ある日。
埼玉県から取材旅行に来ているライターのTさんと新今宮駅で合流して昼から飲む。目的地の一つだったホルモンうどんの店「権兵衛」は残念ながら定休日。後から加わった珍スポット取材を得意とするライターのKさんと、3人で西成あたりを散策。Kさんの案内で、お好み焼きが100円で食べられる屋台に行くことに。屋台脇に置かれたテーブルで食べる。飲み物は店には置いてないが、近くの自販機で買ってくればいいという。発泡酒で乾杯。お好み焼きはボリュームもしっかりあり、美味しかった。
さらに京都在住のマンガ家・Sさんも加わり、4人で天王寺方面へ歩く。またもKさんの案内によって、Kさんが以前から気になっていたという「巴ビリヤード」という店に行くことに。「巴ビリヤード」は店名の通りビリヤード場なのだが、隣に同じ経営者がやっているうどん屋があって、ビリヤード場内でうどんも食べられるし、お酒も飲めるという変な店。
ビリヤード台の上に酒類やおつまみのメニューが置かれている。ビリヤード台としてよりもむしろテーブルとして利用されているようだ。日本酒の貴重な銘柄がたくさんあるそうで、すすめてもらったのを飲み比べる。酒のアテには、お刺身もあれば、サイボシなんかも置いている。「これはもうビリヤード場ではない、酒場だな」と思っていると、店の奥に座っている常連さんらしき方はビリヤード名人だそうで、普段は座っているだけだが、興が乗ったらビリヤードの腕前を見せることもあるという。ライターのTさんはこの店を題材に原稿を書く気になったらしく、パッとスイッチを切り替えたようにお店の方に色々話を聞いている。ふと立ち寄った店でも面白ければすぐに取材するのだという。さすがだ。
今日中に埼玉へ帰らねばならないというTさんと別れ、残ったKさん、Sさんと自分の3人で京都方面へ向かう。電車を乗り継いで大宮駅まで行き、タクシーで西陣エリアへ。西陣には「西陣京極」という小さな通りがあり、かつては芝居小屋や映画館がたくさんあったりして栄えていたそうだ。
そもそもは平安京の東西の端っこを意味する言葉である「京極」が、そこにたくさんの寺社が集まり、参道として賑わう通りとなって繁華街を意味する言葉となった。それにあやかり、京都の中に「〇〇京極」という名をつける商店街がいくつもできていき、この「西陣京極」もそういうものの一つなのだという。「〇〇銀座」という商店街があちこちにあるのと同じか。
その「西陣京極」が最も賑やかだったのは1950年代頃までで、その後は徐々に静かな町並みになっていった。今その通りを歩いてみてもポツポツと4、5軒のお店があるぐらいで、かつての賑わいは想像できない。そこに残っているお店の一つである「サカタ」が、今月末で長い歴史に幕を下ろすとのことで、京都に詳しいライターのOさんに声をかけてもらって「閉店前に飲もう!」と集まったのが今回ここへ来た目的なのである。
「サカタ」はしゃぶしゃぶとすき焼きを食べられる料理屋で、それでありながら店の半分がスナックになっていて、カラオケを歌って飲むこともできるという不思議な店。かつてはお肉を食べにくる客で賑わっていたが、町が静かになるにつれ、スナックのように利用したいという需要が増え、それに合わせて店の形を変えていったそうだ。まずは個室でしゃぶしゃぶをいただく。一口で、いや、食べずとも見ただけでいい肉とわかるような肉。厚めに切ってあり、旨すぎてすぐ満腹になる。京都の土地の因縁の話、Kさんが旅先で経験した怖い話など、なぜかミステリアスな話ばかりで盛り上がった。
個室を出てスナックスペースに移動し、焼酎水割りを飲みながらステージでカラオケを歌う。あっという間に終電の時間。会計は一人8,500円。「うお!」と思ったが、高級料理店でしゃぶしゃぶ食べてカラオケ歌ったんだから安いもんか。昼間、100円のお好み焼きを発泡酒で流し込んでいたことを思うとギャップに笑える。明日から節約しよう。
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