純猥談

彼が塗ってくれたネイルの残滓を見つめながら、別れ話を聞いていた。

彼は、よくわたしのネイルを褒めてくれた。わたしも彼と会うときは特に丁寧に塗り直した。一度、彼が「塗ってみたい」と目を輝かせたことがあった。


彼は、ファミレスでソファー席をかならずわたしに譲ってくれた。
夜中にわたしをコンビニの外に置いていくことは絶対にしなかった。

だけど、わたしが車道側を歩いていることには気が回らない、そんな人だった。


わたしの定位置は彼の右側だった。わたしの左手は常に彼の腕の骨格を這い、指先に辿りついたあと、温もりを分け合う。

あとになって判明したのだが、それがない日は、わたしの機嫌が悪いと思っていたようだ。だから「今日はなんかあった?」と頻繁に尋ねてきていたのか。だけど特に意味はない。

彼の機嫌も悪いときはほとんどなかったけれど、体調が悪い日、彼は、いつもより前を向きがちだから分かる。

目を合わせると、わたしより先に目を逸らす。
その上、バイバイするとき、絡み合った指にこもる力が、いつもよりちょっと強くなる。

それをわたし以外の誰も知らないだろうし、彼自身も知らないと思う。

エスカレーターをくだるとき、彼は必ずわたしに寄りかかって、わたしに触れたがった。

触れたがりで甘えたがりのわたしたちは、一年経って前戯もそこそこにやっとセックスをした。あんまり気持ちよくなかったのも、一周まわっていとおしかった。

ずっとわたしの手が届くところにいてほしかった。末っ子どうしのわたしたちはお互いに依存していたけれど、それでも少しだけ、彼のほうが自立していたと思う。


彼は、よくわたしのネイルを褒めてくれた。わたしも彼と会うときは特に丁寧に塗り直した。

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純猥談 編集部

誰もが登場人物になったかもしれない、現代の性愛にまつわる誰かの体験談が純猥談として日夜集まってきています。様々な状況に置かれた人たちから寄せられた3000件を超える投稿の中から、編集部が選りすぐった傑作を公開していきます。

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restart20141201 ゛彼に、車道側を歩かせたくない゛ との発想はないのか?女には。 |純猥談 編集部 @junwaidan |純猥談 https://t.co/iPUTY0hnC8 7ヶ月前 replyretweetfavorite