あの人はいつも口だけだから」

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は口だけがうまい人についてのお話です。恋愛をしているなかで「あの人は口だけだ」と思った経験はありませんか? 森さんの恋愛エピソードをもとに、口だけの人について考察します。

誰かと顔をあわせるたびにいつも、「あの人は口だけなの、支払うのはいつもこっち」だの、「あの人は口だけうまくて、面倒なことからはいつも逃げる」だの、自分の彼氏に対してプンスカ愚痴を言う女性がいる。「いつも」って言っているくせに、「そういうあなたも口だけだね、別れたい素振りだけど全然別れないんだから」と突っ込みたくなってしまう。

「口だけの人」と付き合った時のこと

そんな私も、たぶん口だけだったんだろうな、という人と付き合ったことがある。とはいえ、振り返ってみても私は周囲に、「あの人はいつも口だけだから」と愚痴ってはいない。おそらく、言っていないと思う。なぜなら、付き合っている間は口だけなんて思っていなかったから。

とある小説で、「約束は約束した時点で、すでに守られたも同じなのだ」というような一節があった。口のうまさも同様で、「相手の口から出た時点で、欠片の嘘もなく本当なのだ」と思う。私の例で言うと、「そのうち一緒に住んだら、×××(海外のオシャレ家具ブランド)でベッドを買おうよ」「×××(海外のオシャレキッチン用具ブランド)の鍋で料理を作ってあげる」「美樹といると、人生が映画のようだよ」等々。

映画かぁ、間違いなく喜劇かサイコホラーだよね、なセリフの応酬だったが(今思えばね)、当時の私はまるごと信じた。勿論、オシャレなベッドも鍋も買ってもらわなかったし、一緒に住みもしなかった。ただ私の目をまっすぐ見つめて、「今まで好きになった人の中で一番好きだ」なんて言っただけだ。

嘘だなんて、私はこれっぽっちも思っていない。聞いた私が本当だ、真実だと信じたなら、本当で真実なのだ。彼は嘘を言ったかもしれない、口だけがうまかったのかもしれない。しかし、嘘か誠か、口だけがうまいのか、魂から出た言葉なのか、決めるのは相手ではなく受け手である私だ。私が納得しているのだから万事OK。ただ、彼ではなく私の心に少しでもほころびが出た時、彼ではなく自分が信じられなくなった、その時はすみやかに関係性の終わりを認めなくてはならない。

やっかいなのは、口がうまい人を疑ってかかる人

さて、私みたいなパターンはいいとして(彼の人間性云々を理由に、ではなく、自分の心で彼が必要か不必要か判断できたから。紆余曲折はあったとしても)、やっかいなのは「口だけがうまい」をはなから疑ってかかっている人だ。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません