コロナ禍のもとで旅行をして気づいた「新しいこと、初めてのこと」

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装が趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた……。今回は、コロナ禍のもと1年半ぶりに家族旅行をした仙田さんが、旅をするなかで気づいたことを振り返ります。

友達が旅行をプレゼントしてくれた


観覧車から見た天橋立

—旅行サイトのポイントが2万7000円ぶん溜まってるから、旅行をプレゼントするよ。子どもちゃんたちと一緒に行っておいで。

こんな提案をしてくれたのは、大学時代の友達だった。
当時は仲がよくていつもつるんでいたが、私がアルコール依存症と診断されて退学してからは、ほとんど連絡を取らなくなっていた。
Facebookで友達申請をしてくれたその友達と、25年ぶりにメッセージのやり取りをしていたところ、家族旅行をプレゼントしたいと言ってくれたのだ。

私は驚き、とても嬉しく思ったが、ややこしい気持ちにもなった。
旅行にはもう1年半ほど行っていない。
長女はとても行きたがっていて、カレンダーの8月1日の欄(夏休みが始まる日)のところに「りょこう」と書いていた。
子どもたちの気持ちとコロナのリスクを天秤にかけて、私はとても迷ったが、夏休みには旅行に行かなかった。

京都では感染判明者数が増え続けていて、長女の通う学童で濃厚接触者がでて2週間休ませたりしたし、隣の学区で陽性者がでたりもしていて、気を抜けない状態だった。
GOTOキャンペーンは始まっていたが、京都市の基準では赤信号。
万が一感染してしまったら、どうなるんだろう。
私が感染すれば、子どもたちはどうなるのか。
一緒に隔離されるのか、それとも児童養護施設に一時保護されるのか。
子どもたちが感染してしまい、症状が重くでてしまえば……また、おばあちゃんや、近所の友達や、保育園や学校に広めてしまえば。

不安は尽きず、夏休みのあいだは旅行どころか京都市内にもほとんど行かなかったし、外食もしていない。
ひたすら家のなかで遊び、たまに近所の川で水遊びをしたり、友達と遊んだり、スーパーに行ったりするだけの日々だった。
夏休みが終わる頃には、カレンダーにあった「りょこう」の文字の上に×印が描かれていた。
描いたときの長女はさぞかし残念だっただろうなと思うと胸が痛んだ。

そんな夏休みを過ごした後だったので、旅行に連れていければ子どもたちは喜ぶだろうなと思った。
京都の感染判明者数や陽性率も下がってきているので、このタイミングで、京都府内のみの移動ならそこまでリスクは高くないんじゃないだろうか。
丸一日あれこれと考えた挙句、そんな結論に達した。
旅行サイトで調べて、京都府北部にある観光地、天橋立の近くの民宿を選び、2泊のプランを選んで友達に送ると、友達が私の名前で予約を入れてくれた。

学校終わりに天橋立へ

9月最後の金曜日の夕方、学校の終わる15時過ぎに長女を迎えに行き、保育園に寄って次女と合流し、家に帰ると大急ぎで旅の支度をした。
オムツやおしりふきを持っていくわけではないので、スーツケースひとつにすべて収まったが、3人が2日間過ごす衣類はかなりの嵩になった。

隣町に住む母親に車で駅まで送ってもらい、電車に乗ってから時刻表を確認すると、宿のある宮津駅に到着するのは19時45分頃になるらしい。
京都駅からは特急で2時間ほどだが、特急の本数が少ないので途中で1時間近く待たなければならなかった。
子どもたちにとってはけっこうな長旅になったが、空席の目立つ特急車内では声をひそめて会話していたし、退屈してグズることはなく、お菓子を渡しながら「晩ご飯、宿に着いたら美味しいのあるからお腹空かせとこな」と言うと、お腹に溜まらなそうなグミやラムネを選んで食べていた。

駅まで迎えに来てもらって宿に着くと、部屋に案内された。
昔からある民宿、という感じの古びた宿だった。
窓の外がすぐ海で、天橋立が一望できる。
荷物を下ろしてから、すぐに食堂へ行って晩ご飯を食べた。
次女はエビフライやハンバーグ、長女は私と同じメニューの一部がエビフライとハンバーグに代えられたもの。
味は普通の家庭料理の味だったが、刺身は分厚くて美味しかった。
長女は刺身をひと切れだけ食べたが、あとはいらないというので私がもらった。

お風呂はどうしようか悩んでいた。
5歳と7歳の娘たちを連れて男湯には入れないし、子どもたちだけで女湯に入らせるのも心配だ。
他の客が寝静まった時間帯にささっと男湯に入るしかないか、と考えていた。
ところが宿に着いた時点でわかったことだが、客は私たちだけらしい。
心置きなく男湯に3人で入り、子どもたちは大きなお風呂にはしゃいでいた。

部屋に戻ると、子どもたちは絵本を読んだり、布団の上で転がって遊んだりし始める。
そのうち3人でUNOをしたいと次女が言いだしたので何回か勝負をしたり、スマホでアニメ「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」を観たりした。
いつもより夜更かしをして、22時半頃に寝た。

旅先のリフトで友達とすれ違う


ずっと乗っていたくなるリフト

翌日の土曜日は、先に起きてはしゃいでいる子どもたちの声で目が覚めた。
朝食を摂り、準備をしてから、宿の人に天橋立駅まで送ってもらう。
見どころは、山の上にあるビューランドという遊園地と、天橋立を挟んで向かい側にある山の上の傘松公園らしい。

どちらも回ることにして、まずはビューランドに向かった。
ケーブルカーとリフトのどちらを使うかで迷ったが、長女がリフトに乗りたいというのでそちらを選ぶ。小学生の長女はひとりで乗れるが、未就学児の次女は私が膝の上に抱えて乗らなければならない。
ベルトなどがないので若干怖かったが、高さがあまりないので、慣れると空中を浮遊する感覚が楽しくなってきた。

余裕がでてきて、下りのリフトで降りてくる人の顔をなんとなく見ていると、見覚えのある顔が急に現れた。
頭の処理能力が追いつかず、3秒ほど考えてようやく、友達だ、と気がついた。
去年知りあったシングルマザーの女性で、長女と年の近い女の子と一緒に暮らしている。
振り返ると、友達のひとつ前のリフトにその子も乗っていた。

山頂に着くと、その友達にLINEをしてみた。
彼女は気づかなかったようで、お互い「こんな偶然ってある?!」と驚いた。
あとで会えるかな、と思ったが、彼女たちは別のルートを回る予定らしく、それきり顔をあわせることはなかった。

山頂にあるビューランドは、いくつか乗り物がある小さな遊園地で、ここから「股のぞき」ができることで有名らしい。
股のぞきとは、前屈をするような格好になって足首を持ち、股のあいだから天橋立をさかさまに見ると、竜の形に見える、というもの。
さっそくやってみたが、よくわからなかった。

だがみんなの真似をして並んで股のぞきをする子どもたちの姿がかわいらしく、たくさん写真を撮った。
乗り物は観覧車にだけ乗った。
小さな観覧車だったが、私は高いところが苦手なので、肛門から背筋にかけてゾワゾワするのに耐えきれず、終始うずくまっていた。

2年ほど前に遊園地に行ったときもそうで、私が乗れないので子どもたちも乗り物に乗れず、結局メリーゴーランドにだけ乗って帰った苦い思い出がある。
そのため頑張ったのだが、小さな観覧車で限界を超えていることがわかったので、遊園地には当分行けないだろう。

花火がとても綺麗に見えた


3分間だけ上がった花火

リフトで下山し、食堂で昼食を摂った。
私は海鮮丼を、子どもたちはカレーうどんを食べた。
普段の天橋立を知らないので比較はできないが、リフトも食堂もそれなりに人はいるものの、何をするにも並ぶ必要は全くない、という程度の人出だった。

午後からは遊覧船に乗って、ビューランドの対岸にある傘松公園に向かった。
船が動きだすと、十数羽のカモメが追いかけてくる。
デッキの上からかっぱえびせんを投げている人たちがいて(船着き場でカモメの餌として売っていた)、それを食べているらしい。
赤ちゃんを抱っこ紐で抱っこしたお母さんから、子どもたちはえびせんを分けてもらい、一緒になって投げていた。

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女装パパが「ママ」をしながら、家族と愛と性について考えてみた。

仙田学

突然の離婚により、娘ふたりを育てることになった女装趣味の小説家。「シングルファーザー」になってみると、彼にはこれまで想像もしなかったことが待ち受けていた。仕事と家事・育児に追われる日々、保育園や学校・ママ友との付き合い、尽きることのな...もっと読む

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