第301回 読むための対話:三角形の重ね合わせ(前編)

「ノナちゃん」再登場! 記念すべき連載第301回は、数学に苦手意識を持っている少女「ノナちゃん」のターンです。図形を巡って「僕」はノナちゃんと対話を始めるけれど……「読むための対話」シーズン、新始動!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

ノナユーリの同級生。 ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。 数学は苦手だけど、興味を持ってる中学生。

$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\SQRT}[1]{\sqrt{\mathstrut #1}} \newcommand{\TRUE}{\textbf{true}} \newcommand{\FALSE}{\textbf{false}} \newcommand{\FOCUS}[1]{\fbox{$#1$}} \newcommand{\GEQ}{\geqq} \newcommand{\LEQ}{\leqq} \newcommand{\NEQ}{\neq} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\SET}[1]{\{\,#1\,\}} \newcommand{\EMPTYSET}{\{\,\}} \newcommand{\NONAMACROBASE}[2]{\texttt{..}{\scriptstyle #1}#2} \newcommand{\NONAMACROBASEREV}[2]{#1{\scriptstyle #2}\texttt{..}} \newcommand{\NONAMACRO}[1]{\NONAMACROBASE{#1}{#1}} \newcommand{\NONAMACROREV}[1]{\NONAMACROBASEREV{#1}{#1}} \newcommand{\NONA}{\NONAMACROBASE{\textrm o}{\textrm O}} \newcommand{\NONAX}{\NONAMACROBASE{\textrm x}{\textrm X}} \newcommand{\NONAQ}{\NONAMACRO{?}} \newcommand{\NONAQREV}{\NONAMACROREV{?}} \newcommand{\NONAEX}{\NONAMACRO{!}} \newcommand{\NONAHEART}{\NONAMACRO{\heartsuit}} $

「三角形の合同条件は三つあるんだよ。二つの三角形があったとして……」

  • 三組の辺の長さがそれぞれ等しい。この条件は三辺相等(さんぺんそうとう)と呼ぶことがある。
  • 二組の辺の長さがそれぞれ等しくて、その辺ではさまれている一つの角の大きさも等しい。この条件は二辺夾角(にへんきょうかく)と呼ぶことがある。
  • 一組の辺の長さが等しくて、その辺の両端にある二組の角の大きさがそれぞれ等しい。この条件は二角夾辺(にかくきょうへん)と呼ぶことがある。

「……この三つだね。たった三つだから覚えるのはそれほど難しくない。でも、三つの合同条件が何を意味するか、よく理解しないと使えない。だから、まず三辺相等から詳しく話すよ」

ユーリ「ストップ!ストップ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!早すぎ!早すぎ!」

「あっと!……ごめんごめん、また早すぎちゃったよね、ノナちゃん?」

ノナは、緊張した顔でこくん、とうなずいた。

ノナ「ゆっくり……ゆっくりお願いします$\NONA$」

今日は土曜日。ここはの家のリビング。

と、いとこのユーリと、そしてノナがいっしょにテーブルで勉強をしている。

勉強というかなんというか……ノナが数学を学ぶのを手伝っているところ。

ユーリノナも中学生だから、そんなに難しい数学じゃない。いちおうは高校生だしね。

ユーリ「まったく! お兄ちゃん、ホントに何回言っても早口になるよね。これでもう、ワンアウトだよ」

「スリーアウトになると何が起きるんだろう」

ユーリ「チェンジじゃん」

いとこのユーリはいつもおしゃべりしている仲良し。 だから、間合いもよくわかっている。 ユーリがどんなことに興味を持ち、 どんなふうに考えそうかはだいたいわかる。

でも、ノナは違う。

ノナ「$\NONA$」

ノナユーリの同級生。

ひょんなことからは彼女に数学を教えることになった。

これまで僕たちは何回か数学トークを重ねてきたけれど、 それでもいまだにわからない。ノナがどんなふうに何を考えているのか、には、よくわからないのだ。

それに、の側の問題もある。自分が知っている話だと、早口になってしまうこと。 これは以前から言われてきたのに、いまだに直らない。努力はしているんだけどな。

「うん、じゃあ、ゆっくり行くよ。今日は三角形の合同条件の話」

はそう言って、ひと呼吸置く。そして、ノナの反応を待つ。

ノナ「はい$\NONA$」

ノナユーリと同い年だけど、ずいぶん小柄な体格だ。

丸い眼鏡を掛けていて、やや垂れ目。かわいらしいけれど、ふわふわした話し方とあいまって、だいぶ幼い印象がある。

ノナは、いつもベレー帽をかぶっている。 それは彼女のトレードマークのようだ。 トレードマークというか、アイデンティティなのかな。 そして……ちょっぴりのぞいた前髪の一部が銀色になっている。 《ひとふさだけの銀髪メッシュ》なのだ。

「……どうかな? 話を先に進めても大丈夫?」

ユーリ「だいじょぶだよ。三角形の合同条件っしょ?」

ノナ「さんかっけいの……ごうどうじょうけん$\NONAQ$」

「そうだね。三角形の合同条件の話をしようとしている。三角形はわかるよね?」

ノナ「知ってる……知ってます$\NONA$」

ノナは人差し指でテーブルの上に三角形をゆっくり描く。

「そうそう。それが三角形。三つのまっすぐな辺で囲まれた図形だね。三つの角があるから三角形」

ノナ「合同条件はわからない……わかりません$\NONA$」

「うん、これから話をするから、いまはわからなくても大丈夫。合同条件というのは、二つの三角形はどういうときに合同といえるのか……それを表す条件のことだよ。 ノナちゃんは三角形の合同はわかる?」

ユーリ「ごうどう」

ノナ「ごうどうは、知ってる……知ってます$\NONA$」

「じゃあね、『二つの三角形が合同である』ということを説明してみて」

ノナ「わからない……わかりません$\NONA$」

ノナはそういって、銀髪を指でひっぱる。

ユーリ「ノナ、こないだわかってたじゃん!」

ノナ「わかんなくなったんだもん$\NONA$」

「うん、大丈夫だよ。ノナちゃんは、うまく説明できないと思ってるんじゃない? 完全に正しい答えを言えなくてもいいんだよ。まちがってもいいし、何となくでもいいよ。『二つの三角形が合同である』とはどういうことだと思う? 教えてほしいな、ノナちゃん」

ノナ「おんなじ……三角形が同じ$\NONAQ$」

「うん、そうだね。合同というのは、ある意味では、二つの三角形が同じということ。でも、三角形が同じというだけじゃ不正確。 ノナちゃんは、だいたいのことはわかっているみたいだから、少しずつ正確にしていこう。 具体例があった方が話しやすいかな」

具体例(1)

は、グラフ用紙に三角形を描く。

「たとえば、ノナちゃんは、この二つの三角形を合同だと思う?」


ノナ「ちがう……ちがいます$\NONA$」

「そうだね。ノナちゃんのいう通りだよ。この二つの三角形は合同じゃない」

ノナは、数回うんうんうん、とうなずいた。

「この二つの三角形は合同じゃない、でも面積は等しいんだ。この三角形二つは、面積が等しいという意味では《おんなじ》だけど、でも、合同とはいえない」

この二つの三角形は、合同じゃない。

  • でも、この二つの三角形の面積は等しい。

具体例(2)

「じゃあ、ノナちゃんは、この二つの三角形は合同だと思う?」


ノナ「ちがう……ちがいます$\NONA$」

「ノナちゃんの言う通り。この三角形は合同じゃない。合同じゃないけど、二つの三角形の三組の角の大きさは、それぞれ等しい」

ユーリ「左の三角形をぐーっと大きくすると右のになるみたい」

「そうだね」

ユーリの言葉に反応しては『二つの三角形があって、三組の角の大きさがそれぞれ等しいとき、その二つの三角形は相似(そうじ)になってる』 と言いたくなったけれど、ぐっとこらえる。いまは合同の方に集中しよう。

「……三組の角の大きさがそれぞれ等しいという意味では、この二つの三角形は《おんなじ》だけど、合同じゃない」

ノナはもう一度こくん、とうなずく。

この二つの三角形は、合同じゃない。

  • でも、三組の角の大きさはそれぞれ等しい。

合同の定義

「具体例(1)や(2)でわかるように、二つの三角形が《おんなじ》というだけだと、意味がはっきりしない。面積のことを言ってるのか、三つの角の大きさのことを言ってるのか、それとも別のことを言ってるのかわからないから。そうだよね?」

ノナ「『同じ』だと、合同じゃないかも……合同にならないかも$\NONAQ$」

「うん、そうだね。単に《おんなじ》というだけだと、合同を意味したことになるかもしれないし、ならないかもしれない。 それだとちゃんと話を進めることは難しい」

ノナはもう一度こくん、とうなずく。その拍子に丸眼鏡が少しずれ、彼女は両手で位置を直す。

「でもノナちゃんは、具体例(1)や、具体例(2)で、二つの三角形が合同じゃないとわかった。ということは、ノナちゃんは『二つの三角形が合同である』というのが、 どういうことなのか、きっと知っているんだよね、うまく説明はできなくても」

ノナ「習った……習いました$\NONA$」

「なるほど。三角形の合同は学校で習ったんだ」

ノナ「ぴったり重なるの……重なります$\NONA$」

ノナは、両手の人差し指を重ね、重ねたまま指を動かしてテーブルに三角形を一つ描く。

彼女の中では二つの三角形が重なっているのだろう。

「そうだね! そんなふうに、二つの三角形をぴったりと重ねることができるとき、その『二つの三角形は合同である』と呼ぶことにするんだ」

ユーリ「えー、でもお兄ちゃん。《ぴったりと重ねることができる》って、それって数学になんの? もっと、こー、厳密な話じゃないの?」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ノナちゃんの物語はここから始まりました!

ケイクス

この連載について

初回を読む
数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに13巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

seytwo ノナちゃん回になってた! https://t.co/gucarFeInk 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

chibio6 ノナちゃんの「理由は定義……定義ですか..?」のところ、頑張って考えてる感じ… https://t.co/l8WQ49BpVx 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

a_pompomP とか言ってたらすごくタイムリーな話が(╹◡╹) https://t.co/pXA1GJGhbD 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

TkBohz ノナちゃんや、ノナちゃんとの関係性に成長が見られてじんときてしまった。 今回の話でミルカさんとの遭遇はあるのかな 約1ヶ月前 replyretweetfavorite