天国であのフライを、と切望された店【カツカレー】キッチンマカベ

地元民から愛される絶品メニューがある。キャベツがぱりっと新鮮。漬け物はできる限り自家製。安い。女ひとりもOK。5条件を満たす定食屋を『東京の台所』の著者・大平一枝(おおだいらかずえ)が訪ね歩く。儲けはあるのか? 激安チェーン店が席巻するなか、なぜ地価の高い都会で頑張るのか? 絶滅危惧寸前の過酷な飲食業態、定食屋店主の踏ん張る心の内と支える客の物語。今回は街で愛され続ける洋食屋を紹介する。


2.4kmの祖師ヶ谷大蔵商店街、駅寄り300mに立地。サンプルケースが目印

 祖師ヶ谷大蔵商店街(世田谷区)で唯一、親子3代続く洋食屋だ。そう、定食屋ではない。だが、名物ポークジンジャーをはじめほとんどのメニューに、煮干しとカツオのだしがしっかりきいた味噌汁とご飯がつく。煮干しは前夜から水出しにしている。丼ものもある。 じつは1999年まで近所にあった成城警察署が得意先であった。署への出前と署員がメインの客である。ほかは沿線の学生と地元客だ。店主の兵藤智(さとる)さんは言う。

やかな卵黄色のオムライスは、埼玉県越谷市の栗駒ポートリーのあおばを使用

「だからついこの間まで、自家製のぬか漬けを添えた定食も出していたんです。もとは父が、新橋から中華の料理人を引き抜いてきたので、タンメンやワンタンメンの出前も多かった。冷やし中華は2年前にやめたけどいまだに作ってと言われます」


智さん(左)と長男、由弥さん

 創業1961年。父の昭夫さんは、「祖師ヶ谷大蔵にナイフとフォークの店なんてしゃれた店は流行らない」という周囲の声をはねのけ、洋食と中華が両方楽しめる店を出した。

 智さんは大学卒業後、フレンチの店で10年の修行を経て入店。92歳の昭夫さんが引退した現在は、息子の由弥さんとふたりで鍋をふる。ホールは母の照子さん、妻の寿志子さん、由弥さんの妻ありささん、妹の忍さんと、家族経営ならではの温かな空気が流れる。とくに朗らかな寿志子さんは店の太陽だ。初めての一人客にもとことん優しい。

牛すじを1時間半グリルするところから作るデミグラスソース。創業から継ぎ足している

 創業以来守っているのは「手間をかける精神」である。この日もデミグラスソース用の牛すじをオーブンで1時間半グリルしていた。焼き上がったら、創業以来継ぎ足しているソースに加えてさらにじっくり煮込む。これをからめたポークソテーやハンバーグは最強、間違いのない味だ。

オム・コロ1350円。創業から変わらぬ人気メニュー。ミニサラダ、スープ付き

 フォンドボーはもちろん、千切りキャベツにちょっと添えられたドレッシングやマヨネーズ、焼肉のタレもすべて手作りである。

 クリームコロッケにひとすじかかったデミグラスソースも深い味がするので、テーブルに置いてあるソースもまさかと思いながら尋ねると。

「さすがにソースは市販ですよ。ただ、ちょっと砂糖や一味唐辛子を加えて火を入れています。忙しいときは冷ます時間がなくて、熱々のまま出しちゃうことも」

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台所の数だけ、人生がある。お勝手から見えてきた、50人の食と日常をめぐる物語。

東京の台所

大平 一枝
平凡社
2015-03-20

この連載について

初回を読む
そこに定食屋があるかぎり。

大平一枝

絶滅危惧種ともいわれながら、今もなおも人々の心と胃袋をつかみ、満たしてくれる「定食屋」。安価でボリュームがあり、おいしく栄養があって…。そこに定食屋があるかぎり、人は店を目指し、ご飯をほおばる。家庭の味とは一線を画したクオリティーに、...もっと読む

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コメント

soramame_tette タンメンのエピソードでちょっと泣いてしまった。→ 16日前 replyretweetfavorite

gaina_kochan #スマートニュース ここ気になるなあ! 16日前 replyretweetfavorite

silentmen22 https://t.co/XvkNLklxgZ 16日前 replyretweetfavorite

yestarina 泣ける…はい、行きたくなりました。 街の洋食屋、大好き! |大平一枝 https://t.co/f3BXylRhy7 18日前 replyretweetfavorite