入院中でも容赦がなさすぎる、フランスの看護師たち

中村綾花さんによる、フランスでの妊娠・出産の一部始終をお伝えするこの連載。今週は臨月から陣痛が来はじめたころまでのお話です。初めての陣痛に苦しむ中村さんと、それに対してクールすぎるフランスの看護師たちのギャップにご注目ください。

出産は「自分ロス」のはじまり

私にとっての出産とは、心身ともにズタボロになる体験だったことを、前回少し振り返りました。37歳での高齢出産というのもあってか、身体的なダメージは想像をはるかに越えていたし、思ってもみなかった精神的なダメージも受けました。体は回復しても、精神の変化とは今なお葛藤しています。

出産後、私は自分と我が子の愛し方の配分に戸惑っていました。自分の命をさしおいてでも守るべき存在ができた。これまで「いかに自分のことだけ考えて生きてきたか」を思い知ると同時に、我が子優先に物事を考えがちになりました。つい自分をおろそかにする、「自分ロス」な状況になったのです。

前回こう書いたら、記事を読んでくれた日本にいる同級生(3児の母)から久々に連絡があり、

「うまいこと言うなぁ、あまり自分というものをもたない私ですら、(子育てが)辛くてたまらなくなって、溺れそうになる瞬間があるから、自分持ってる人は余計だろうなぁ。」

という共感のコメントをもらいました。この「自分ロス」問題についてはのちのち語るとして、今回はより詳細な、私のフランスでの出産レポートをお送りしようと思います。「聞いてたのと全然違う!」の連続だった出産体験は、日本だったらあり得ないエピソードが満載なのですよ。

泣きごとがもれるほど辛い臨月

いよいよ出産日が近づく期間のことを「臨月」といいます。私の子宮には色々な問題があり、治療を経てようやく妊娠にいたったため、流産・早産なしに妊娠を最後まで継続できるかわかりませんでした。そんなドキドキな状況のなか無事に臨月に突入し、石臼のような迫力と重さに変化した我が腹を抱えることができたときのうれしさといったら!

しかし同時に、これがなんといっても辛い! 臨月の重い腹を抱えての日常生活は、歩く、風呂に入る、寝返りをうつ、という普段ならできることに、障害が生じまくるのです。私は妊娠糖尿病を発症していたので、厳しい食事コントロールも気が抜けず、息抜きのデザートなんて厳禁。大好きなフルーツすらもろくに食べられず、ダーク・チョコレートをかじってなんとか我慢するくらいでした。

この頃はもう、毎日ただただ「早く産まれて来てくれ! 産まれてさえくれれば、好きなものを好きなだけ食べられる時がやってくる!」というのを励みに耐えていました。

身近な人に泣き言をもらしても、「もうすぐ赤ちゃんに会えるじゃないの!」と言われるばかり……。まあ、それはそうなんですが、辛いものは辛いのです。なんど旦那さんに対して「あんたが代わりに妊娠してくれればいいのに!」と言ったか分かりません。

陣痛が来ない!

なんとかして辛さをやり過ごす日々でしたが、予定日が来ても、陣痛と呼ばれる同間隔の痛みや、破水と呼ばれる前兆(お腹の羊水が少し出てくる)もまったく起きませんでした。ただ時々、ドーンと腹に稲妻が落ちたような衝撃が走り、立っていられなくなることがありました。しかしそれも一撃だけに終わって陣痛にはいたらず。

でもそんな時は、周りにいる人もすぐに異常を察するようです。買い物中に衝撃を感じた時なんかは、マルシェ最大に声が大きな売り子のおじさんが「マダム! 大丈夫か〜! 救急車呼ぼうか!!!」と声をかけてくれて、うれしいような、恥ずかしいような体験をすることもありました。

ほかにも、これが妊娠中に映画を楽しめる最後のタイミングかも、と思って近所の映画館に行ったときのこと。上映前のCM中に衝撃が来て、さすがに焦ってとんぼ返りすることに。受付でムッシュに事情を話したところ、「あー、うちも子どもが産まれるときは大変だったなぁ、チケット、1年間使えるものに代えてあげるよ。頑張ってね!」とサービスしてくれたこともありました。

いやはや、こういうところはフランスならでは。親切心が感じられるできごとでした。

入院、そして陣痛到来

さすがに予定日を一週間すぎたあたりから、赤ちゃんの心音をチェックするため毎日病院へ通うことになりました。それが2、3日続いたある日、少し心配な心音が聴こえるとのことで、午後からそのまま入院。陣痛や破水が起きてドラマチックに始まるものかと思っていたけれど、こんなふうに出産モードに入るのか、と正直気が抜けてしまいました。

入院してみると、陣痛促進剤をしめらせたリトマス紙のようなものを股にはめ込まれてすぐ、痛みの波が1時間間隔でやってきたではありませんか! 「おお、これが陣痛というものか!」と驚くのもつかの間。なかなかに痛い。

実際に経験してやっと分かったのは、大きなお腹側が痛むのではなく、尾てい骨から上あたりがひび割れるように痛むということ。私は生理痛は寝込むほど酷い方なので、痛みにはそこそこ耐えられると思っていたけれど、なかなかにアグレッシブな痛みが突くようにやってきて、生理痛ともまた全然違うものだと実感しました。

それを体の外に逃がすべく、腹の底から「うぅ〜〜〜っ」と声を漏らしてやり過ごしてみました。すると、中年マダムの看護師さんが部屋に入ってきて、「ちょっと、変な声だしてるのあなた? もう、やめなさいよ〜」とだけ言って去って行きました。

「あれ? ここって産婦人科だったよね? なんで痛みを逃すための声出しで注意されるんだろう?」

そう思いながらも、痛みは定期的にやってくるので、やはり唸らずにはいられません。

妊婦にも厳しい看護師たち

今度は大きなゴムボールに股がりながら、温かいシャワーを痛む部分にあてて温めると、痛みが和らぐことを知ってトライしてみました。

「なかなかいい方法だな〜」なんて思いながら、痛みが落ち着いてベッドに戻り、次の痛みの波にそなえてゆっくりしていると、今度はノックもなしに、看護アシスタントと思われるアフリカ系のマダムが部屋に入って来ました。そして、私を見ながらも無言のまま、ゴムボールを持ち去って行ったではないですか!

「いやいやいや、まず、なんか言おうよ。そして、そのゴムボール、次の陣痛が来た時に絶対使うから持って行かないでよね!」

そう注意する間もない数秒のできごとだったので、ナースコールで他の看護師さんを呼んで説明したら、なんとかゴムボールが戻ってきたなんてこともありました。

この日、毎時間おとずれていた痛みは、促進剤の効果が切れたのか、夜中になるとぱたりと止みました。このまま出産にいたるとばかり思っていたので、思わぬ休息がやってきたことにホッとしたのもつかの間。

しばらくすると、この日最後の血圧測定のために、例の私の唸り声を注意しにきた看護師さんが部屋に入ってきました。そして寝たままの私の口に、まるで鯉に餌付けするような自然さで、何の説明もなく2、3錠の薬を入れ込もうとするではないですか。

「いや、ちょっと待って! それは何の薬ですか!?」と慌てて聞くと、彼女はめんどくさそうに「リラックスできるやつよ!」と適当に解説しながら、やっぱり私の口に薬をほおる手をとめません。

拒否する理由もみつからず、結局私はそれを全部飲み干し、今日のできごとを振り返っているうちに頭がぼんやりしてきて、眠りに落ちたのでした。

フランスの病院では、これがふつう

なんといっても、ここはフランス。かつ、国立病院。ただでさえサービスの質に日本とは雲泥の差があるのに、日本人の私には理解しかねる行動をとる職員がウヨウヨいます。さらに盗難も日常茶飯事なので 、ここでは自分の病気や治療のことだけでなく、泥棒から身を守ることまで考えなければいけません。それがいやなら、自腹で私立クリニックへどうぞ、というのがこの国の病院状況です。

私もこれまでの経験から、医者や看護婦に対してもあまり期待しすぎず、いい人に当たればラッキーくらいの心持ちで挑もう、と考え方を変えました。いまはもう慣れましたが、やはりいつも予想していないことが起きるのには、どうしても疲れてしまいますけどね。

さあ、この翌日は分娩室に移動して出産本番。いよいよ無痛分娩の体験を紹介します。これもまたフランスあるある、なとんでもないアクシデントによって、予定通り行かない事ばかりの出産となってしまったのでした。次回をお楽しみに!

<次回、10月31日(土)更新予定>


中村綾花さんのnote「連載『パリジャン十色』で書けない事」では、
ここで書ききれなかったこともつづっています。合わせてお読みください。


この連載について

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パリジャン十色

中村綾花

“花の都”と称され、雑誌やテレビでもその優雅なイメージが特集されることの多い、フランスの首都・パリ。パンやスイーツはおいしいし、ファッションは最先端だし、歴史ある建物たちも美しいし、住んでいる人もおしゃれな人ばかり……と思いきや、パリ...もっと読む

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restart20141201 やはり、日本がいい。 |中村綾花 @ayakahan |パリジャン十色 https://t.co/EWZiwxHtjs 1日前 replyretweetfavorite