮定)(1)} \\ \end{align*} $$

が成り立ちます。

対応する二辺の長さがそれぞれ等しく、その二辺で挟まれた角の大きさが等しいので、 三角形PQRと三角形QPR'は合同です。

$$ \TRI{PQR} \equiv \TRI{QPR'} $$

合同な三角形の対応する角の大きさは等しいので、

$$ \ANGLE{QPR} = \ANGLE{PQR'} \qquad\cdots \text{(2)} $$

になります。三点R,P,R'がいずれも直線A上にあることと(1)と(2)から、

$$ \ANGLE{PQR} + \ANGLE{PQR'} = \ANGLE{QPR} + \ANGLE{QPR'} = \KAKUDO{180} $$

が成り立ち、三点R,Q,R'は直線B上にあります。

すると、異なる二直線AとBが異なる二点R,R'で交わることになり、 異なる二直線の交点の数は1個以下であることに矛盾します。

したがって背理法により、二直線AとBは交点を持たないことが示されました。

(証明終わり)

ユーリ「ややこしーけど、おもしろーい!」

ノナ「$\NONAHEART$」

「理由の連鎖をつなげていくのはおもしろいねえ」

ユーリ「『どーして?』をつなげているんだね」

「ああ、そうだね。『どうして?』という《問いかけ》は大事だ」

ユーリ「問いかけってゆーか、答えが大事なんでしょ?」

「もちろん答えは大事だけど、答えだけが大事なんじゃないよ。問いかけに対して、答えようとすることも大事なんだ」

ノナ「いくら質問しても大丈夫$\NONAQ$」

「そうなんだ。『どうして?』という問いかけを封じてはいけない。絶対にいけない。数学で、理由を尋ねる質問はこの上ないほど大切なんだ。 その問いかけに答えようとすること、その質問に答えようとすることが、きっと数学を前進させているんだよ」

ノナ「よかった$\NONAHEART$」

(第310回終わり。第311回に続く)




参考文献

  • 宮原繁『モノグラフ平面図形』(科学新興社)
  • 中学数学教科書『未来へひろがる数学1〜3』(啓林館)
  • 中学数学教科書『新編 新しい数学1〜3』(東京書籍)
  • 中村幸四郎+寺阪英孝+伊東俊太郎+池田美恵(訳・解説)『ユークリッド原論[追補版]』(共立出版)
ノナちゃんとの出会いはここから始まった。あなたも数学トークに加わろう!

ケイクス

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに13巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hokeypokey2012 "みんなが当たり前だと思って話していることについて、自分がわからないときに『それはどうして?』と質問するのには大きな勇気が要るよね。 すごく大きな勇気が要る" https://t.co/Fq6Z0p8LFK 26分前 replyretweetfavorite

10ricedar むじぃ(難しい) でも、おもしろい けど、、、、、、、ムズイ(;_;) 2日前 replyretweetfavorite

Lsdu2DalePerry 「いくら質問しても大丈夫・・・??」 「よかった・・・♡♡」 今週のノナちゃんの言葉である。 3日前 replyretweetfavorite

otobru27 「理由は大事」。これをがっつり叩き込まれるのが数学科というところだと思っている。 4日前 replyretweetfavorite