衣被・きぬかつぎ——小さい里芋を洗って茹でるか蒸すかして、半分だけ皮を剥ぎ取った食べ物。上部にごま塩などをつけて、残りの皮から中身を押し出すようにして食べる。呼び名は平安時代の女性が外出時にまとったという「衣被ぎ」に因む。
毎年必ず一回は作るけど、二回以上は作らない食べ物、それが衣被です。もちろん、食べたいから作るわけですが、里芋をきれいに洗うのってけっこう面倒くさいんですよね。普通のサイズだったらまだしも、小さくてコロコロしたのを一個一個洗っていると、それだけで二十分くらい経ってしまう。
だったら大きいのを洗って、皮を剥いて、一口サイズに切っちゃえばいいじゃん、と思うでしょ。はい、数年前に試しました。皮を衣に見たてているのだから、それじゃ「衣被」にならないわけですが、私としては食べておいしければそれでよい。ところが、やっぱりダメなんです。まず皮を剥いた状態で蒸すと、里芋のヌメヌメが蒸し器全体を覆い尽くしてしまう。里芋本体も蒸気でベッタリ、あのほこほこした食感が楽しめない。芋の味も、大きいやつは若干えぐいというか、小さいのとはちょっと違うような気がします。
蒸した後で半分だけ皮を剥ぎ取るというのも、なかなか技術が要るようで、私はあまり成功したことがありません。皮と一緒に中身を押し潰してしまったり、皮がブチブチ切れてしまったり。料理書によると、蒸す前に外側からぐるっと一周切れ目を入れて、上部を指でつまんで剥ぎ取る、というのがセオリーなのですが、火加減の問題でしょうか。
ちなみに今年は天と地を包丁で落として、指と口でくるっと皮を剥ぎ取りながら食べるというやり方を試してみました。だから、下に載せた写真も、あまり正しい衣被とは言えません。
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