騙すか騙されるか? 極上のキノコを求めた諜報戦

今回の「野食ハンター七転八倒日記」は、秋の味覚を楽しむ「キノコ狩り」。しかし、野食ハンターの茸本朗さんによれば、それはただのレクリエーションにあらず、肉体の全てをかけて挑む戦闘遊戯?! スパイさながらのその様子をお届けします。

みなさまにとって「秋の味覚」と言えば一体なんでしょうか。
おそらくもっともたくさんの人が思いつくのは「キノコ」ではないかと思います。キノコ狩りといえば秋のもの、そう考えるのは自然なことです。

実際、木の葉が落ち森の風通しがよくなる秋は、キノコを探すのに最適な季節。落ち葉をかき分け、目を皿にして「地上のごちそう」を見つけ出すキノコ狩りは、まさに宝探しそのものです。

さて、そんなキノコ狩りですが、やったことがない人に話を聞くと多くの場合、なにかこう「牧歌的なレクリエーション」だと思われていることが多いような印象があります。

しかし実際のところはどうかというと……まあ、ヨーロッパとかでは親子で楽しくルンルンルンみたいなところがあると思いますが、日本では残念ながらそんな甘っちょろいもんではありません。

はっきり言ってしまえば、キノコ狩りなんてものはさながら「戦争」です。しかも頭脳戦。肉体のすべてをかけて挑む戦闘遊戯なのであります。


コウタケハンター珍道中

「毒キノコが恐い」というイメージのおかげで参入障壁が高く思われがちなキノコ狩りですが、実際のところはとても人気のあるレクリエーション。秋のメインシーズンとなれば、キノコ狩りのできる山は狩人たちであふれかえります。
とくにマツタケやホンシメジのような市場価値のあるものは、プロのキノコハンター(といっても資格などはなく、趣味のハンターに毛が生えたようなものですが)も目の色を変えて狙います。


地域によってはマツタケをもしのぐ人気を誇るコウタケ

ぼくがよくキノコを採りに行く山梨県では、コウタケというキノコがマツタケと並んで高い人気を誇ります。見た目はあまりよろしくないコウタケですが、焦がし醤油にも例えられる香ばしい香りと、甘みにすら感じられるほどの強烈なうま味があり、万人が好む非常に美味なキノコです。


ご飯に炊き込めば薫り高く


クリームパスタはポルチーニも凌駕する

直売所ではマツタケに次ぐ高値で売られており、そのため山に入る人の多くはコウタケを狙うハンターたちです。

地元の人々はハイシーズンになると2日とおかず山を巡り、ポイントを見つけていきます。
どんなに頑張っても週に一度行ければよい方であるぼくらアマチュアハンターは、ただのんべんだらりと山に入ったところで、コウタケなど採れるはずもありません。

我々がかの宝をゲットするためには、一にも二にも頭を使う必要があります。考えて、予想して、工夫に工夫を重ねる。精神的にも肉体的にも疲弊し、傷つき、ときに恐怖し、友達を失いながらようやく獲得することができるのが、コウタケというキノコなのです。

今回は、ぼくがこれまで経験してきた、この「コウタケ狩り戦争」の様子について、ごく一部ではありますがご紹介したいと思います。


コウタケ採りは危険がいっぱい!!

まずコウタケに限らず、誰もが憧れる良いキノコを採るためには、いくつかの要素が必要です。最低限必要なのが「自然を読む」力。
前年までの発生実績やどんな木が生えているのか、地形に方角、山を構成する岩石の種類、沢の有無、入りやすさ、登山道からの距離、etcetc...これらのすべての要因を組み合わせて発生地を予測し、広大な山の中でごくピンポイントの発生地に、ジャストなタイミングで向かわなくてはならないのです。3日も遅れてしまえば、キノコはもうライバルの手の中(もしくは虫に跡形もなく食い尽くされてしまう)でしょう。


地面から生えるキノコも、その多くは樹木と共生関係にある

これらの情報はいわば「武器」。これを身に着けてようやく、戦場へと足を踏み入れることができます。

さて、戦場に入って最初に気にしないといけないことは何か。それは自分の身に迫る危険(物理的なやつ)です。
コウタケが出る山は石灰岩質の土壌であることがおおいと言われています。石灰岩は雨水によって浸食されやすく、谷は深くえぐられ、斜面は大変な急角度になります。そのためコウタケ狩りで誤って足を踏み外し、がけ下に転落する例は少なくありません。

さらに怖いのがスズメバチ。
秋はスズメバチ類が獰猛になるシーズンな上に、森林性のスズメバチの多くは地中に巣を作るため、不注意で近づいてしまうことがままあるのです。
あいつら、頭や顔はもちろん、腕だと肘関節の裏側、足だと膝関節の裏側のような「血管が皮膚に近くて毒の周りがよさそうなところ」を選んで刺してきやがるんですよ……

そしてさらにさらに怖いのがそう、クマ。
コウタケはコナラなどのドングリのなる木と共生します。そのため冬眠に備えてドングリを食べにくる森のクマさんと鉢合わせしてしまうことがあるのです。
クマに出会ってしまったらクマ撃退スプレーを噴射するか、相手の目をしっかり見つめながらじりじりと後退し、距離をとってからすみやかに退去するのが良いでしょう。

ちなみにぼくは独りでコウタケ採りに行くときは、常に男塾のテーマを歌いながら歩いています。あれ、クマ除けにいいっぽいです。ソースはぼく(n=1)。


いちばん厄介なのは「ヒト」

さて、正しい情報を持ち、さらに上記のような危険を突破して、ようやくライバルたちと戦うことが可能になるわけですが、ここからがようやく本番。このコウタケ採り戦争は、ずばり情報戦(諜報戦)なのです。

コウタケと出会うためにぼくがまずやること、それは「現地での聞き込み」です。
ずばり、キノコの直売所や取り扱いのある道の駅、山中で出会ったキノコハンターなどから、有益な情報を聞き出すのです。

もちろん馬鹿正直に聞き出そうとしても教えてくれるわけがないので、スパイになったつもりで手練手管で頑張る必要があります。

例えば、キノコ屋や道の駅なら、そこでなんらかの買い物をすれば多少は教えてくれやすくなるでしょう。客になる人を無下にはできないのが商売人の性。なのでぼくはキノコ屋があったら、情報を仕入れるべく何はなくとも立ち寄るようにしています。顔を覚えてもらうために通い詰めている店もいくつもあります。


高値で販売されるコウタケ

この聞き込みですが、ぼくは自分が入ろうとしている山の隣の山麓のキノコ屋で聞くようにしています。自分のシマでない場所のことなら多少は口も軽くなるからです。もちろん彼らのポイントではないので詳細な部分の精度は低くなりますが、発生時期や発生条件などは十分参考にできます。

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野食ハンターの七転八倒日記

茸本朗

「野食」とは、野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する活動のこと。 野食ハンターの茸本朗さんは、おいしい食材を求めて日々東奔西走。時にはウツボに噛まれ、時には毒きのこに中毒し、、、 それでも「おいしいものが食べたい!」という強い思...もっと読む

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コメント

agyrtria 茸本君は、名は体を表すでキノコ採りの才能があるんだな。香茸とり、面白いw⇨ 30日前 replyretweetfavorite

yestarina >キノコが生えるところと生えないところを完全に見分けるのはどんな玄人でも不可能 >いちばん厄介なのは「ヒト」 キノコ狩り、色んな意味で生きる力が問われる https://t.co/2OG3KITdSZ 約1ヶ月前 replyretweetfavorite