​小富の恐怖

【第16話】
古典作品をボーイズラブ化した大好評シリーズ『BL古典セレクション』待望の新連載!「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』を、作家・町田康が自身初のBL作品として、圧倒的な鮮やかさをもって現代に蘇らせる。月一回更新。

「これからここにやって来る親爺を騙くらかして金を借りるのだが、それについて見るからにやくざ者のおまえさんに居て貰っちゃ都合が悪い。悪いがちょっとの間、土蔵の中へ隠れててくんねぇ」

 そう言って小富を土蔵に案内した次郎長、小富が土蔵の中に入ると、

「窮屈な思いをさせてすまねぇが、ちょっとの間だ、まあ我慢してくんねぇ」

 と言うと土蔵の重くて頑丈な扉を閉め、それからガチャと鍵を掛けた。これを聞きつけた小富、

「おい、いまガチャと音がしたが鍵をかけたんじゃねぇのか。なんだって鍵なんて掛けるんだい」

「心配するな、ふっと、親爺が土蔵に入るかも知れねぇだろ。そのときの用心だ」

「なるほど、そらそうだ。そいじゃあ、なるべく早いこと頼むぜ」

「任しときねぇ」

 そう言って次郎長は土蔵の側を離れ、裏木戸から往来へ出て、そして言った。

「ははは。バカな奴だ」

 むっと暑かった。道端に多くの雑草が生えていた。そのところどころには花も咲いていた。

 次郎長はその足で、宿外れで飯屋を営む金吉、通称を飯金という男のところへ行った。

 暖簾をくぐって店土間に入る。なかは薄暗くって客はない。

 次郎長は奥へ向かって声を掛けた。

「御免よ」

「へい、いらっしゃいまし」

 そう言って奥から出てきたのが飯金、紺色の前掛けをしている。

「なんだい、次郎さんかい。飯を食いに来たのかい」

「こんなとこで飯なんて食うかい」

「こんなとこで悪かったな」

「戯談だ。まあ、そう怒るない。いや、実はな、今日はおめぇに頼みがあってきたのよ」

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BL古典セレクション 東海遊侠伝 次郎長一代記

町田康

古典作品をボーイズラブ化した大好評シリーズ『BL古典セレクション』待望の新連載!「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』を、作家・町田康が自身初のBL作品として...もっと読む

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washiotomokiti 陰嚢摘みBLときた。 小富の恐怖|町田康 @machidakoujoho | 5ヶ月前 replyretweetfavorite