第305回 読むための対話:「当たり前」を越えるため(前編)

二等辺三角形の証明問題を話す「僕」。数学が苦手なノナちゃんはどんなふうに取り組むのか……三角形であなたも楽しもう!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

ノナユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。

$ \newcommand{\TT}[1]{\textrm{#1}} \newcommand{\ANGLE}[1]{\angle\textrm{#1}} \newcommand{\TRI}[1]{\triangle\textrm{#1}} \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\SQRT}[1]{\sqrt{\mathstrut #1}} \newcommand{\TRUE}{\textbf{true}} \newcommand{\FALSE}{\textbf{false}} \newcommand{\FOCUS}[1]{\fbox{$#1$}} \newcommand{\GEQ}{\geqq} \newcommand{\LEQ}{\leqq} \newcommand{\NEQ}{\neq} \newcommand{\TRIANGLE}{\triangle} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\PS}[1]{\left(#1\right)} \newcommand{\SET}[1]{\{\,#1\,\}} \newcommand{\EMPTYSET}{\{\,\}} \newcommand{\NONAMACROBASE}[2]{\texttt{..}{\scriptstyle #1}#2} \newcommand{\NONAMACROBASEREV}[2]{#1{\scriptstyle #2}\texttt{..}} \newcommand{\NONAMACRO}[1]{\NONAMACROBASE{#1}{#1}} \newcommand{\NONAMACROREV}[1]{\NONAMACROBASEREV{#1}{#1}} \newcommand{\NONA}{\NONAMACROBASE{\textrm o}{\textrm O}} \newcommand{\NONAX}{\NONAMACROBASE{\textrm x}{\textrm X}} \newcommand{\NONAQ}{\NONAMACRO{?}} \newcommand{\NONAQREV}{\NONAMACROREV{?}} \newcommand{\NONAEX}{\NONAMACRO{!}} \newcommand{\NONAHEART}{\NONAMACRO{\heartsuit}} $

二等辺三角形の証明問題

「うん、じゃあ、別の問題に取り組んでみよう。ユーリもノナちゃんもまだ疲れてない?」

ユーリ「ぜんぜん」

ノナ「大丈夫……大丈夫です$\NONA$」

「さっきは三角形の証明問題だったけど(第304回参照)、今度も証明をする問題だよ」

問題

二等辺三角形は、二つの底角の大きさが等しい。このことを証明してください。

ユーリ「あー、これ知ってる!」

ノナ「ユーちゃん、待って$\NONA$」

ノナはそう言って、問題を読む。

は彼女の視線を追う。

視線の動きはゆっくりで、しかも何度も往復している。当然ながら、それなりに時間が掛かる。

ユーリは何かを言いたげに口を開いたり、また閉じたりしている。 いろいろと話したいことがあるんだろうけれど、よく我慢している。 ノナが考えるのを邪魔しないためだろう。

「……」

ユーリ「『ねえノナちゃん、ゆっくり考えていいからね。時間はたっぷりあるんだから』」

「ねえユーリ、それはもしかして僕のモノマネ?」

ユーリ「もちろん」

「そんな話し方してるかなあ」

ユーリ「してるしてる。ぴったり同じ」

ノナ「わかりません$\NONA$」

「ノナちゃんは、この問題が何を聞いているかはわかる?」

ノナ「『二等辺三角形は、二つの底角の大きさが等しい……このことを証明してください$\NONA$』」

「うん、ノナちゃんは問題文を正確に読んでくれたね。ぴったり同じ。言葉としては問題をちゃんと読めている。問題の意味はどう? 問題の意味はノナちゃんに伝わっている?」

ノナ「$\NONAQ$」

二等辺三角形の定義

「たとえば……うん、ユーリだったらノナちゃんに何て聞く?」

ユーリ「こっちに振るんかい! びっくりしたじゃん。えっと……『二等辺三角形って知ってる?』」

ノナ「わかってるよう$\NONA$」

ユーリ「『底角って知ってる?』」

ノナ「そっちも覚えてる$\NONA$」

ユーリ「だったら証明できるよ!」

「ありがとう、ユーリ。そうだね。ユーリが聞いてくれたみたいに『二等辺三角形』や『底角』という言葉について聞くのは大事。問題に出てくる言葉の意味がわからなければ、問題の意味もわからないから」

ユーリ「ふふん。定義を聞くのは基本だもんね!」

「でもそこで『知ってるか』と聞いちゃうと、知ってる、わかっている、覚えている……で話は終わっちゃう」

ユーリ「わかってるなら、それでいーのでは?」

「でも、本当にわかってるかどうかはまだはっきりしない。言葉として表されてないからね」

ノナですか$\NONAQ$」

「え? ああ、そうそう! 『どういう三角形を二等辺三角形というのか』という二等辺三角形の定義が、ノナちゃんのからに言葉になってまだ出てきていない。 だから、『二等辺三角形の定義は何ですか』のように《定義を問う》ことが大事だね」

ノナ「知ってる……本当に知ってます$\NONA$」

「うん、ノナちゃんは二等辺三角形の定義を知っている。それを疑っているわけじゃないし、ノナちゃんがウソをついてると非難しているわけでもない。 でも、数学で対話をするときにはいつも、ほんとうにいつも、《定義を問う》ことをお互いに行う」

ユーリ「やるやる。聞く聞く」

「一人で数学を考えるときもそうだよ。自分に対して《定義を問う》ことはとても多い。自分に対して問う……つまり自問するんだ」

ユーリ「じもん」

ノナ「じもん$\NONA$」

「一人で考えているときは自分に対して『この言葉の定義は何か』と自問する。話している相手がいるときは『なになにの定義は何ですか』や、『その言葉をどんな定義で使っていますか』や、『定義を教えてください』みたいに問うんだ。 数学では《定義を問う》ことはまったく失礼じゃないし、悪いことでもないんだよ。逆に、とても大切なこと」

ノナ「聞いてもいいの$\NONAQ$」

「うん、そうだよ。だって、《定義を問う》というのは『あなたの話をしっかりと聞きますよ。ちゃんと聞きたいですよ』という気持ちの表れだからね」

ノナ「二辺の長さが……等しい三角形です$\NONA$」

「うん、それで正しい。二辺の長さが等しい三角形を二等辺三角形という。これは二等辺三角形の定義だね」

ユーリ「名前のまんまだ」

ノナ「$\NONAQ$」

「そうだね。『二等辺三角形』という名前の通り。『二つの等しい辺をもつ三角形』ということだからね」

ユーリ「ノナは『底角』の定義を知ってる? じゃなくて、底角の定義は何?」

ノナ「底角……わかりません$\NONA$」

ユーリ「知ってるはずじゃん」

ノナ「何て言えばいいかわかんない$\NONA$」

「ノナちゃんはときどき『わかりません』とだけ答えるときがあるけど、いまユーリに言ったみたいに『何と言えばいいのか、わかりません』と答えた方がいいかもしれないよ」

ノナ「$\NONAQ$」

「『わかりません』だけだと、何にもわからないみたいに聞こえちゃうから。ノナちゃんは底角の定義をパパッと言葉でに出すことはできないかもしれないけど、 ノナちゃんのにはわかっていることがあるんだよね?」

ノナはこくんとうなずいて、こんな図を描いた。

ノナ「底角はこれとこれです$\NONA$」

二等辺三角形と二つの底角

ユーリ「ほらー、ノナは知ってるじゃん!」

ノナ「わかってるもん$\NONA$」

「いま、ノナちゃんが図を描いたのはすごく大事なことだね。ノナちゃんが、図を使って『底角はこれのこと』だと教えてくれたから『うん、ノナちゃんは確かに底角が何であるかわかっている』と僕にも伝わった。 たとえ、定義を言葉で表せなくても、そんなふうに何とかして伝えるのは大事だね」

ノナ「外に出す$\NONAQ$」

「そうそう! ノナちゃんは、自分の《中》にある理解を《外》に出してくれたんだ」

底角の定義

ユーリ「ところで、底角ってどーゆー定義? 言葉だと」

「ユーリだったらどんなふうに言う?」

ユーリ「いやー、結構むずいね」

「そうなんだよ。実際にやろうとすると難しい。だから、やってみるのは大事だね。たとえばこんなふうに」

二等辺三角形の頂角と底角

二等辺三角形には、長さが等しい二つの辺があります。

その二つの辺が作る角を、その二等辺三角形の頂角(ちょうかく)といいます。

二等辺三角形が持つ三つの角のうち、頂角以外の二つの角を、その二等辺三角形の底角といいます。

ユーリ「あっ、それズルくない? 《頂角以外の角》で定義すんの?」

「いやいや、こういうのはズルいとは言わないよ。だって、はっきりするだろう? それに、底角だけじゃなくて頂角も定義しておけば便利だし」

ユーリ「むー……」

ユーリは腕組みをして真剣に考え始めた。

何を考えてるんだ?

ノナ「$\NONA$」

ユーリ「むー……こーゆーのは?」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

数学が苦手なノナちゃんが「理解するということ」や「意味を考えるということ」に挑戦します。あなたもいっしょに挑戦しよう!

ケイクス

この連載について

初回を読む
数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに13巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

euler_KHUx ただ事実を覚えて理解するだけで、自分の考えをはっきりさせることまでは今までできてなかった気がするなー。。。 6日前 replyretweetfavorite

tkooler_lufar 最初の証明問題がわかんない…だと…🤔 |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート https://t.co/O82NEGPRDm 8日前 replyretweetfavorite

kusoposi ノナちゃん落書き( ・ω・) https://t.co/3b5kAk5DrU 8日前 replyretweetfavorite

Shift255 「僕が……過去にたくさんまちがった僕が……僕自身に教えているのか。」 まちがいも立派な経験 8日前 replyretweetfavorite