私が弱気になったとき、紙に書いて貼り出し、声に出して唱えてきた大切な詩があります。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」です。
雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けぬ、丈夫な体を持ち、欲はなく、決して瞋(いか)らず、いつも静かに笑っている。一日に玄米四合と、味噌と、少しの野菜を食べ、あらゆることを自分を勘定に入れずに、よく見聞きし分かり、そして忘れず、野原の松の林の陰の小さな萱葺(かやぶ)きの小屋にいて、東に病気の子どもあれば、行って看病してやり、西に疲れた母あれば、行ってその稲の束を負い、南に死にそうな人あれば、行って怖がらなくてもいいと言い、北に喧嘩(けんか)や訴訟があれば、つまらないからやめろといい、日照りのときは涙を流し、寒さの夏はおろおろ歩き、みんなにデクノボーと呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず、そういうものに私はなりたい。
学生時代も、僧侶になってからも、批判されたり中傷されたりしたときはいつもこの詩を唱えてきました。特に他人からの評価が気になってしまうとき、この詩に救われたものです。「私は愚かで最低のデクノボーだ。バカなんだからバカと呼ばれてもいい。でも、デクノボーであっても生きている以上、自分ができることはちゃんとやろう」 そうやって自分を最低辺に置いてしまえば、どんなバッシングも気にならなくなります。
「そう、あなたの言うとおり。私は最低ですよ」「おっしゃるとおり、私は愚か者です」と受け流せるのです。 もともとどん底にいるのですから、それ以上落ちることもありません。デクノボーなりにコツコツできることを続けていくのです。
法華経というお経の中に、常不軽菩薩(じょうふきょうぼさつ)という菩薩様が登場します。他人からの批判や誹謗中傷に決して反論することなく、腐ることもなく、淡々と自分の修行をやり続けたという菩薩です。
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