純猥談

セミダブルはこんなに広かったっけ、

セフレと食事に行ってはいけない。セフレと映画を見に行ってはいけない。
安定した気楽な関係を続けたければ、馴れ合いのまま感情的に深入りしないことだ。


「正しい歯ブラシの持ち方、知ってますか?」

さっきセブンで買ったばかりの歯ブラシの袋を開封しながら、私は、20年以上も間違った磨き方を続けていたことを歯医者に指摘された話をする。

「グーで握って、腕全体を動かすのはダメなんですって。力がかかりすぎて、満遍なく磨けないの」

「当たり前だよ。そんなの野蛮人の磨き方じゃん」

彼が鼻で笑って言った。

こちらにとっては、衝撃の新事実なのだが。
ごく自然にペングリップの持ち方で歯を磨く彼の佇まいは、なるほど洗練されて見える。

つっけんどんでスノッブな物言いのくせに、笑うと目元がクシャッとして無邪気な感じがするのが、ズルい。

なんてことない仕草に心をくすぐられるのは、私がすっかり酔っているからだろう。


この家で寝るときには、新しい歯ブラシを買って来て、持ち帰らなければならない。
ストックはないし、置いて行くと掃除に使って捨てられる。

だからウチの歯ブラシは、彼の家に泊まるごとに新しくなるのだが、それが歯医者の推奨する月1回程度のペースと合っていて、ちょうどいいのだ。

毎月8日は「歯ブラシ交換デー」だと、病院に掲示されていた。

「じゃあ、歯ブラシがボロくなったらおいで」

おきまりの、受動的な誘い文句。

こちらが行く意思を示さない限り、向こうから声がかかることはない。

休日前、都心で終電まで飲んだ帰り、私は自宅最寄りの一駅手前にある彼の家に寄ってもよいか、LINEする。

いいよ、がすぐに返ってくるとき、彼もまたどこかで飲んでいて、私と同じくらいには酔っているのだった。

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純猥談 編集部

誰もが登場人物になったかもしれない、現代の性愛にまつわる誰かの体験談が純猥談として日夜集まってきています。様々な状況に置かれた人たちから寄せられた3000件を超える投稿の中から、編集部が選りすぐった傑作を公開していきます。

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