始まりは十代特有の悪ノリってやつだろうか。
高校生の時、放課後に二人でカラオケに行った。 気づいたら唇を重ねていた。 どちらからとも言わず、お互いからとも言おうか。
交互になんて気も使わず入れた私たちのセットリストは歌われずに、前の利用客のタバコの臭いのするカラオケルームにリードメロディーだけが流れていた。
ファーストキスだった。 生まれたときから幼馴染の二人は、お互い、お互いしか知らなかったし、他の人を知る必要性も感じなかった。
修学旅行は東京だった。
ホテルの自由時間には二人で同級生の目を盗んで最上階に行き、エレベーター横の大窓から一面に広がる夜景を見た。 お互い初めて生で見る煌々とした光には、思わず目を奪われた。
「ここからバンジージャンプしたらどうなるんやろ」
「いや、死ぬな」
笑いながら他愛もない会話をして、見とれる横顔のその睫毛の長さに鼓動を速くした。
こんな時間がずっと続けばいいと思っていた。
大学受験も無事終えた一回生の春、連絡が次第に来なくなった。
その人は東京の大学に行った。 私は地元に残った。
初めて別々の進路に就いた。
きっと忙しいだけだと自分に言い聞かせて聴いた好きなバンドの音楽にあの日の夜景を被せて少し泣いたりもした。
悪い予感は裏切らなくて、案の定私はふられた。 田舎の普通の高校の狭いコミュニティから抜け出したその人は、新しい人を見つけたようだった。
その日は、バイトから帰ってきて、疲れて、ベッドに直行して、スマホを見た。ラインの通知は慈悲もなく語った。
「最近連絡とれてなくてごめん。正直言って、好きな人ができた。 単刀直入に言うと別れてほしい」
まあ、そうなるわな、と思った。 その人を信じていた自分を殴りたくなった。
知らない間に関東弁に変わっていた彼は、まさに都会の大学生みたいなストーリーをあげて、毎日のように遊んで、その度に茶色に染め上げた女の後頭部が見えていた。
お前、ゴリゴリの関西人やったやんけ、と思った。
要するに、変わった。 大学デビューを目の当たりにした。
その人と自分と周りの全部の世界を嘲笑して、その日は翌朝の目の腫れも気にしないくらい無様にエンエンと泣いて、泣き疲れたら寝た。
そんなことがあれど大学生というものは忙しい生き物で、二回生、三回生と月日が過ぎるうちに何度か新しい出会いも別れも経験して、バイトやサークルの日々を過ごしていくうちにそんなことは私の淡い青春として化石になっていた。
ある日、幼馴染のグループの中の上京した一人が学生結婚するという知らせを受け、グループみんなで東京に集まった。
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