食べると死に至ることもあるけど、飢饉の時に利用されてきた植物を食べてみた

野食ハンターの茸本朗さんが今回チャレンジしたのは、秋の風物「ヒガンバナ」。実は強い毒があり食べると死に至ることもあるそうです。一方でかつては飢饉のときに食用にされたとも伝えられており、茸本さんは、古の人々に倣ってトライしてみることに…。

あんなに暑かった夏が駆け足で去り、あっという間に気温も下がってきました。鮮魚コーナーには秋鮭が、野菜コーナーには栗が並びはじめると、いよいよ秋の到来という感じがします。

我々日本人が「秋のもの」として思いつくものはたくさんありますが、その中の一つにヒガンバナがあることは論をまたないでしょう。何もなかった土手や田畑の畔に、秋になると突然真っ赤な花を咲かせるヒガンバナは、誰もが知る秋の風物詩だといえます。

曼殊沙華とも呼ばれることのあるヒガンバナ。その名前は仏教に由来し、墓地や寺院などの周辺に植栽されている場合も多いです。そのことや、彼岸の時期に花を咲かせることから「彼岸花」という名前が付けられたと考える人は多いですが、実は由来にはもう一つの説があります。
それは「食べると彼岸(あの世)に行ってしまうから」というもの。

ヒガンバナはその毒々しい見た目同様、全草に強い毒を含有しています。リコリンと呼ばれるその毒は摂取するとひどい下痢や腹痛を引き起こし、ひどいときには呼吸困難から死に至ることもあるといいます。そんな恐ろしい植物が庭にも植わってるってみんな知ってた? 
びっくりですよね。

その毒の為に害虫や害獣を寄せ付けない力があると信じられ、田畑の畔に植えられることも多かったそうです。

実は食べられるヒガンバナ

その一方で、ヒガンバナは実は食用にされてきた歴史も持っています。ただそれは一般的な食材としてではなく、ほかに食べ物がないときにやむを得ず利用された、いわゆる「救荒植物」のひとつでした。
ヒガンバナは球根(鱗茎)にデンプンをため込んでおり、砕いて水にさらすことで毒抜きしながらデンプンを取り出すことができます。有事の際にはそのようにして取り出したデンプンを練り、団子のようなすいとんのような「へそび餅」と呼ばれるものに加工されたそうです。


鱗茎はチューリップにも似ている

しかし、毒成分リコリンが一番含まれるのもまた球根です。そのため毒抜きに失敗して中毒してしまう事故も少なくなく、近年では飢饉の危機そのものがなくなっていることもあり、現在では「有益な救荒植物」としてではなく「危険な有毒植物」として認識されるようになっています。

しかし! この茸本の前には毒の有無などは関係ありません。大事なのは「適切な処理をすれば食べられる」ということ。であれば食べてみるしかない、昔の人の知恵に学び、有益な情報を後世に残すべく、自身で毒抜き&調理にトライしてみることにしました。

ヒガンバナを毒抜きしてみた

そもそも毒の植物からデンプンだけ取り出して作るという行為自体は、世界中ではごく当たり前に行われています。その代表的なものがタピオカ。タピオカの材料となるデンプンはキャッサバ芋という作物から採られたものなのですが、実はキャッサバ芋には極めて強い毒「シアン化合物」が含まれています。推理小説でおなじみの青酸カリと同じようなものですね。
一世を風靡した可愛らしいタピオカは、不用意に食べたら死んでしまうこともある芋から取り出したデンプンで作られているのです。

シアン化合物と比べればリコリンの毒性など可愛らしいもの、恐れるに足らん!(良い子はマネしない) ということでやっていきましょう。


まず、ヒガンバナの鱗茎(球根)をできるだけたくさん見つけ、スコップで掘り起こします。今回は50個ほど。
上記の通り、田畑の畔みたいなところで見つけやすいですが、林縁みたいなところの方が集めやすいと思います。田畑だと恣意的に生やしていることもあるしね。
もしくは市販されてる球根を買うのもありでしょう。ただその際は、栽培時に農薬を使っていないかどうかは確認した方がいいでしょう。


昔の人は手ですりおろしていたそう

これを、フードプロセッサーですりおろし、水を加えて野菜ジュース状のものにします。手でおろしてもいいですが、意外と硬くてぬめりが強く扱いは難しいです。昔のひとは大変だったんだろうなぁ……


おっ出とる

三角コーナーの水切りネットに入れて、口を縛ります。
この時点で既にデンプンを含んだ白い水が出てきているのが見えますね。

ボウルに水を入れ、ネットが破れないように注意しつつ、力強く揉みしだきます。隙間から白い沈殿物が見る見るうちに出てきます。
人によってはヒガンバナの毒成分で手が荒れてしまうことがあるので、ゴム手袋をして扱うのが無難でしょう。


水を変えてもまだ出る

ある程度デンプンが出たら水を大きな容器に移し、新しい水のなかで揉み出します。これを繰り返し、出てきた液はすべてまとめます。


正直、匂いは不快

青臭い懸濁液が大量にできました。この中にはデンプンのほか、球根の破片や、リコリン(致死量)などが含まれています。

これを放置すること2時間。


まだ不純物が多い

デンプンが沈殿しました。
上澄み液(リコリン入りの水と球根破片)を流して捨て、新しい水を注ぎ、一度ザルで濾してから、また待ちます。


だんだん透き通ってくる

今度は一時間ほど待ち、また水を替えます。

3回目は30分、4回目以降は20分くらいでデンプンが沈殿するので、都度同じ処理を施していきます。
5回目くらいから見た目の変化はなくなっていきますが、毒成分を抜くのが主眼なので今回は念を入れて7回やりました。ここまでですでに4時間以上かかっており、すでにかなりのしんどさがあります。飢饉の空腹時にこれを完璧にやり抜く自信はとてもありません。

このまま干して水分を抜いていくと


こんだけかよ

綺麗なデンプンが採れました。
球根50個から採れるデンプンはお玉にすり切り一杯程度、正直労力には見合いません。しかしこれでも飢饉のときには大事な食料となったのでしょう……つくづく、飢饉の心配をしなくてよい時代に生まれてよかった。

これをカチカチに乾し上げたら片栗粉のような粒子の細かい粉になり、保存できるようになります。
が、今回はこのまま調理に移っていくことにしましょう。

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野食ハンターの七転八倒日記

茸本朗

「野食」とは、野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する活動のこと。 野食ハンターの茸本朗さんは、おいしい食材を求めて日々東奔西走。時にはウツボに噛まれ、時には毒きのこに中毒し、、、 それでも「おいしいものが食べたい!」という強い思...もっと読む

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コメント

granat_san そういう感じの味なのか。 15日前 replyretweetfavorite

liliy_lua 彼岸花の球根の毒抜き法。彼岸花の球根って百合の根と違うんだっけ、と思ってたところに良記事。 https://t.co/JSMa6KdPd1 16日前 replyretweetfavorite

soh_u 曼珠沙華を食べる話 16日前 replyretweetfavorite