後編】棋士と将棋ソフトは、どちらも強くなり続ける

ついに、来年おこなわれる第3回将棋電王戦の出場棋士が発表されました。第2回将棋電王戦のコンピュータ側の3勝1敗1引き分けという結果を見て、人間はもうコンピュータに勝てなくなると悲観した人も多いのではないでしょうか。ところが、電王戦第2局に登場した将棋ソフトPonanza(ポナンザ)の開発者山本一成さんは、「人間の方はやっぱり手強い」といいます。コンピュータ将棋の長所や短所、そして今後について、将棋好きでプログラミング経験もあるcakes編集長の加藤貞顕が聞きました。

強くなったかどうかは、何千局も対戦しないとわからない

加藤 コンピュータ将棋ソフトを開発していて、おもしろいところといいますか、やりがいはどんなところにあるんですか?

山本 そうですね、普段はしんどいことばかりですが、やっぱり強くなるとうれしいんですよね。自分の棋力を超えたときは感動しました。なんというか、我が子に抜かれた感じというか……。自分が制作したものに能力で超えられるというのは、初めての経験でしたからね。当時、それまでの人生で一番努力してきたことは将棋だったから、そこで超えられるというのは悲しいところもあり、なんとも言えない感じでした。もう今は対戦したらほぼ負けるので、Ponanzaとはあまり指しません(笑)。

加藤 開発において大変なのはどの部分ですか?

山本 改良しても、棋力が上がったのかどうかがすぐにわからないところです。Ponanzaが自分よりだいぶ強くなってしまったので、自分で測るのは無理なんです。そこで、改良前のプログラムと対戦させて調べるのですが、何百局、何千局と対戦させてみないとわからない。開発コストの3〜4割はここにかかっているといっても過言ではありません。

加藤 なるほど。強さの検証がボトルネックなんですね。

山本 Aを改良してBに、Bを改良してCというプログラムを書くとしますよね。そして、CとAを戦わせたら、Aの方が勝率よかったりするんです。そんなときはもう、がっかりします(笑)。プログラムの気持ちになれないというか……将棋指しとして、こうしたら絶対良くなると思って調整しても、意外と強さに関係ないこともあります。改良前に比べて勝率が55%くらいになればいいほうで、80%を超えるような改良は、1年に1回あるかないか、といったところです。

加藤 たしかに、強くなったかどうかは、勝率で判断するしかないですよね。

山本 そうです。第2回電王戦の反響を見ていて思ったことなのですが……誤解を恐れずに言うと、みなさん1回の対局で結論を求めすぎだと思います。本当に相手より強いことを示すためには、五番勝負や七番勝負では全然足りません。Ponanza対Ponanzaで対戦させても、同じ強さのはずなのに片方が10連勝したりするんです。100試合くらいで、やっと本当の強さを評価できるかなという感じです。

加藤 1回勝ったからといって統計的に有意ではない、ということですね。なるほどなあ。たしかに、チェスの世界タイトルマッチは20番勝負とか、すごく多い数を対局したりするんですよね。それくらいじゃないと差がちゃんと測れないということで。

山本 私も将棋を指すので、人間がここ一番の勝負で一喜一憂する気持ちはわかります。電王戦もお祭りとして盛り上がるのはいいことです。ただ、一局の結果で、強いとか弱いとか決めつけるのは良くない。例えば、第1局で阿部光瑠四段に負けた「習甦」というソフトは、ネット上で「弱い」とたたかれていました。でも、阿部四段と習甦の名誉のために言いますが、習甦は決して弱くありません。コンピュータ将棋は、勝つときはすごく強そうに見えますが、負けるとめちゃくちゃ弱そうに見えるんですよね。

加藤 第1局は、阿部四段がうまく習甦の弱点をつきましたよね。

山本 そうなんですよ。習甦の開発者の竹内さんは、対局前にソフトを貸し出していましたからね。私は、事前にソフトを貸して、そこから修正を加えなかったら必敗だと思っています。だから貸しませんでした。

加藤 電王戦は今後、ルールをどう決めるか議論が進むんでしょうね。チェスの世界チャンピオンとIBMのチェス専用スーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」の対戦時も、ディープ・ブルー側が五番勝負の途中で評価関数を変えてきて、カスパロフが戸惑ったというエピソードがあります。

山本 コンピュータと人間の勝負は、異種格闘技戦みたいなもので、なにを公平とするかは難しいですよね。事前のルールの決め方が、かなり勝敗を左右してしまうところがあります。

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コンピュータ将棋ソフトはどこまで強くなるのか? —山本一成×加藤貞顕 対談

山本一成

2013年の3月から4月にかけて、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが5対5の団体戦を繰り広げました。第2回将棋電王戦です。この勝負で、3勝1敗1引き分けと、将棋ソフトはプロ棋士に勝るとも劣らない強さを見せつけました。近年のコンピュータ...もっと読む

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コメント

yaiask そのまたつづき。たぶん6時間くらいは無料で読める→ 4年以上前 replyretweetfavorite

thewasan @yaneuraoh 昨年、http://t.co/fT5j5ZVtMy で山本一成さんは「強くなったかどうかは何千局も対戦しないとわからない」と言っているので、磯崎さんが修正後試運転での数百局高い勝率にも結論出せず、今回プロ棋士に言われて強さ確信(奇跡)発言は一定の理解はできる 4年以上前 replyretweetfavorite

shogi_pineapple 私も将棋を指すので、人間がここ一番の勝負で一喜一憂する気持ちはわかります。電王戦もお祭りとして盛り上がるのはいいことです。ただ、一局の結果で、強いとか弱いとか決めつけるのは良くない。(山本一成)https://t.co/o8lFAWGO0o 4年以上前 replyretweetfavorite

kapibaku ソフト開発者の本音が聞けて面白い。5番勝負などではコンピューターの実力はまだまだ分からない。100局ぐらいやってようやく分かるというのはなるほどなと。 5年弱前 replyretweetfavorite