第309回 読むための対話:理由を求める問いかけ(前編)

どうやったら証明問題ができるようになるのかと悩むノナちゃん。「僕」は何と答える?……あなたもいっしょに考えよう!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

ノナユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。

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ノナユーリの三人は、図形の証明問題を題材にいろいろおしゃべりをしている(第308回参照)。

新たな問題へ

ユーリ「お兄ちゃん、他の問題出してよ」

「他の問題?」

ユーリ「ほれほれ、ノナも退屈しているし」

ノナ「退屈してないよう$\NONA$」

「うーん……じゃあ、『三角形の外角は、その外角と隣り合っていない二つの内角の和に等しい』ことを証明してみようか。 具体的に書くと、こういう問題」

問題

図のように、三角形ABCと点Pがあります。

このとき、角ABCと角CABの大きさの和は、角ACPの大きさに等しいことを証明してください。


ユーリ「にゃるほど! 簡単じゃん。あのね……っとっと」

ユーリは自分の考えを言いかけて、口を閉じる。

たぶん、ノナに考えてもらうための配慮をしたんだろうな。

「ノナちゃんは、この問題はどうかな?」

ノナ「読んでる……読んでます$\NONA$」

ノナはそういって、問題を何回か読み返す。

読みながらノナは図を指でなぞっていく。

「ノナちゃんは偉いね」

ノナ「$\NONAQ$」

「問題文に出てきた文字が、どの点に対応するかきちんと確かめているからだよ」

ノナ「読むの遅いです$\NONA$」

「なるほど。でも、遅くてもきちんと読むのは大事だよ。きちんと読めるならスピードを上げる練習をするのもいいけどね……ところで、この問題はわかった?」

ノナ「はい$\NONA$」

ユーリ「じゃ、ユーリしゃべってもいい?」

「ユーリはもう証明までわかったの?」

ユーリ「わかってるよん。完璧さ!」

「完璧だったら、ちょっと待てる? 先にノナちゃんの話を聞いてみよう。はい、ノナちゃん。どんなことを考えたか教えてください」

ノナ「こことここを足したのが……ここ$\NONA$」

ノナは、《ここ》と言いながら、図のあちこちを指さした。

「うん、いまノナちゃんは《証明すべきこと》が何かを言ったんだね」

ノナ「結論$\NONAQ$」

「そうそう! そうだね。結論だ。『この問題で、証明すべきことは何ですか?』と問いかけられたら、 『角ABCの大きさと、角CABの大きさを足したら、角ACPの大きさに等しくなることです』と答えればいい」

ノナ「確かめました$\NONA$」

「うん、問題文を読みながら図との対応を確かめるのは大事だね」

ユーリ名前つけてもいーよね?」

ノナ「$\NONAQ$」

ユーリ「対応いちいち確かめるの、めんどーじゃん。小文字で$a,b,c,p$って名前を書いちゃおーよ」

「それはいいアイディアだね。角の大きさに$a,b,c$という名前をつけるってことだよね。頂点の名前に合わせて」

ユーリ「そーだよー。それから角ACPは$p$ね」

「ユーリは、こう考えたんだね」

  • 角CABの大きさを$a$とする。
  • 角ABCの大きさを$b$とする。
  • 角BCAの大きさを$c$とする。
  • 角ACPの大きさを$p$とする。

ユーリ「そーすると《証明すべきこと》は、$$ a + b = p $$ になった! カンタン!」

ノナ「$\NONAQ$」

「ユーリが言ったこと、ノナちゃんには伝わった?」

ノナ「はい$\NONAX$」

ノナは『はい』と言ったけれど、どうも何か引っかかっているように見える。

それは、彼女の自信なさそうな声でわかる。

彼女はまだ、どこかの《迷いの森》を歩いているのだ。心の中にある《迷いの森》を。

は、心の扉をノックする。また《先生ノナちゃん》を呼び出さなくては。

「(コンコン、コンコン)」

ノナ「まだ……わかってないみたい$\NONA$」

おお、反応が早い!

ノックの音だけで、ノナは自分の状態が言えるんだ!

「どのへんがわかってないみたい?」

ノナ「エー、ビー、シー、ピーって決めていいの$\NONA$」

ユーリ「定義は自由だよー。何でも定義すればオッケーだよー。だよね?」

「そうだね。『角CABの大きさを$a$とする』のように、文字を定義するのは自由にやっていいんだよ。それで考えやすくなったり、まちがえにくくなったりするならば、すごくいいこと。 物事がはっきりすることは、どんなことでも大歓迎なんだ」

ノナ「書かれてなくても$\NONAQ$」

「たとえ問題文に書かれていない文字でも使っていいよ。自分で文字の意味を決めればね。 違うものに同じ文字を当てはめたりしてはダメだし、 あいまいな決め方をしてはダメだけど、 話がはっきりするならば、自由に決めてかまわない」

実際、そうなのだ。

高校の授業で、長い証明を書くようになって特にそれを感じる。 適切に文字を定義するなら、書く量が激減することだってある。

長い式を一文字で表せば転記ミスも減るし、書く時間も減る。式のまとまりが見やすくなることも多い。

それから……自分で文字を定義して書くことを身につけてから、教科書や参考書を読むときの意識も変わった。

本の中でどんな文字を使っているか、 どんな定義をしているかを意識するようになったんだ。

自分で考えて書くことは、誰かが書いたものを読むことにもつながっていて……

ユーリ「……ってもいーの? ねー、いーの?」

「え、ごめん。何だって?」

ユーリ「ユーリの証明、もう話してもいーの?」

「ノナちゃんに聞いてみようよ」

ユーリ「ユーリの証明、話しても大丈夫?」

ノナ「教えて$\NONA$」

「じゃあ、ユーリ先生、お願いします!」

ユーリ「あいよ」

ユーリの証明

ユーリの証明

角CAB,角ABC,角BCA,角ACPの大きさをそれぞれ$a,b,c,p$とする。

三角形の内角の和は180度だから、 $$ a + b + c = \KAKUDO{180} \qquad \cdots\cdots\text{(ア)} $$ である。

また、 角BCPの大きさは180度だから、 $$ c + p = \KAKUDO{180} \qquad \cdots\cdots\text{(イ)} $$ である。

(ア)と(イ)から、 $$ a + b + c = c + p $$ がいえて、 $$ a + b = p $$ が成り立つ。

したがって、 角ABCと角CABの大きさの和は、 角ACPの大きさに等しい。

(証明終わり)

ノナ「$\NONA$」

「なるほど。三角形の内角の和と、平角の大きさがどちらも180度であることを使ったんだね」

ユーリ「カンタン、カンタン!」

ノナ「$\NONA$」

「ノナちゃんはわかった?」

ノナ「合同は……合同条件は使わないんですか$\NONAQ$」

ユーリ「使わないよん。使う必要ないし」

ノナ「難しい……難しいです$\NONA$」

ユーリ「カンタンだよー。三角形の内角の和は180度じゃん?」

ノナ「わかってるよう$\NONA$」

ユーリ「それから直線になってる角は180度だし! 図を見ればわかる」

ノナ「難しいもん$\NONAX$」

ユーリ「カンタンだって!」

ノナ「ユーちゃんみたいにtmykns……やっぱり、難しい$\NONAEX$」

「いやいや、二人ともちょっと待った。難しいかどうか、簡単かどうかを言い合ってもしょうがないよ。ノナちゃんは、ユーリの証明を理解できているし、 そこに出てきた三角形の内角の和や、平角のことも理解しているようだよ」

ユーリ「そーなの?」

ノナ「わかってるよう$\NONA$」

「えっとね、ノナちゃんが《難しい》といってるのは、どういう意味だろう」

ノナ「$\NONAQ$」

「ノナちゃんは『難しい』という言葉を《外》に出してくれた。僕たちにはその言葉がちゃんと聞こえた。では、そのときノナちゃんの《中》にはどんな気持ちが動いていたのかな? いったい何を難しいと感じたんだろうね?」

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この連載について

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに13巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

Lsdu2DalePerry 「うれしい・・・うれしい理由??」 「理由は大事!!」 今週のノナちゃんの言葉である。 12日前 replyretweetfavorite

kusoposi 実のところ(大学入試までの)数学の問題は、だいたいパターン化できるから、… https://t.co/mbFWqKmQOO 12日前 replyretweetfavorite

StoneDot 今回の秘密のノートは、考える・学ぶということがどういうことか教えてくれる神回! 一歩深く考えることで、他の問題にも使える武器を手に入れることができる。いつの間にか学ぶ際に意識し始めたことを物語から再確認させてくれる。 https://t.co/rzg3i0c5Ik 12日前 replyretweetfavorite

tsatie 今回も当然ながら楽しく面白く興味深かった。図形といえば補助線。どないしてそん… https://t.co/tJVLvwhkZt 12日前 replyretweetfavorite