朝、母から祖父の訃報を知らす電話があった。
すぐ実家の福島に向かうと伝えると、同様に一人暮らしをしている弟と合流して来い、とのことだったので、東京駅で待ち合わせることになった。
数年前から入院していた祖父がもう長くないことは随分前から知らされていた。また、生前の祖父は厳格で立派な人ではあったが、人嫌いの頑固者で距離もあった。それもあって、余り驚きも悲しみもなかった。
それでもやはり、祖父の命日が初めて身体が売れた日と重ならなかったことに安堵した。
金に困っているわけでなかった。高給取りではないが、少し節約を意識すれば十分に暮らしていけた。物欲も強くなく、趣味もなかった。
ただなんとなく、もったいなかった。
性欲という事象と女体という物質があり、これには需要があるようだった。また、暇を減らし、欲に溺れることで、様々なことから逃げ出せるような気がした。
だから、私は風俗嬢になった。
初めての客は予想よりも優しいものだった。
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