「でも付き合ってはくれないんでしょ」
隣で寝ていた友人にスっと心の距離を取られたような気がして声が出なかった。
同じベッドでこれ以上ないほど友人の体温を近くに感じられるのに、途方も無いほどの心の距離が私と友人の間にはいつからかできていた。
友人は少し中性的な人だった。好きな物は甘いものとおしゃべりと意味の無いライン、どちらかというと小柄な体型で、オーバーサイズのスウェットやTシャツの袖を余らせながらスマホをいじっていた。
大学入学時、私と友人はよく遊びに行った。
友人は中高六年間女子校だった私にとって初めてできた異性のともだちだった。
毎週のようにあるガイダンスや新歓の合間をぬって、オムライス、パンケーキ、チーズダッカルビ…そんな誰と行ってもおいしいような料理をわざわざ友人と食べに行った。
ご飯を食べたあとは公園によく行った。 ある日友人は公園を歩きながら、理想の家庭像について語っていた。それは家族仲のいい友人らしい、幸せな夢だった。
日が暮れて初めて、随分長い間がたったのだと知るのが常だった。
いつものようにベンチに座り、そこで、初めて友人の口から私への気持ちを知った。
それまで私は友人の話す理想の家庭像に自分が含まれていたことを知らなかった。
友人は今まであった人間の中で一番性格が合うと感じていたが、小ぶりな顔のパーツで構成された地味な顔立ちは当時の自分には少し物足りなかった。
だから、友達のままでいたいと伝えると、友人は分かりやすく肩を落とし、まつ毛を伏せた。 泣いていたのかもしれない。
それからも友人とは会い続けた。 色々なところへ行った。
そのあともう一度だけ同じ公園で告白された。
夜の公園はもう肌寒くなっていた。季節が変わっても友人は好きでいてくれたのだ。
そんな関係は私がサークルの先輩と付き合い始めるまで続いた。
友達伝いに彼氏が出来たことを知ったらしい友人は、 あの夜告白を断った時のように眉を顰めながら、数々の私の今までの私の行動を列挙しながら、
「ずるい、ぜんぶ嬉しく思っちゃってたよ」
と責めるような口調で言われた。
それが友人とのその年最後の会話になった。
背が高く、容姿のいい先輩は彼氏として見栄えが良かったが、精神的に弱い人で、束縛の激しさに根を上げて三ヶ月で別れてしまった。
その後先輩とはサークル活動で一緒になっても一言も言葉を交わせなくなってしまった。
付き合う前はあんなに尊敬でき、付き合ってからは一番近しい人だったのに別れたらこんなにも遠くなってしまうのか。
今後本当に大事な人とは付き合うことはやめようと心に誓った。
友人を傷つけたという罪悪感から彼と別れてからもずっと連絡をとっていなかったが、たまたま学祭で再会してからまた連絡をとるようになり、トントン拍子で会うことになった。
久しぶりに会った友人の耳元にはピアスが開いていた。
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