苦しいからこそシンプルに考える
シンプル・イズ・ベスト。
これは僕の信条とも言える言葉だ。ビジネスの決裁からプライベートでの買い物まで、僕は何事も即決即断で決めていく。かなり大きな予算の動くプロジェクトであっても、打ち合わせの現場でポンポンと結論を出していく。ひとつの熟考よりも三つの即決。そんな生き方、働き方が僕を支えてきた。
おかげで、こんなふうに聞かれることも多い。
「堀江さんって、悩むことはないんですか?」
それこそコンピュータのように、機械的なジャッジを下しているように映るのだろう。
もちろん、僕だって普通の人間だ。心臓に毛が生えているわけではないし、感情的になることもあれば、どうすればいいのかわからなくなることだってある。小学生のころには友達と喧嘩ばかりをして、かんしゃくを起こしては机を投げ飛ばしていた人間なのだ。とてもコンピュータのように冷静沈着ではない。
ただ、僕は自分が感情的な人間だからこそ、身にしみてよく知っている。
感情で物事を判断すると、ロクなことにならない。ましてや、感情で経営するなんて言語道断だ。
経営者となって以来、僕は感情で物事を判断しないよう、常に自分をコントロールしてきた。感情が揺らぎそうになったときほど、理性の声に耳を傾けた。悩むことをやめ、ひたすら考えることに努めてきた。そう、多くの人は混同しているが、「悩む」と「考える」の間には、決定的な違いがある。
まず、「悩む」とは、物事を複雑にしていく行為だ。
ああでもない、こうでもないと、ひとり悶々とする。わざわざ問題をややこしくし、袋小路に入り込む。ずるずると時間を引き延ばし、結論を先送りする。それが「悩む」という行為だ。ランチのメニュー選びから人生の岐路まで、人は悩もうと思えばいくらでも悩むことができる。そしてつい、そちらに流されてしまう。
一方の「考える」とは、物事をシンプルにしていく行為である。
複雑に絡み合った糸を解きほぐし、きれいな1本の糸に戻していく。アインシュタインの特殊相対性理論が「E=mc2」というシンプルな関係式に行き着いたように、簡潔な原理原則にまで落とし込んでいく。それが「考える」という行為だ。