天下無敵

歌手、女優、そして作家として独自のキャリアを重ねているCoccoさん。最新エッセイ集『東京ドリーム』(ミシマ社)の10/25(金)の発売に先駆けて、収録作品を先行公開。最終回は、エッセイ集のテーマでもある「夢」について。いくつになっても「夢」は世界を変えてくれるのです! cakesではCoccoさんの独占インタビューも同時公開しています。あわせてお楽しみください。

 バレエのことについて書くのは容易なことではない。バレエに夢中だった青春時代。それはまだ想い出にもできないほどの生々しい輝きを放って、今なお私を打ちのめし、魅了し続ける「夢」そのものだからだ。

 生後七カ月で立ち、そしてすぐに踊り出したという私は、いつでもどこでもとにかく踊っている賑やかな子供だった。私に対する初対面の印象を「踊っていた」と古い友人たちは皆口を揃えて言う。

 自己流の怪しい踊りを一日中一人でひたすら楽しむ。ついでに歌も口ずさむ。日に日に踊りはヒートアップ。私のあまりの不可解なムーブメントを案じた母親が、病院に連れて行くべきか悩んだという笑い話もある。

 たとえば、アイドルや映画スターのダンスを真似るという一般的な衝動だけでは飽き足らず—両手を広げて空を仰ぎ、首をぐるぐる回す、どんどん回す。遠心力で体も揺れる、もっともっと揺らす、空に通じる、倒れこむ、そのまま地面をのたうち回ってぐるんぐるんと転がる。気が済むまで転がる。やがて目を回してパタリと動かなくなる。心配した大人が抱き起こそうとすると、パッとバッタのように跳ねて、直立。今度は静かに体をくねらせて蛇のようにくねくね。手首を九〇度カクンと曲げる、肘をカクン、膝をカクン、そしてまたくねくねと伸び縮みをくり返す。一日中、全くそんな調子だった。

 真っ青な空から太陽がジリジリと照りつける日のことだ。学校でのテスト中、頭の中に音楽が鳴り響き、それに合わせて踊り出したことがある。カンカンに怒った先生に連行された職員室でも音楽は鳴り止まず、制止を振り切って最後まで踊った私はナチュラルボーン変人ダンサー。言うまでもなく問題児だった。

 自己流ダンサーだった私が、念願のバレエ教室に通わせてもらえたのは小学校六年生の秋だった。バレエを志す者にとっては遅いスタートだということはわかっていたから、私はクラスの誰よりも貪欲にレッスンに取り組んだ。どうにかレッスン日を増やしてほしいと先生に直談判じかだんぱんして、毎日レッスン場に入り浸り、それこそバレエ漬けの数年を過ごした。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
東京ドリーム

Cocco

歌手、女優、そして作家として独自のキャリアを重ねているCoccoさん。最新エッセイ集『東京ドリーム』(ミシマ社)発売に先駆けて、収録作品を先行公開。歌を歌うこと、子供を育てること、人を愛すること、日々生活を営むこと、東京という街で働く...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

acrylica_yoko Cakesに連載してるCoccoのエッセイ、今気付いたんだけどバレエに対する彼女の思いの強さに初めて触れて本当に涙が出る。私も今日も明日も踊ろう。https://t.co/5VHSDPmN3a 4年以上前 replyretweetfavorite

coconut_tarte そんな想いに溢れた舞台だったんだね。見たかったな…♡ 4年以上前 replyretweetfavorite

moatjiang88 今回の記事は特に良い。「憎しみで表現できることもある」と唄った彼女の思いが昇華されていくよう。/ 4年以上前 replyretweetfavorite