失恋とその立ち直り方。武者小路実篤『友情』が教えてくれること

光文社新書noteの大好評を博した、早稲田大学・森川友義教授の連載が光文社新書として発売になりました。この書籍化を記念して、cakesでも全文公開します! 武者小路実篤『友情』が名作である理由は、明治の時代にはまだ新鮮だった自由恋愛がしっかり描かれていたからということを証明してきた前回と前々回を受けて、『友情』編の最終回は、誰もが直面する「失恋」について深く考察します。


(前回からのつづき)

「失恋」の本質は不均衡にある

『友情』においては、「失恋」も大きなテーマになっています。失恋とはどういうものか、どのような精神状態になるのか、失恋を克服するにはどうしたらよいのかについて、小説の中に答えが隠されています。以下、順を追って見ていきましょう。

まずは、失恋の基本的構造を整理します。

失恋とは、ふられる側が被るものです。一方的な通告によって関係が解消されます。恋愛均衡説にしたがい、70点同士の恋人カップル(A君とBさん)の場合を想定して考えてみましょう。

A君とBさんは、交際当初はいわゆるラブラブ状態です。インフレ感情である「恋愛バブル」が生じているわけですから、お互いを100点満点近くの99点と評価するようになっています。世の中にこんな素敵な人はいないとさえ思うわけです。ところが、失恋に至るということは、どちらか一方の感情が冷めることを意味します。ここでは、BさんのA君に対する恋愛感情が冷めると仮定します。

BさんのA君への評価はピークの99点から徐々に減点されてゆき、80点になり、しまいには70点以下になります。恋愛においては、当初思っていたような人ではなかったとか、価値観が一致しなくなったというように、時間の経過につれて内面的な評価が下がる事態がしばしば生じます。あるいはBさんが80点の男性(C君)から言い寄られた結果、興味がC君に移ったというようなケースもありえるでしょう。

いずれにしろBさんは、徐々にA君と距離をとり始めます。いきなり別れを切り出すとA君がびっくりしてしまうので、まずはフェイドアウトを狙うわけです。A君は不審に思い、 Bさんに「どうして最近冷たくなったのか」と問いただしますが、Bさんは「ごめんなさい。ほかに好きな人ができたの」とでも答えれば、恋愛関係の解消となります。この場合、ふるのがBさん、ふられるのがA君ですので、A君が「失恋」となります。

ここでの最大の問題は、BさんにとってA君はすでに70点以下になっているので未練なく別れられますが、A君にとってのBさんは99点のままであるため、大きな失望を感じるとい うことです。人が失恋に痛みを覚えるのは、ふられた側は依然として恋愛バブルの真っ最中であるからです。A君のBさんへの評価が70点以下になっていれば問題ありません。しかし、この場合、A君はまだBさんのことが大好きなのです。したがって、恋愛バブルが大きければ大きいほど、別れはつらいものになります。

なお、一般的に失恋するのは男性です。わたしが教えている「恋愛学入門」の講義でのアンケート調査では、だいたい2:1の割合で、男性の方がより多くふられていることがわかりました。ふるのは女性、ふられるのは男性なのです。

失恋を克服する方法

では、恋愛バブルの最中にあるA君は、どのように失恋を克服することができるのでしょうか? この意味で、『友情』の野島がどのように対処したかはたいへん参考になります。

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