第304回 読むための対話:条件の行方(後編)

三角形の合同条件について話す「僕」。ノナちゃんはいったい何を考えるんだろう……三角形であなたも楽しもう!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

ノナユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。


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《先生ノナちゃん》の応答

「二つの三角形で三組の辺の長さがそれぞれ等しいならば、その二つの三角形は合同だよね。ノナちゃんは、いま僕が言ったこと、納得できる?」

ノナ「はい$\NONA$」

は、三角形の合同条件のうち、三辺相等の話を始めた。

でも、ノナはまだどこか納得していないようだ(第303回参照)。

そこで、《先生ノナちゃん》の扉をノックする。

「コンコン、コンコン。《先生ノナちゃん》、いらっしゃいますか」

彼女の中には二人いる。一人は生徒役で、もう一人は先生役。《生徒ノナちゃん》と《先生ノナちゃん》と呼ばれている。

もちろんそれは、仮想的な存在だけれど、僕たちが作った大切な共通認識なのだ(『学ぶための対話』参照)。

  • 《生徒ノナちゃん》は、数学に興味があって学びたい。
  • 《先生ノナちゃん》は、それを応援して理解を助けたい。

そしてはいま《先生ノナちゃん》にアクセスしている。

ノナ「何でしょうか$\NONAQ$」

「『二つの三角形で、三組の辺の長さがそれぞれ等しいならば、その二つの三角形は合同だ』と言ったんですが、《生徒ノナちゃん》は本当にわかっているみたいですか?」

は《先生ノナちゃん》にていねいに問いを送り……そして待つ。

《先生ノナちゃん》が、自分の内なる《生徒ノナちゃん》を観察し、対話を重ね、その結果を持ち帰ってくるまで。

しばらく経って、ノナは口を開く。

ノナ『当たり前なのになんで聞くんだろう』って思っている……みたいです$\NONA$」

「なるほど」

なるほど。そういうことか。

が「納得できるか」と尋ねたときに、ノナは「はい」と答えた。

でも、彼女の中では何かが引っかかっている雰囲気があった。

それは《これ》が理由なんだな。

ノナ「重なるから……辺の長さは等しい$\NONA$」

「うん、そうだね。ノナちゃんが考えているのは『合同ならば、三組の辺の長さは等しい』ということだね。僕が言ったのは『三組の辺の長さが等しければ、合同だ』ということ。この二つの主張は、違うことをいってる」

ノナ「難しい$\NONA$」

「ここは、数学において大切なところだから、ゆっくりいこう。この二つの主張は違うことをいってるんだよ」

  • 合同ならば、三組の辺の長さは等しい
  • 三組の辺の長さが等しいならば、合同である

ノナ「どっち……どちらがまちがいですか$\NONAQ$」

「どちらも正しいよ。もしも二つの三角形が合同ならば三組の辺の長さは等しいし、逆に三組の辺の長さが等しいならば合同になる。これはどちらも正しい。 僕が言いたかったのは、つぎの二つは違うってこと」

  • (1)Pならば、Qである
  • (2)Qならば、Pである

ノナ「$\NONA$」

「この(1)と(2)が違うことを主張しているというのはわかる?」

ノナ「大丈夫……大丈夫です$\NONA$」

ノナは自信ありげにうなずく。うん、これはわかっているみたいだ。

そうか……では、ちょっと挑戦してみよう。

「ノナちゃんは、(1)と(2)のようなを作ることはできる? どんなことでもいいから」

ノナ「だめです$\NONA$」

ユーリ「えー、何でもいいならすぐできるよー」

ノナ「ノナは、あたm……だめです$\NONA$」

「たとえば、この二つは違う主張だよね」

  • どら焼きならば、おいしい
  • おいしいならば、どら焼きである

ノナユーリは、が出した「どら焼き」の例に軽くウケる。

そして「おいしいからといって、どら焼きとは限らないじゃん!」というユーリの言葉を皮切りに、二人は美味しいスイーツの話を始めた。

でも、は内心、論理を教えることの難しさに気がついた。

はさらっと、命題とその逆について説明しようと思ったんだ。$P$と$Q$を命題として、

$$ \begin{align*} P \to Q \\ Q \to P \\ \end{align*} $$

は違う命題だと。

でも、どらやきの具体例を出してみて気付いた。 三角形の合同について本当にいいたいのは、命題論理じゃなくて述語論理なんじゃないだろうか。

  • 二つの三角形が合同ならば、三組の辺の長さが等しい。
  • 三組の辺の長さが等しいならば、二つの三角形は合同である。
これが、どんな三角形についても成り立つ……と言いたいんだ。 つまり、こんなふうに$\forall x$(任意の$x$について)を付加して話したい。

$$ \begin{align*} \forall x\, \PS{P(x) \to Q(x)} \\ \forall x\, \PS{Q(x) \to P(x)} \\ \end{align*} $$

もしも、$\forall x$を付けなかったら$P(x) \to Q(x)$の真偽は決まらない。自由変数$x$が残っているからだ。$x$を定めてはじめて真偽が決まる。

でも、ここであまり命題論理と述語論理の深みに入るわけにもいかない。

それに、話自体は伝わっている。

「どら焼きならば、おいしい」というのが「任意の$x$に対して、$x$がどら焼きならば、$x$はおいしい」という意味だと彼女たちにはちゃんと伝わっている。

また、 「おいしいならば、どら焼き」というのが「任意の$x$に対して、$x$がおいしいならば、$x$はどら焼きである」についても伝わっている。 伝わっているからこそ、これを偽にする例、すなわち反例をあっというまに見つけたんだから。

うん、いまはむやみに形式的な論理の話にならないように進んでいこう。

「話を戻すよ」

ユーリ「何の話だっけ」

「この話だよ」

  • (1)Pならば、Qである
  • (2)Qならば、Pである

ノナ「この二つは……違います$\NONA$」

「そうだね。二つの三角形について『合同ならば、三組の辺の長さが等しい』というのと『三組の辺の長さが等しいならば、合同』というのは違う主張なんだ。違う主張だから、両方とも別々に正しいかどうかを確かめる必要がある。もっとも、二つの三角形を重ねればすぐに確かめられるけれど」

ユーリ「ふんふん。面積だと違うよね。『合同ならば、面積は等しい』は正しいけど、『面積が等しいならば、合同である』は正しくない」

「そうだね。それはうまい例だ」

ノナ「まわりも$\NONAQ$」

ユーリ「ノナのターン!」

ノナ「合同ならば、まわりの長さは等しいです……でも、まわりの長さが等しくても、合同じゃない$\NONA$」

「そうそう! 『二つの三角形が合同ならば、まわりの長さは等しい』は正しい。でも『まわりの長さが等しいならば、二つの三角形は合同である』は正しくない」

ユーリ「まわりの長さが等しいとき、合同のときと合同じゃないときがあるよね」

「そうだね。まわりの長さが等しいからといって、二つの三角形が合同であるとは限らないわけだ」

ノナ「大丈夫……大丈夫です$\NONA$」

うん、このタイミングで次に進もう。

ノナが一人じゃないことはすごく大事だな……とはあらためて思った。

「例を作る」という行動自体にも例がいる。

ノナに例を作ってもらうとき、つい「どんなことでもいいから」と言ってしまった。 それが彼女の助けとなると思ったからだ。 でも、そうじゃない。そうじゃないとわかっていたはずなのにな。

ユーリだったら「どんなことでもいい」や「何でもかまわない」と言ったとたん、すごい例を出してくるだろう。 しかし、ノナはまだまだそこまでは行けない。

何もないところでノナが例を作るのはまだ難しい。 でもそこでユーリが例を作ってみせるなら……つまりは「例を作る例」を示すなら、 それに導かれるようにしてノナも例を出せる。 しかもその例は、彼女が気に掛けていた「まわりの長さ」を使った例となっている(第303回参照)。 これは、すごく大事な体験じゃないだろうか。

さらに。

が、『まわりの長さが等しいならば、二つの三角形は合同である』は正しくないといったときに、 ユーリはめざとく命題と述語の差違を見抜いている。

そしてユーリが素早く『まわりの長さが等しいとき、合同のときと合同じゃないときがある』と語ってくれるから、 ぼんやりと生じかねない疑念を留めることができる。

もちろん、その疑念の解決は、きっとどこかで改めて行わなくてはいけないのだけれど……

二辺夾角相等

「二つの三角形があって、二組の辺の長さがそれぞれ等しくて、その辺ではさまれている一つの角の大きさが等しいときも、 合同になるよ。このことを二辺夾角(にへんきょうかく)相等と呼ぶこともある」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに13巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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chibio6 ノナには三辺が等しければ合同だということがわかりきっているように見える。三辺の一致に… https://t.co/rL2IJkGjsb 9日前 replyretweetfavorite

aramisakihime 対話パートの中に「僕」のモノローグパートが(これまでよりは多めに?)入っていて、ノナちゃんだけでなく「僕」の成長もよくわかりました。 14日前 replyretweetfavorite

euler_KHUx ノナちゃんが成長していく過程が見れてうれしいやら楽しいやら\(^o^)/自分もこの… https://t.co/At7RarpbKa 14日前 replyretweetfavorite

Lsdu2DalePerry 「先生が言った・・・から大事なんじゃなくて《理由》が大事なの?」 今週のノナちゃんの言葉である。 14日前 replyretweetfavorite