ほしい」と言えずに「ずるい」と言った

10代の頃にインターネットをはじめた牧村さん。この20年の間にネットの姿は大きく変化していますが、ここ最近、SNS内のあちらこちらで「ずるい」という声をよく聞くようになったそうです。この「ずるい」という言葉の奥底にある欲望について、牧村さんが昔ライブハウスで出会った女の子に想いを馳せながら考えていきます。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。/バナー写真撮影:田中舞 着物スタイリング:渡部あや

まだ大人でも子どもでもなかった頃に出会ったサブリミナルミナちゃんへ

元気ですか?
2020年です。
「2010年宇宙の旅」よりも、未来になってしまいました。

1999年で世界なんか終わっちゃえばいいのにって思っていた、わたしたちは思春期でしたね。学校からはセーラー服を強制され、しかしセーラー服を着ていると変な幻想を抱いた変な大人の変な幻想に付き合わされ、この世が地獄。至急滅びろ。キモい幻想強制すんな。ピュアとか無垢とか求めんな。夜露死苦ゥ。ってなっており、でもそんな内面を表出すると「いい子じゃない」と判断され、何かこの身に悪いことが起こっても「いい子にしていないからだ」ということにされるので、われわれは、いい子そうにしているほかありませんでしたね。護身のために。校則守った黒髪で、心の闇はネットに吐いて。

元気ですか?
2020年です。

セーラー服強制してくる大人全員死ねばいいのにと思いながらセーラー服めがね学級委員をやっていたわたしに、サブリミナルミナちゃん、あなたはそんな名前の名刺をくれました。あなたも黒髪でした。薄暗いライブハウスでした。「サブリミナルって、無差別殺人事件を起こしたカルト宗教が信者洗脳に使っていた手法だよね?」……わたしはそう言いたかった。「うん、人間は知覚に入力された情報によって簡単にハッキングされてしまうようなセキュリティホールぽかんと開けて生きてんだぞってことを忘れないという自戒を込めて名前にしたの」みたいなことを言って欲しかった。でも、そういう会話はあまりにもわたしの脳内フィクションすぎるし、それって結局自分が自分一人では自分でいられなくて自分みたいな子を欲しているだけのやつだし、やめました。恋ではなく古語を歌詞に艶っぽい化粧で歌うヴィジュアル系バンドの演奏に合わせて、暗い暗い香水くさいライブハウスで、サブリミナルミナちゃん、わたしはあなたと同じ振り付けで観客の群れに馴染めれば、それでよかった。言葉を交わしてしまったら、さみしくなってしまう気がして。欲しい言葉が欲しいなら、自分で書けば良いと思って。

元気ですか?
2020年です。

人間の数は
2000年 
60億人
2020年 
78億人

滅びずに、18億人増えました。単純に考えて、土地や家や金や職や水や食べ物を昔よりもよく考えて分け合わないとこれはちょっとやっていかれない増え方です。

そういう中で。

「弱者ヅラで守られて話を聞いてもらえている奴らはずるい。自分だって痛い思いをしながら頑張ってるのに」

こういう声があっちこっちで聞かれるようになってるよなあ、って、思っています。

ずるいよ、女ばっかり守られて
「(乙武洋匡さんに対し)手がない、手がないって偉そうに言うな
みんなの役に立たない人がみんなのお金で生きてるなんて
そうだ、難民しよう!

ずるい、ずるい、ずるい、ずるい。

そうやってインターネットで闇吐いてる人が、あの時のわたしたちみたいに……いや……わたしみたいに、きっと日常生活では良い子やってるんだろうなぁって、そんな気がするんです。

ほしい、ほしい、ほしい、ほしい。

本当は「ほしい」って思っていても、それを「ずるい」って言った方が、ね、”やつらの特権を見逃さない賢い自分”でいられるもんね。”ほしいだなんてわがまま”だって、怒られなくて済みそうだもんね。

でもね、サブリミナルミナちゃん。

「ずるい、って言いたくなったら、ほしい、に言い換えたいですね。本当は自分が何を欲望しているのか自分で内面を見据えて、それを満たしてあげられるように考えた方が、他者から取り上げるのではなくて、自分で作り出す発想で動けると思うんです✨」

……みたいなことをインターネットでご発信なさっている自分に、自分で突っ込みたくなっちゃったの。誰に言うとんねーん、て。ただただ正しいやないかーい、って。インターネットで正しいことを言って称賛されSNSをフォローされたい欲望と直面しないで済むように、サブリミナルミナちゃん、わたしはあなたを思い浮かべて、手紙形式で書くことを選んだ。それにしたって、この記事のSNSでの反応を、きっとわたしは見に行ってしまうんでしょうけれど。

2020年です。

SNSでの影響力がほしい。
雇われず生きていける自由がほしい。
お金がほしい。
承認がほしい。

そうした欲望をフルスロットルでキレイに揃え、わたくしは、インターネットで文章を書いております。これを仕事にしております。日夜エゴサをしております。

すると、わたしが……なんというか記事にも自分自身にも #LGBT タグ付けて書くことから始めたわたしが、これ浴びとることに気づくんです。

「自分には牧村さんみたいに #LGBT とかそういう特殊な人生経験がないから」

だから、インターネットでなにものかになって食べていくことは自分にはできない。でも—。

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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コメント

koukounaries 苦しい。 5日前 replyretweetfavorite

BibiDeFleur cakesだけど良かったら読んで。 私ももうcakesにお金払うのやめたけど、これはフリーだから読んで。 読んで😭😭😭 7日前 replyretweetfavorite

gibbous_leo ▶️ 好きですわ🧡 (詳細は語らない) 7日前 replyretweetfavorite

makimuuuuuu 「お金欲しい」 「承認欲しい」 「影響力欲しい」 「雇われず生きていける自由が欲しい」 インターネットが煽る欲望の話です https://t.co/uLPrrSldvK https://t.co/s42g15HdyX 7日前 replyretweetfavorite