第305回 読むための対話:「当たり前」を越えるため(前編)

二等辺三角形の証明問題を話す「僕」。数学が苦手なノナちゃんはどんなふうに取り組むのか……三角形であなたも楽しもう!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

ノナユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。

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二等辺三角形の証明問題

「うん、じゃあ、別の問題に取り組んでみよう。ユーリもノナちゃんもまだ疲れてない?」

ユーリ「ぜんぜん」

ノナ「大丈夫……大丈夫です$\NONA$」

「さっきは三角形の証明問題だったけど(第304回参照)、今度も証明をする問題だよ」

問題

二等辺三角形は、二つの底角の大きさが等しい。このことを証明してください。

ユーリ「あー、これ知ってる!」

ノナ「ユーちゃん、待って$\NONA$」

ノナはそう言って、問題を読む。

は彼女の視線を追う。

視線の動きはゆっくりで、しかも何度も往復している。当然ながら、それなりに時間が掛かる。

ユーリは何かを言いたげに口を開いたり、また閉じたりしている。 いろいろと話したいことがあるんだろうけれど、よく我慢している。 ノナが考えるのを邪魔しないためだろう。

「……」

ユーリ「『ねえノナちゃん、ゆっくり考えていいからね。時間はたっぷりあるんだから』」

「ねえユーリ、それはもしかして僕のモノマネ?」

ユーリ「もちろん」

「そんな話し方してるかなあ」

ユーリ「してるしてる。ぴったり同じ」

ノナ「わかりません$\NONA$」

「ノナちゃんは、この問題が何を聞いているかはわかる?」

ノナ「『二等辺三角形は、二つの底角の大きさが等しい……このことを証明してください$\NONA$』」

「うん、ノナちゃんは問題文を正確に読んでくれたね。ぴったり同じ。言葉としては問題をちゃんと読めている。問題の意味はどう? 問題の意味はノナちゃんに伝わっている?」

ノナ「$\NONAQ$」

二等辺三角形の定義

「たとえば……うん、ユーリだったらノナちゃんに何て聞く?」

ユーリ「こっちに振るんかい! びっくりしたじゃん。えっと……『二等辺三角形って知ってる?』」

ノナ「わかってるよう$\NONA$」

ユーリ「『底角って知ってる?』」

ノナ「そっちも覚えてる$\NONA$」

ユーリ「だったら証明できるよ!」

「ありがとう、ユーリ。そうだね。ユーリが聞いてくれたみたいに『二等辺三角形』や『底角』という言葉について聞くのは大事。問題に出てくる言葉の意味がわからなければ、問題の意味もわからないから」

ユーリ「ふふん。定義を聞くのは基本だもんね!」

「でもそこで『知ってるか』と聞いちゃうと、知ってる、わかっている、覚えている……で話は終わっちゃう」

ユーリ「わかってるなら、それでいーのでは?」

「でも、本当にわかってるかどうかはまだはっきりしない。言葉として表されてないからね」

ノナですか$\NONAQ$」

「え? ああ、そうそう! 『どういう三角形を二等辺三角形というのか』という二等辺三角形の定義が、ノナちゃんのからに言葉になってまだ出てきていない。 だから、『二等辺三角形の定義は何ですか』のように《定義を問う》ことが大事だね」

ノナ「知ってる……本当に知ってます$\NONA$」

「うん、ノナちゃんは二等辺三角形の定義を知っている。それを疑っているわけじゃないし、ノナちゃんがウソをついてると非難しているわけでもない。 でも、数学で対話をするときにはいつも、ほんとうにいつも、《定義を問う》ことをお互いに行う」

ユーリ「やるやる。聞く聞く」

「一人で数学を考えるときもそうだよ。自分に対して《定義を問う》ことはとても多い。自分に対して問う……つまり自問するんだ」

ユーリ「じもん」

ノナ「じもん$\NONA$」

「一人で考えているときは自分に対して『この言葉の定義は何か』と自問する。話している相手がいるときは『なになにの定義は何ですか』や、『その言葉をどんな定義で使っていますか』や、『定義を教えてください』みたいに問うんだ。 数学では《定義を問う》ことはまったく失礼じゃないし、悪いことでもないんだよ。逆に、とても大切なこと」

ノナ「聞いてもいいの$\NONAQ$」

「うん、そうだよ。だって、《定義を問う》というのは『あなたの話をしっかりと聞きますよ。ちゃんと聞きたいですよ』という気持ちの表れだからね」

ノナ「二辺の長さが……等しい三角形です$\NONA$」

「うん、それで正しい。二辺の長さが等しい三角形を二等辺三角形という。これは二等辺三角形の定義だね」

ユーリ「名前のまんまだ」

ノナ「$\NONAQ$」

「そうだね。『二等辺三角形』という名前の通り。『二つの等しい辺をもつ三角形』ということだからね」

ユーリ「ノナは『底角』の定義を知ってる? じゃなくて、底角の定義は何?」

ノナ「底角……わかりません$\NONA$」

ユーリ「知ってるはずじゃん」

ノナ「何て言えばいいかわかんない$\NONA$」

「ノナちゃんはときどき『わかりません』とだけ答えるときがあるけど、いまユーリに言ったみたいに『何と言えばいいのか、わかりません』と答えた方がいいかもしれないよ」

ノナ「$\NONAQ$」

「『わかりません』だけだと、何にもわからないみたいに聞こえちゃうから。ノナちゃんは底角の定義をパパッと言葉でに出すことはできないかもしれないけど、 ノナちゃんのにはわかっていることがあるんだよね?」

ノナはこくんとうなずいて、こんな図を描いた。

ノナ「底角はこれとこれです$\NONA$」

二等辺三角形と二つの底角

ユーリ「ほらー、ノナは知ってるじゃん!」

ノナ「わかってるもん$\NONA$」

「いま、ノナちゃんが図を描いたのはすごく大事なことだね。ノナちゃんが、図を使って『底角はこれのこと』だと教えてくれたから『うん、ノナちゃんは確かに底角が何であるかわかっている』と僕にも伝わった。 たとえ、定義を言葉で表せなくても、そんなふうに何とかして伝えるのは大事だね」

ノナ「外に出す$\NONAQ$」

「そうそう! ノナちゃんは、自分の《中》にある理解を《外》に出してくれたんだ」

底角の定義

ユーリ「ところで、底角ってどーゆー定義? 言葉だと」

「ユーリだったらどんなふうに言う?」

ユーリ「いやー、結構むずいね」

「そうなんだよ。実際にやろうとすると難しい。だから、やってみるのは大事だね。たとえばこんなふうに」

二等辺三角形の頂角と底角

二等辺三角形には、長さが等しい二つの辺があります。

その二つの辺が作る角を、その二等辺三角形の頂角(ちょうかく)といいます。

二等辺三角形が持つ三つの角のうち、頂角以外の二つの角を、その二等辺三角形の底角といいます。

ユーリ「あっ、それズルくない? 《頂角以外の角》で定義すんの?」

「いやいや、こういうのはズルいとは言わないよ。だって、はっきりするだろう? それに、底角だけじゃなくて頂角も定義しておけば便利だし」

ユーリ「むー……」

ユーリは腕組みをして真剣に考え始めた。

何を考えてるんだ?

ノナ「$\NONA$」

ユーリ「むー……こーゆーのは?」

二等辺三角形の底辺と底角

二等辺三角形には、長さが等しい二つの辺があります。

その二つの辺が作る角を、その二等辺三角形の頂角といいます。

頂角に向かい合う辺を、その二等辺三角形の底辺といいます。

底辺の両端にある角を、その二等辺三角形の底角といいます。

「なるほど。頂角を使って底辺を定義したんだね。そして底辺を使って底角を定義した?」

ユーリ「そだよん。これでも底角をてーぎできるじゃん?」

ノナ「どっち……どっちですか$\NONAQ$」

「どちらでも構わないよ。どちらの定義でも、ノナちゃんが心の中で考えていた底角と同じ角を意味しているよね?」

ノナはうなずいて、丸眼鏡の位置を両手で直す。

ノナ「大丈夫……大丈夫です$\NONA$」

「底角の定義について、ちょっと注意しておくよ。二等辺三角形をどんなふうに置いても底角が変わるわけじゃない。これはわかるよね。底角は『底にある角』という名前だけど、たとえ二等辺三角形がこんなふうに倒れていて、底角が上に来ても底角であることに変わりはない」

上にあっても底角

ユーリ「そりゃそーだ」

ノナ「わかります$\NONA$」

「数学は言葉を大切にする。でもそれは字面を大切にするという意味じゃない。いや、まあ、字面も大切なんだけど、字面よりも意味が大切だね。使っている言葉があったとき、どんな意味でその言葉を使っているかを大切にするんだ。 つまり、定義を大切にするということ。 さっきは底角を定義した。その定義に従うならば、たとえ二等辺三角形が倒れていても底角がどこのことなのか、はっきりする。 『底角』という字面や、僕たちがふだん使っている『底』という言葉の意味に引きずられないようにしないといけないんだ……っとっとっと。 いま、早口になってた?」

ユーリ「セーフ」

ノナ「せーふ$\NONA$」

「よかった。何しろツーアウトだからね(第301回参照)」

ユーリ「スリーアウトになると何が起きるんだっけ」

「知らないよ」

ノナ「ちぇんじ$\NONA$」

僕たちは、無意味な軽口に笑いあった。

証明問題に戻る

ユーリ「何の話だっけ?」

「うん、二等辺三角形の底角が等しいことを証明する問題だった」

問題

二等辺三角形は、二つの底角の大きさが等しい。このことを証明してください。

ノナ「答えは最初からわかってる……証明問題です$\NONA$」

「そうだね。『二つの底角の大きさは等しいですか?』や『底角の大きさは何度ですか?』のように聞いているんじゃない。ここでは『二等辺三角形は、二つの底角の大きさが等しい』という、二等辺三角形の性質を主張していて……」

ノナ「理由……理由です$\NONA$」

「そうそう。二つの底角の大きさが確かに等しいといえる理由を答える。しかも、証明だから、しっかりと理由を積み重ねて、誰からも文句が出ないようにする必要がある」

ノナ「難しい$\NONA$」

ユーリ「難しいかにゃあ」

「二等辺三角形を描いたり、想像したりするとわかるように、確かに二つの底角は等しくなりそうだ」

ノナ「見たら……わかります$\NONA$」

「そうだね。見ればわかるし、分度器で測ってもわかるかもしれない。でもいま知りたいのは、具体的な二等辺三角形の底角が等しいということじゃなくて、 どんな二等辺三角形であっても、それが二等辺三角形である限り、絶対に底角は等しくなる ということの証明だ」

ノナ「難しい$\NONA$」

「証明問題は慣れないと難しく感じる。でも《手がかり》を見つけるのは楽しいよ。たとえば、証明する問題で必ず出てくる二つのこと、ノナちゃんは覚えてる?」

ノナ「仮定と……結論です$\NONA$」

ユーリ「せいかーい!」

仮定と結論

「そうだね! 証明する問題では必ず《こういう仮定をしたら、こういう結論が成り立ちます》が出てくる。『仮定』や『結論』という言葉は出てこないかもしれないけどね(第304回参照)。 証明では、仮定から結論まで、ちゃんとつないでやる必要がある。じゃあ、今回の『二等辺三角形の底角は等しい』の場合は、 仮定は何だろうか。そして、結論は何だろうか」

ノナ「二等辺三角形$\NONAQ$」

「うん、一つずつ行こうか。仮定は何だろう」

ノナ「二等辺三角形です$\NONA$」

「そうだね。もう少し言葉を補うと、この問題では、ある三角形について考えている。そして『その三角形は二等辺三角形である』ということが仮定になる」

ユーリダウト! それだとまだはっきりしない感じ! せっかくだから名前を付けよーよ!」

「お、ユーリからすばらしいアイディアが出たな。ノナちゃんは、いまのユーリの提案はわかった?」

ノナ「三角形ABCとか$\NONAQ$」

「そういうことだね。数学でははっきりさせることが大事。だから、はっきりさせるようなアイディアは良いアイディアだ。いまのユーリの提案は三角形の頂点にA,B,Cと名前を付けるというもの。 そうすれば、確かに話がはっきりしそうだ。だから良いアイディアだね」

ユーリ「A,B,Cと名前を付けるってゆったのはノナだかんね」

ノナ「三角形ABCとか$\NONA$」

「ああ、うん、そうだね。ごめん。じゃあ、僕たちの仮定はこれではっきりするかな?」

仮定:三角形ABCは二等辺三角形である。

ユーリ「いいじゃん」

ノナ「もっと……できます$\NONA$」

ユーリ「ん?」

ノナ「$\TT{AB} = \TT{AC}$とか$\NONAQ$」

ユーリ「あー、どこが等しいかってことだ」

「今度はノナちゃんから素敵なアイディアが出たね! 二等辺三角形というんだから、必ず等しい二つの辺があるはずだ。だから、《辺ABと辺ACの長さが等しい》のように、最初からどの辺が等しいかを決めておくのはすごくいい。 等しい辺がどれであるかがわかるように、ノナちゃんは$\TT{AB} = \TT{AC}$という式を出してくれた。 どの辺が等しいかを決めておくのはすごくいい。それはどうしてかというと……」

ノナ「はっきりします$\NONA$」

「その通り。はっきりするからだね」

ノナ「どこが等しいか……はっきりするから$\NONA$」

ユーリ「バシッと決まると気持ちいいし!」

ノナ「…………$\NONA$」

ノナの表情が急に曇る。そして彼女は口ごもる。むにゃむにゃ言いながら、自分の前髪を何度かひっぱる。

数学の問題に向かっているとき、ノナの中ではとても多くの考えがひしめいているように感じる。

その一部はもちろん数学だろう。ユーリほど素早く答えられるわけではないけれど、 ノナは彼女なりにちゃんと考えようとしている。 それに……いつのまにか『はい』と生返事することも、ほとんどなくなった。

ただ、彼女はまだ、うまく自分の《中》にある概念を言葉にして《外》に出すことができていない。 それは慣れの問題かもしれないし、 数学的な表現のストックが足りないだけなのかもしれない。 あるいは、その手前にもっと何かひっかかりがあるのかもしれない。

彼女の中には、その他に感情的なものもある。 感情的という表現が正確かどうかはわからないけれど、 どこかびくびくしている部分があるように感じる。

さてさて、彼女は何を考えているんだろう……

「ノナちゃんは、何か気になることがあるの?」

ノナ「いいの……いいんですか$\NONAQ$」

「何でも言っていいよ。聞いてるから」

ユーリ「どんとこい」

ノナ「はっきりしても……いいんですか$\NONAQ$」

「うん? はっきりしてもいいか? うん、もちろんいいよ。考えていることをはっきりさせるのは、とてもいいこと。単に『三角形ABCは二等辺三角形』というだけじゃなくて、ノナちゃんが$\TT{AB} = \TT{AC}$のように等辺をはっきりさせてくれた。 それはすごくいいことだよ」

ノナ「はっきりさせるのは……自分ですか$\NONAQ$」

「自分? 自分って?」

ノナ「あ……やっぱり、いいです$\NONA$」

「いやいや、いまノナちゃんはとっても大切なことを話そうとしたんだと思うよ。『はっきりさせるのは自分ですか』という問いはすごく大切なものだと思うから、教えてほしいな」

ノナは、左手を右手でぎゅっとつかむ。そして、その小さな手をじっと見つめる。

彼女は、どんな言葉を使えばいいか、考えているのだろうか。

自分の《中》にある思考を……あるいは感情を……はっきりさせ、自分の《外》に出すために、 彼女は探索を続けているのだろう。

自分の中に広がる深い宇宙を。

「……」

ユーリ「……」

ノナ「……考えは自分で……自分ではっきりさせるんですか。自分の考えをはっきりさせるのは自分ですか。 自分で決めてもいいの……いいんですか$\NONAQ$」

ユーリ「そりゃそーじゃん」

「ユーリ、ちょっと待って。ノナちゃんはいろんなことを一度に考えているみたいだから、少しずつ行こう。 まず、ややこしいことや、あいまいなことをはっきりさせるのは、数学ではいいことだよ」

ノナ「はい$\NONA$」

「それから、ノナちゃんが、自分の頭や心で考えていることを、自分ではっきりさせるのもいいこと」

ノナ「はい$\NONA$」

「そして、それを人に伝えるために言葉を選んだり、図や数式を使ってはっきりと表すのもいいことだよ」

ノナ「自分で……自分で決めてもいいの$\NONAQ$」

「いいよ。自分の考えにぴったりと合った言葉を探して、それを使うことはいいこと。はっきりさせるためにこんな言い方をしよう!と自分で決めるのもいいこと。 ノナちゃんが、どんなふうに何を表現するかは、自分で決めていいんだよ」

ノナ「まちがうのは少し恐い……恐いです$\NONA$」

ユーリ「まちがったら、直せばいーのさ!」

「そうだね。ノナちゃんが言うように、まちがうのは恐いかもね。こんな言葉を使ったらはっきりと伝わると思ったけど、実は伝わらなかったとか。 こんな式を使えばはっきりするかなと思ったけど、かえってごちゃごちゃになっちゃったとか。 がんばって書いてみたけど、自分が考えていることをはっきりさせられなかったとかね」

ノナユーリは、いっしょにうなずいた。

「僕たちは数学の本を読んで勉強する。そこにはたくさんのうまい考え方や、はっきりさせる書き方が載っている。それを勉強すれば、うまい考え方やはっきりさせる書き方を覚えることはできるかもしれない。 でも、思うんだけど……」

はそこで、どんな言い方をしたら彼女たちにうまく伝わるかを考える。

「自分で実際にやってみて『ああ、うまくできないな』と思ってから読むのと、何も考えずに最初から本に書かれていることを読むのとではずいぶん違うんだ」

ノナ「$\NONA$」

ユーリ「……」

「問題を自分で解こうとしてみる。うまく解けることも、解けないこともある。自分で問いかけて、それに答えようとしてみる。うまく答えられることも、答えられないこともある。 ノナちゃんが言うように、まちがうのは恐い。失敗するのはいやだよね。 でも自分でやってみてから本を読むと、すごくよく理解できる。 『ああ、なるほど! そんなふうに式を使えばいいんだ!』とか『そういう言い方をすればよかったんだ!』と思えるから」

は熱心に話しながら、誰が誰に教えているのかよくわからなくなってくる。

が彼女たちに教えているのか。彼女たちがに間接的に教えているのか。

が……過去にたくさんまちがったが……自身に教えているのか。

ノナの《自分で決めてもいいの?》という問いかけに、ていねいに答えようとするその姿勢が、に教えているのか。

そんな思いを抱きながら、は話し続ける。

ここには何か大切なものが隠れている。

そんな直観を、確かな形にするために。

(第305回終わり、第306回には証明に入れるでしょうか$\NONAQ$)

数学が苦手なノナちゃんが「理解するということ」や「意味を考えるということ」に挑戦します。あなたもいっしょに挑戦しよう!

ケイクス

この連載について

初回を読む
数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに13巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

euler_KHUx ただ事実を覚えて理解するだけで、自分の考えをはっきりさせることまでは今までできてなかった気がするなー。。。 3日前 replyretweetfavorite

tkooler_lufar 最初の証明問題がわかんない…だと…🤔 |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート https://t.co/O82NEGPRDm 5日前 replyretweetfavorite

kusoposi ノナちゃん落書き( ・ω・) https://t.co/3b5kAk5DrU 5日前 replyretweetfavorite

Shift255 「僕が……過去にたくさんまちがった僕が……僕自身に教えているのか。」 まちがいも立派な経験 5日前 replyretweetfavorite