自分」×「仕事」がミスマッチしてると感じたら

ここはカフェ「しくじり」。限られた客のみが入店できる会員制のカフェ。ここでの通貨はしくじり。客がしくじり経験談を披露し、その内容に応じてマスターは食事を振る舞う。 マスターの小鳥遊(たかなし)は注意欠如・多動症(ADHD)の傾向を持ち、過去にたくさんのしくじりを重ねてきた。しかし“ある工夫”で乗り越えてきた不思議な経歴の持ち主。過去の自分と似た「会員」のため、今日もカウンターに立つ。 そんな奇妙なカフェのお話。

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(カラン、コロン〜♪ カラン、コロン〜♪)

りんだ 「……小鳥遊さん、私わかりません。仕事ってなんですか。ねえ人生ってなんですか」

小鳥遊 「いらっしゃいませ、りんださん。今日はしくじりオーラがひときわすごいですね」

りんだ 「今回はしくじりというか……頑張っているのに、自分自身を否定されちゃった感じがして。もう私、山にこもって木彫り職人に弟子入りでもしたいです」

小鳥遊 「穏やかではないですね。何があったのか、じっくり聞かせていただきますね」

****

りんだ 「3ヶ月前くらいに、課長からの指示で、サーキュレーターをレンタルして社内の各所に設置したんです。社長の思いつきで『すぐやれ』っていわれて。私、瞬発力はあるのでとにかくレンタル会社さんに電話かけまくって、すぐに手配したんです。今日はそのサーキュレーターの返却日だったんですよ」

小鳥遊 「社内の備品管理ですか。私も会社員時代やりました。懐かしい…」

りんだ 「そうだったんですね。私、ただ受け取って各フロアの良さげなところに置いて、スイッチを入れたんです。で、3ヶ月電源入れっぱなしで放置を……」

小鳥遊 「放置ですか。それだけ電気代がかかってしまいますね。普通だったら、付近の部署に担当者を決めてもらって、電源のオンオフとかしてもらいますよね」

りんだ 「そうなんです! 先輩にそうしろって言われたのをすっかり忘れてしまったんです……でも言われなくても『普通』はそうするんですよね、きっと……私、世の中で言う『普通』が全然できないんです。普通なこともできない私の人生…どうしたらいいのか。ねぇ小鳥遊さん! どうしたら!?」

小鳥遊 「いえいえ、これは大変失礼しました。軽々しく『普通』だなんて言って申し訳ありませんでした。個性的な魅力があるりんださんにはふさわしくない言葉でしたね」

りんだ 「そういってもらえると、ちょっと気が楽になります。でも話には続きがあって、実は今日が返却日だということも忘れてしまっていたんです」

小鳥遊 「なかなかシビれる展開ですね」

りんだ 「それであわてて回収したんですけど、最後の1個がなかなか見つからなくて。どこに設置したかをメモしてなかったんです。 回収会社の方が来ているのに『もうちょっとお待ち下さい!』と謝りながら、必死に探し回りました。課長に手伝ってもらってやっと見つけて返却したんです」

小鳥遊 「それは大変でしたね。お疲れ様でした」

りんだ 「一応、サーキュレーターは返却できたんですが、そのあと課長にこってりしぼられました。そもそも社会人としての最低能力がない! とか言われる始末で。小鳥遊さん、私、社会人に向いてないのでしょうか……」

小鳥遊 「りんださん、気を落とさないでください。課長の言い方はどうかと思いますよ。 お腹も空いたでしょうから、とりあえず “ちょっとしたもの” をお出ししますね」

りんだ 「ありがとうございます。自分のしくじり思い出してたらうんざりして、お腹が空いてきちゃいました。お願いします!」

****

小鳥遊は手早く目玉焼きを作って、りんだの前に差し出した。

りんだ 「たしかに、ちょっとしたもの……ですね。私の渾身のしくじり告白にしては、不釣り合いじゃないですか?」

小鳥遊 「いやぁすみません、仕入れの日付を大いに間違えてしまい、今タマゴしかないんですよ。でも、タマゴだったらたくさんあります!」

りんだ 「しょうがないですねー! 今度来るときはしっかり仕入れておいてください!」

小鳥遊 「承知しました。目玉焼きにかける醤油はこちらです」

りんだ 「私、目玉焼きには醤油じゃなくて、ケチャップなんですよ!」

小鳥遊 「おや、珍しい。ケチャップですか」

りんだ 「目玉焼きにはケチャップ一択なんです! あまり知られてないみたいですが、すっごく美味しいんですから!」

小鳥遊 「お客様からのご要望が多いので、私は基本的に醤油をお渡ししているんですが、お客様によって好みはいろいろです。でも、ケチャップは珍しいですね」

りんだ 「たしかに、よく驚かれます。私、目玉焼きに醤油かけるのちょっと苦手なんです」

小鳥遊 「そんなりんださんに申し訳ないのですが、あいにくケチャップは切らしております」

りんだ 「ええー! ケチャップがないカフェなんてあるんですね! 逆に笑えてきます!」

小鳥遊 「これもついうっかり、発注を忘れてしまっておりました」

りんだ 「うーむ、そうか〜。あーなるほど……うんうん」

小鳥遊 「どうかされましたか?」

りんだ 「いえ、目玉焼きに “醤油をかけるか” “ケチャップをかけるか” の話、私の今回のしくじりと、つながるところがあるなと思って」

小鳥遊 「お聞かせ願えますか」

りんだ 「多くの人には、目玉焼きに醤油がマッチするんですよね。
そして備品管理という仕事には、こまごまとしたものをキッチリ把握するタイプが一般的にはマッチする。
つまり私が備品管理するってことは、目玉焼き×ケチャップの掛け合わせと同じなんだって思いました。『えっ? このタイプの人にこの仕事させちゃうの?』みたいな」

小鳥遊 「なるほど。つまり、『備品管理×りんださん』というマッチングが間違っていたと」

りんだ 「そうです。私じゃなくて、そういった仕事が得意な人に、任せればよかったんじゃないかなと思いました」

小鳥遊 「それはいいところに気が付きましたね。その通りです。りんださんにはりんださんの長所がおありです。現に、手配するまでのスピードは早かったわけですしね。だから、『社会人として』という課長のセリフは、ちょっと違うと思いました」

りんだ 「うーん…でも! でもですよ。向き不向きだけで仕事の割り振りができたら、課長も苦労はしないと思うんです。場合によっては、私みたいに物の管理が苦手なタイプに、備品管理のような仕事をどうしても頼まなきゃいけないときも、あるじゃないですか」

小鳥遊 「それもまたおっしゃる通りですね」

りんだ 「となると、やっぱり、私も備品管理をキッチリできるようにならないと、いけないですよね……うぅぅ」

小鳥遊 「りんださん、実は私も会社員時代にまったく同じ経験と失敗をしております」

りんだ 「そうだったんですね! 小鳥遊さんはどうやって切り抜けたんですか!?」

小鳥遊 「いえ、失敗に終わりまして、その後ほどなく会社を辞めました。しかし、今思えば、『こうすればよかったな』というものがあります」

りんだ 「それはなんですか?」

小鳥遊 「醤油っぽいケチャップになるよう、少し頑張ってみるのです」

りんだ 「ん〜〜〜。つまり、苦手でもキチンと備品管理ができるよう工夫するってことですか? でも、それって具体的にどうすればいいんですか?」

小鳥遊没頭状態をつくりだすことですね」

りんだ 「没頭状態?」

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カフェ「しくじり」へようこそ

小鳥遊 /りんだ

発達障害でありながら一般企業に勤める小鳥遊(たかなし)さんが、カフェのマスターに扮して仕事の悩みに答えるストーリー連載。「安心して仕事ができるようになる、安心して会社に行けるようになる」を目指す、世界でいちばん意識低い系のビジネス連載です!

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