どうも。 2019年10月14日から始まったこの連載……気が付けば1年が経ちました。
当初、1年位で完結予定だったんですが……「そういえばあんなことあったな」「そういえばこんなことも」と、追加エピソードが足されに足され、気が付けば30話目前に……
確かに言えることは、タカラヅカの世界で出会った全ての方々のエッセンスが混ざりに混ざって今の自分がいるんだなぁと。
感謝の気持ちしか生まれないですなぁ。
そんな、「こう見えて元タカラジェンヌです」ですが、この度、なんと、【書籍化】が決まりました!
ヨヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨイ!(ドン)めでてぇな!!!
発売は来年2021年の春(3月)頃になると思います!
……と、今からここに高らかに宣言し、それまでに全ての工程を済ますぞ!と、プレッシャーをかけたところで、行きましょうか。ゴー♪
中間管理職のブルース
余り芳しくない結果で終えた運動会(パンドラの箱を開けた心のダメージはやはり大きかった……)
……だったが、帰りのバスの中で互いに奮闘をねぎらい、後日、明日海さんへ組子から表彰状をお送りして、私たちだけの「特別な勝利」を称え合った。
その結果、東京公演を終えるころには花組の絆はグッと深まった。
気が付けば私も、研究科10年目を目前に。
タカラヅカには「男役10年」という言葉があり、「10年演じて初めて一人前の男役になる」と言われてきた。
明日海さんがトップスターになり、自身との学年差もたった3学年。これまではただひたすらトップさんに「ついて行こう」という気持ちだけで追いかけていたが、これからは自分も一人前の男役として、下級生を「引っ張って」行かなければならない。
大きいと約30年以上キャリアの離れた約70名の組子たちが、1つの作品を創り上げる、というのは簡単なことではない。
それぞれプロセスやアプローチは違えど、目標は同じところにないと迷子になってしまうので、トップスターである明日海さんが目指す方向を、組子の長である組長さんと副組長さんが汲み取り組子に具体的に提示し、我々中間管理職が下級生たちにしっかりと指示が伝わっているか、わからないところはないか、とサポートする。
そのような、「舞台裏」で下級生を導いていくのは勿論のこと、
引っ張っていく身として、「舞台上」でも場を締める役者であることがより求められる。
新人公演を卒業し、小劇場作品では少しずつ、いわゆる「通し役」を演じることが多くなり、いよいよ花組の組子全員が出演する大劇場公演でも通し役を頂く機会が増えてきた。
それによって、新人公演の時のような、元々本役さんが創り上げた役をモデルにアレンジしたり、違うアプローチで挑むという役作りではなく、
「0」から自分で役に息を吹き込み、色んな技を持って説得力のある役を作り上げていく力が必要になる。
下級生にとって、「尊敬される本役さん」にならなければ……
今まで以上に強い使命感と責任感が生まれたのだった。
おじさん役者への道~ビジュアル編~
そもそも、おじさん役者への道は研究科2年目から始まっていたのだが(18話参照)、 一人前の男役たるもの、更に「本物の」おじさんへ擬態するには、所作、発声、役作りに加え、タカラヅカ特有の「メイク」が肝だった。
「おじさんメイク研究」は、卒業するその日まで正解の出ない、底の知れないものだった。
まず、ベースの肌色を作る段階で一苦労だった。
皆と同じ色味を使うと、同じ年頃の人物に見えてしまう。 私が演じていた役どころの年齢は40歳~50歳位だったので、若人のような血色の良い顔色になっても説得力がない。
にもかかわらず、私の肌は、血色も良く、信じられない程ピッチピチなのだ。
(これに関しては、ナルシスト発言でもなんでもなく、紛れもない事実を申している)
初めて私に会った方は、「肌綺麗ですね、スキンケア何使ってるんですか?」と聞いてくる事が本当に多いが、今までこれといったスキンケアをマジで何もしてこなかった。
タカラヅカの濃いめのメイクをしても、絶対に荒れることがなく、吹き出物もできることなく、ノーダメージだった。
「けっ!何?自慢?」と思われるかもしれないが、おじさん役者を目指す私にとっては、全てが不利だった。当時は心の底から、「肌よ、頼むから荒れろ!」と思っていた。
更には、輪郭は丸い、目は丸いしタレ目、顎もない、そんでもって何度も言っているが私の顔は可愛い。
「は?いい加減にしてよ!何言っちゃんてんの?」と思われるかもしれないが、つまり、私の顔は男役をやるには余りにもポテンシャルが低かったのだ……。
そんな私の「若すぎる肌・可愛い顔」の悩みを一掃して下さったのは、今まで新人公演でお世話になった「本役」の方々だった。
まず、おじさんとしてグッとくる色味を教えてくださったのは、スペシャリスト集団である専科の悠真倫《ゆうま・りん》さん(当時は花組)。
「おじさんの肌の絶妙なくすみ具合」の配合を教えて頂いた。
それ以外にも、「顎の割り方」、「ゴリッゴリの眉毛・もみあげの描き方」、「白髪の入れ方(貼るver/描くver.)」など、数え切れないほどのテクニックを伝授して頂いた。
そして、専科の夏美よう《なつみ・よう》さん(当時は花組組長)に、「おじさんの肌の絶妙なくすみ具合・夏美さんver.」「無精ひげ・剃り残しの描き方」や「良いおじさん・悪いおじさんの眉毛」など、これまた数え切れないほどのテクニックを、
最終的には、専科の汝鳥伶《なとり・れい》さんから、「おじさんの肌の絶妙なくすみ具合・汝鳥さんver.」「顎髭を貼る位置」「麻呂眉(雅な眉)の描き方」など、ピンポイントで演じる細分化されたおじさんのメイク術を丁寧に教えて頂いた。
御三方には、化粧だけでなく、靴や、カフスボタン・懐中時計といった「小物」についても沢山のアドバイスを頂いた(タカラヅカの舞台では、お衣裳さん・小道具さんが用意して下さった物だけではなく、その役に合わせて自分の自前で用意することがある)。
1年目、2年目のペーペーに、渋いカフスボタンや懐中時計がどこで手に入るのかは皆目見当つかぬので、本当にありがたかった。
そこから必死に食らい付き、何年か経つ頃には、自分自身でもとっておきのおじさんグッズを売っているお店を開拓できるようになり、本役さん方と
「梅田のあの店、行きました?ハチャメチャに渋いアクセサリー売ってました」
「逆瀬川のあのお店、閉店しちゃうらしいです!それまでにおじさん靴買い占めないとですな!」
など、おじグッズ店情報井戸端会議を開けるようにまでなった。
こうして、おじさんを極める男役だけが辿り着く「おじネットワークコミュニケーションズ」が形成されていくのだ。
そんな「おじコミュ」にアクセスして幾年、様々なテクニックをマスターし、「どんなおじさんでもどんと来い!」と、少し自信を持ち、迎えた次回公演花組公演『新源氏物語』の集合日……
私が演じることになったのは、
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