大学に入ってしばらく経った頃、学科の後輩とよく寝ていた時期がある。
彼女と初めてセックスをする前の晩 宅飲みしましょう、と誘われた。
以前も何回か、「テスト勉強に付き合え」と言われ、彼女の家へは飲みに行っていたから、その日もなんとなく一人暮らしのアパートについて行った。
下らないテレビゲームをしながら。
学科の恋愛事情で大層盛り上がって。
彼女は一晩で飲む量ではないアルコールを流し込んでいた。
「そんな飲んで大丈夫?」
と笑いながら訊ねたら
「だって、彼氏に振られちゃったんで。飲まなきゃ、やってらんないです」
と、向こうも笑って返してきた。
酔いもあってか、湧き上がってきたのは失恋した人を慰めなきゃ、という機械的な思いだけで、
それはしんどかったねぇ、と軽く返した。
その時彼女がどんな表情をしていたのかは、覚えていない。
彼女は背が高く、中学高校と陸上部だったこともあって、細身かつ健康的な身体つきが目を引いた。 容姿も淡麗で、芸能人を思わせる様な顔立ちは、学科の中でもかなり評判だった。
かなりの人数から告白されていることは容易に想像がつく彼女は、僕には遠く離れた存在だった。
彼氏になれるなんて考えもしない。
多分僕も、何人かいる男の1人になっているのだろうと、そう思っていた。
その日の朝 彼女の心臓の音と、昨日飲んだ酒の匂い、柔らかい、溶け落ちるような、くちびるの感触で目が醒めた。
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