​コロナ禍での保育園の行事には参加すべき?!

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装が趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた……。今回は、仙田さんが1ヶ月以上悩みに悩んだ末に、コロナ禍のもとで行われた保育園の行事への参加を断念した顛末について語ります。

親の思う「こうさせるべき」と子どもの意思


写真ACによるFineGraphicsさんの写真

子育てをしていると、親が「こうさせるべき」と思うことと、子どもの意思とが対立してしまうことがある。
どちらを優先するべきかで悩むことになるわけだが、私は基本的には子どもの意思よりも親が「こうさせるべき」と思うことのほうを優先させるべきだと考えている。
というのも、子どもには見えていない風景が親には見えていることが多々あるからで、「谷の向こう側に咲いている花を摘みたい」と子どもが走りだした場合、谷底に落ちないように抱きとめるのも親の役割だと思うから。
もっとも、それは子どもが小さいうちの話で、遠くまで見通せる年齢になるにつれて親の「こうさせるべき」より子どもの意思を尊重するようにと軸足を移していかなければならないのだろうが。

つい最近も、その二者択一を迫られるような出来事があった。
次女の通う保育園でお泊り保育の行事があり、参加させるかどうかを1ヶ月近く悩んだのだ。
きっかけは、次女と同じクラスの子のママさんとこんな会話を交わしたことだった。

—お泊り保育行かせるの?
—行かせる気満々だけど……?
—そうなんや! 悩んでる保護者けっこういるよ。
—ん? 何を悩んでるの?

お泊り保育とは、次女を通わせている保育園のいわば伝統行事だ。
毎年6月に行われ、年長組の子どもたちが保育園のなかで1泊するというもの。
1週間前から子どもたちは準備に入る。
お泊りの日に皆でカレーを作って食べるのだが、それにあたって各家庭のカレーの作りかたを発表したり(事前に親が紙に書いて提出する)、テントの建てかたを練習したり。

当日になると、子どもたちはリュックサックに着替えやパジャマなどを詰めて登園する。
そして午前中のうちに、先生と一緒にスーパーまで食材を買いにいく。
午後からその食材を使って3つのチームに分かれた子どもたちは、それぞれの家庭の味を参考にした3種類のカレーを作るのだ。

夕方6時に、年長組の保護者は保育園に行き、子どもたちに合流する。
そしてチームごとに分かれて親子と先生たちとでカレーを食べ、園庭でキャンプファイヤーをしたりゲームをしたりして遊ぶ。
8時頃に保護者は帰り、子どもたちは園内を探検したり、絵本を読んでもらったりした後に、チームごとに分かれてテントで眠る。
翌朝は近所を散歩して、ホットプレートで焼いたクレープを園で食べて、テントを畳んでお開きとなり、10時頃に保護者が迎えに行く。

創立30年以上になる保育園で、年長組の6月になると代々行われてきたという行事だ。
12月には園ではなく、別の場所に子どもたちと先生だけで遠足に行ってお泊りをするのだが、その予行演習的な意味あいもあるらしい。
はじめて親から離れてひと晩を過ごす経験になる子も多く、泣いてしまう子もいるらしいが、長女はとてもいい思い出になったようで、2年生になったいまでもその日のことを話すことがあるほどだ。
今年は新型コロナの影響で、6月の予定が延期になり10月に開催されることになった。

コロナ禍のもとでの保育園行事


写真ACによるズーさんさんの写真

何を悩んでる人がいるの? という私の問いに、ママ友はこう答えた。
—だってコロナやし……。
私ははっとした。
集団でカレーを食べて寝泊まりする状況は、確かに感染リスクをともなう。
そして私は日頃から、そのようなリスクをできるだけ避けて暮らしていた。

今年の3月以降、外食は1回しかしていないし、電車に乗って街にでることも2、3回しかしていない。
去年は毎月のように近所の子どもたちやママ友たちと遠出したり食事に行ったりしていたが、それも全くしていない。
仕事は完全に在宅でできるように整理したので、ほぼ家と保育園とスーパーを往復するだけの日々を送っている。

それなのに飲食や宿泊をともなう保育園の行事があることをスルーしていたのは、保育園に絶大な信頼を寄せていたからだと思う。
友達も知りあいもほとんどいない京都に引っ越して、シングルファーザーとして子育てを始めたとき、大きな支えになってくれたのがこの保育園だった。

保育士さんの多くはベテランで、途中入園した子どもたちのことをとても丁寧に見てくれたし、どんな相談にも乗ってくれた。
半袖半ズボンに裸足で園庭を走り回り、裏の畑で育てた野菜を収穫して食べるという生活を続けるうちに、子どもたちはほとんど風邪を引かなくなり、友達がたくさんできた。

いわば私たち親子が新しい土地で根を張って暮らしていくための手助けを保育園がしてくれたのだ。
保育園の体制や決定には疑問を抱いたことがなかったし、誰かに説明するときにも「本当にいい保育園で」と形容していた。
—この保育園のやることはすべて善いことだ。
と思いこんでいた私にとって、お泊り保育に子どもを参加させるかどうかを悩んでいる保護者がいるという事実は、にわかには理解できないことだった。

だが、コロナ禍のもとで飲食や宿泊をともなうイベントに子どもを参加させたくないという考えそのものには、むしろ共感さえできた。
この状況はどう捉えればいいんだろう?

子どもの気持ちを考える?

—これまで信頼を寄せてきた保育園の決めたことなんだから、何か根拠があるはずだ。
—いや、コロナの感染リスクについては誰にも根拠なんて示しようがない。感染リスクと経済的その他のリスクを天秤にかけてその都度判断していくしかないことで。
—いやいや、保育園の行事は経済活動ではないし。っていうか、万が一感染者がでた場合、2週間は休園措置が取られることになって、保護者は仕事を休まないといけなくなる。そっちのほうが経済的リスクになるのでは。

考えれば考えるほど、わけがわからなくなってきた。
そこで、担任の先生に聞いてみた。

—こういう不安があるんですけど、保育園としてはどう考えておられるんですか?
—感染対策はちゃんとするよ。買い出しは職員だけで行くし、調理も職員がするし。カレーを食べるときもゲームをするときも、家族ごとに離れて座ってもらうしね。テントで寝るのはなしにして、ホールに布団を敷いて、距離を取って雑魚寝する形になるし。

要するに、感染対策を取って、例年とは違う形で行うという説明だった。
だが、私には納得できなかった。

—いくら距離を取ってても、食べるときにはマスク外すし、子どもたちがいればつい近づいたり、大きな声をあげたりすることもあるだろうしな。大人だけの会食でもクラスターは発生してるし。万が一のことが起こった場合、年長組だけの行事が原因で園全体が閉まることになるから、他のクラスの人たちにも迷惑がかかる。
—そもそも、そこまでしてカレー食べる必要があるのか? 保護者が参加する必要があるのか? 子どもたちと先生だけで開催されるなら、通常保育のときと同じ状況だからリスクの度合いは変わらないが、「保護者×カレー」はどう考えてもリスクを高めることにしかならないのでは。

考えているうちにまたもやわけがわからなくなった私は、ふたたび先生に話しに行った。

—やっぱり、カレーと保護者の件が気になって……。
—そっかー……お父さんの気持ちもよくわかるし、私らもこれが正解かどうかはわからへん。でも、子どもたちにとっては最後の年やし、大事な経験はさせてあげたいと思ってるねん。子どもたちの気持ちも考えてあげてな。

お泊り保育より楽しいことをします

子どもたちの気持ちを、と言われて私は返答に困ってしまった。
普段からなるべく子どもの意思を大切にして、好きなことややりたいことを形にできる人になってほしいと思いながら子どもたちと接しているからだ。

とはいえ、まだ保育園児の次女がひとりでバスと電車を乗り継いで遊びに行きたいと言いだせば止めるだろう。
「好きなこと」「やりたいこと」を叶えるうえでリスクが生じる場合、そのリスクを見積もったり避けたりすることができない年齢のうちは、親が代わりに正しい選択肢を選ぶべきだと考えるからだ。

ただ、今回のお泊り保育に参加させることが、バスと電車を乗り継いで遊びに行くことに比べてリスクが高いのか低いのかがわからない。
たとえば5軒先にある友達の家にひとりで遊びにいくことにもリスクはないわけではないが、きわめて低いと思われるので目をつぶっている。
お泊り保育のリスクの高さはどの程度に見積もればいいのだろう?

決断をどうしてもつけられなくなった私は、年長組のグループLINEに考えを書いてみた。

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女装パパが「ママ」をしながら、家族と愛と性について考えてみた。

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sendamanabu cakesの連載。今回は、コロナ禍のもとで開催された保育園の行事にうちだけが欠席したことから、子どもの意思と親の「こうさせるべき」との関係について考えました。 https://t.co/hNrTlAdBhP 14日前 replyretweetfavorite

rtogai 小さな子を育てる親たちが直面するリアルな問題。 コロナ禍での保育園の行事には参加すべき?! |仙田学 @sendamanabu | 14日前 replyretweetfavorite