私と仕事、どっちが大事なの!?」に対する本当の答え

一流レストランでサービスマンとして働いていた黒ワインさんが、サービスの技術を恋愛のコミュニケーションに活かす方法を教える連載。パートナーとの会話で、「正しいことを言っているはずのに伝わらない」ことってありますよね。自分の想いはどうしたら伝わるのか? そのヒントが、ソムリエによるワインの説明の仕方にありました。

今更なんですけど、たぶん僕って、どちらかというと女性側の視点でカップルについて考えることが多いように思うんです。

接客は相手の視点に立つことが大切なので、その癖が残っているからなのかもしれませんし、単純に僕が女性のことを考えるのが好きだからなのかもしれません。

ですが、今回は全男性が「一生の中で一度は感じるだろうモヤモヤランキング一位」になりそうなことについて触れてみたいと思います。それは、女性から言われる「私と仕事、どっちが大事なの!?」です。

「私はそんなこと言わない」とおっしゃる方も多いかもしれません。もちろん、今は働き方や夫婦生活のありかたも多様化してきていますから、それは必ずしも女性だけが言うセリフではなくなっているのでしょう。そういう場合は、たとえば自分が男性に「俺と○○と、どっちが大事なんだよ!?」と言われることを想像してみてください。○○には、推しアイドルでも入れてみましょう。

「『仕事があるからあなたとこの生活ができる。どっちも大事なんだよ』と言えばわかってくれる」と思っているかもしれません。でもそれでは納得がいかないから、女性も質問しているのではないでしょうか。

ここからは、この問題を解決するヒントを、いつものように接客の場面からお伝えしたいと思います。

「スイカズラの香り」という説明で、どんなワインか想像できますか?

話はガラッと変わりますが、ワインの味や香りの表現にはどんなものがあるかご存知ですか?

昔は「雨が降る秋の小道を歩く少女の靴の裏にはり付いた枯葉のよう」みたいな詩的な表現が存在したと言われていますが、漫画『神の雫』が流行った今でも、そんなワインの表現を営業中にすることはありません。

じゃあ、どういうふうに説明をするか。たとえば「ミントの香り」とか「チョコレートの香り」のような表現をするんですよ。これくらいならまだわかりやすいと思いますが、ソムリエ試験の中ではもっとマイナーな表現が出てきます。

たとえば「青草の香り」。青草ってわかりそうでよくわからない。ほかには「ナツメグ」。料理が好きな人ならなんとかわかるかもしれません。でもこれはどうでしょう。「スイカズラの香り」。スイカじゃないですよ? 春に咲く甘い香りのする白いお花です。

それらの言い回しは日本ソムリエ協会が推奨している言葉ではあるのですが、多くのお客様は素人なわけですから、そんなワードを連発したところで、味のイメージは伝わらないわけです。

でも「飲めばわかります」とだけ言うのも、ソムリエとしては失格なのです。では、どうするのか。

僕はホールにいる間、ずっとお客様の会話をなんとなく耳に入れていました。最近行った旅行の話、子どもの受験の話、楽しかったアイドルのコンサートの話……。それぞれのお客様の推しメンバーが誰かまでは聞かなくても、(ああ、“嵐”の話をしてるんだな)くらいはわかるように耳を傾けておきます。

そうやって話を聞いていたテーブルでワインを頼まれたとき、その情報が生きることがあります。

「このワインとこのワインはどんなふうに違うの?」

「こちらのワインは爽やかなハーブのような香りが特徴で、こちらのワインはそれとは対照的に桃のような甘い香りと味わいがします」

そういうセオリー通りの説明をして「うーん……」と言われたとき、僕は(あ、うまく伝わってないな)と思えばこう切り返します。

「嵐で言うなら、爽やかなワインの方は相葉クンで、甘い香りの方は櫻井クンだと思ってもらえれば」

そうやってお客様にとって身近なもので説明をすると、だいたいの場合は、面白がってくれて、いい反応が返ってきます。

「えー、じゃあ私、相葉クンにするわ!」

「ねぇねぇ、言っていい? 私の感覚だと甘いイメージはニノなの」

「ニノらしいワインと言えばこちらかもしれません。役柄で自分を変えるのが得意なニノみたいに、時間と共にすごく変化してくれます」

「あのさ、松潤だったらどれなの?」

誰しも馴染みのない言葉に反応が薄くても、好きなことや知りたいことに対してはこちらの話も聞いてくれます。だから接客の説明というのは、常に相手の立場になって、どういう話題にすると聞いてくれるんだろうか、というのを一生懸命考えて話すようにするわけです。

彼女が求めているのは「正論」ではない

もし「私と仕事、どっちが大切なの?」と言った経験がある人がいれば聞いてみたいのですが、もちろんどちらも大切だってことはわかっているわけですよね?

誰だって、仕事に一生懸命なことが素晴らしいことだとは、わかっているわけですよ。僕は前に、彼氏を探しているという何人かの30代以上の独身女性に「どんな人がいいの?」と聞いたところ、みな口を揃えて「ちゃんと仕事している人」と言いました。仕事が大切だなんてことは、たぶん誰しもわかっているんですよ。

それなのに、なぜそういう質問が出てしまうのか。それは「私」が満たされていないからですよね。優先順位が大きく仕事の方に傾いているのに、耐えられない。

だから言われた男性が言うべき発言は「仕事もあなたもどちらも大切だ。優先順位はつけられない」ではないわけです。それは相手の立場にまったく立っていないということが、わかりますでしょうか。

たしかに表面に出ているのは「仕事か私か」なんですが、ワインの説明にソムリエ試験ばりの「正確な」表現が求められていないように、あなたに質問を投げかけた彼女が求めているのは「正論」ではないんです。

であれば、どう答えればいいのか。 今すぐ、次の休みの予定を聞きましょう。そしてその日に出かける約束を入れましょう。すまないと思うのなら、「最近仕事ばかりで二人の時間をつくってなかったね、ごめん」と言いましょう。彼女が求めているのは「正論」ではなく、「私」にわかるかたちで表現されたあなたの愛情だと僕は思うのです

二人の関係がうまくいっているときも、そうでないときも、相手の立場に立ってものを考えてみるというのはとても大切なことだと思います。自分だけの言葉でものを話していないか、ちょっと振り返ってみてください。

素敵なおふたりでいられますように。ではまた。


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この連載について

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サービスが愛だと言うのなら

黒ワイン

かつて一流レストランでサービスマンとして働いていた、noteでも人気のクリエイター・黒ワインさん。cakesの連載では、サービスの仕事で培った「目の前のお客様を幸せにする」ためのスキルを、恋愛のコミュニケーションに活かす方法をお教えします。

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