あったか分からないけど「肉入りの縄文クッキー」が美味しいのか確かめてみた

野食ハンターの茸本朗さんが今回チャレンジしたのは、縄文時代に食べられていたとされる「縄文クッキー」です。一時期、縄文クッキーの中には、肉を練り込んだ豪華なものがあるとする主張がありましたが、実はこれは科学的根拠が全くなかったとのこと。でも、もしあったとしたら、それは美味しいのでしょうか?

最近、存在しない謎のマナーを創り出し、他人をけん制しようとする「マナー警察」なる人々がヘイトを集めています。一時期話題になった「江戸しぐさ」なんかもそうですが、歴史上存在しなかったものをまるで存在したかのように言うことや、それを指摘されて「存在しなかったとは言えないじゃないか」「役に立つことであれば『実在したかどうか』なんてどうでもいい」と強弁することは、正しい態度とは言えません。

野食の世界でも「昔は〇〇を食べていた」という言説の中には、その真偽について非常に怪しいものもあります。そしてその代表ともいえる「縄文クッキー」というものについて、野食をしない人の中にもご存じの方がいらっしゃるかもしれません。


縄文時代のごちそう野食!? 縄文クッキーとは何か

縄文クッキーとは、縄文時代に食べられていたと考えられる食べもので、ドングリやクルミなどの堅果類を粉にし、こねて焼いたものです。農耕が始まっていない縄文時代、日々の摂取カロリーの多くはドングリなどの木の実に頼っていたと思われており、「ドングリを粉に挽いて練り焼いたもの」は実在してました。実際にこのようなものが遺跡から出土しています。

しかし、今回問題になる「縄文クッキー」はそれではありません。

今から25年ほど前、大学教授のA氏が「縄文クッキー」についての全く新しい学説を発表しました。彼が遺跡から出土した縄文クッキーを「残存脂肪酸分析法」というメソッドを用いて分析した結果、イノシシやシカといった動物性食材が練り込まれていたことが分かった、というのです。
彼は、縄文クッキーには「木の実、獣肉、動物の血、卵などに塩と天然の酵母を加えて200~250度で焼成したクッキーやハンバーグ状の食品」タイプのものがあると主張し、植物質主体のものと動物質主体の2種が存在する可能性を指摘しました。


住居の周りに生えていたドングリを使った?

これにより、縄文クッキーとは「肉を練り込んだまんじゅうやパンケーキ様の豪華な食材」だという認識が広がり、各地の博物館や小中学校において「体験学習」の一環でこれを作らせ、賞味させるというイベントが活発に行われたそうです。

しかしそんな中、2000年にあの「旧石器ねつ造事件」が発覚しました。ご存じの方も多いと思いますが、この事件は、アマチュア考古学研究家のB氏が、自らが事前に埋めた石器を掘り出して「発見」したと主張し、その結果いくつものニセの旧石器時代の遺跡の存在が長年信じられてきた、というものです。
この一連の捏造事件では、出土した「石器」をA氏が「残存脂肪酸分析法」によって分析を行っており、その石器や周辺の土から「ナウマン象の脂肪酸」が含まれていると発表しました。実際はもちろん、偽物の石器にナウマンゾウの脂肪酸など付着するはずがなく、このことから「残存脂肪酸分析法」そのものが全く科学的根拠がないということが明らかになったのです。


ナウマン象って美味しかったのかな

その結果、縄文クッキーに肉が入っていたかどうかは全く不明となり、今のところは肉入りの縄文クッキーは「非実在古代料理」のひとつであると結論付けられています。

なのですが、現在これが少し困った事態を招いてしまっています。
「縄文時代には、ドングリの粉にジビエ肉と卵を練り込んで焼いたクッキーがあった」という考えは、それが嘘であったとしても非常に想像しやすく親しみやすい考え方です。そのためかつて「肉入り縄文クッキー」の話を聞いた児童や生徒が親や教師となり「縄文クッキーには肉が入ってたんだって」という話を“事実”として子どもたちに伝えてしまっているのです。
それは、ウェブで検索すると「肉入りの縄文クッキーを作ってみた」というようなブログが多数ヒットすることからも深刻さが分かります。

「あったかどうかわからないかもしれないが、あったと考えたほうが楽しいならそうしたらいいじゃん」という主張があるかもしれませんが、歴史学や考古学においてそれは大変危険な考え方。なぜなら、歴史上の事実というのは必ず既存の事実から帰納的に導き出されなければならないからです。一度紛れ込んだウソを見つけ出し取り除くのが非常に困難なのは、みなさんご存じのとおりです。

ただ……
一方で「肉入り縄文クッキーは果たしてあったのか」と「肉入りの縄文クッキーがあったとしたら、それは果たして美味しいのかどうか」はまた別の話でもあります。
今回は後者について語ろうと思っておりまして、それでここまでだらだらと前置きを書いてきたという次第です。

史学的な事実は一旦置いといて、作って確認してみたいと思います。

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野食ハンターの七転八倒日記

茸本朗

「野食」とは、野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する活動のこと。 野食ハンターの茸本朗さんは、おいしい食材を求めて日々東奔西走。時にはウツボに噛まれ、時には毒きのこに中毒し、、、 それでも「おいしいものが食べたい!」という強い思...もっと読む

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