負けず嫌いだね、と昔から言われることが多かった。私は、そう言われるたびに、首を捻ってきた。負けるのが嫌いなんて当たり前じゃん、と。勉強も運動も恋愛も。男にも女にも誰にだって、負けたくはなかった。もちろん、勝てないことはたくさんあるけれど、勝てないとわかっている場所では勝負したいとは最初から思わなかった。私はただ、踏ん張れば勝てると思ったところで、力を入れて踏ん張り続けてきただけだ。それって当たり前でしょう?
私の中で、「当たり前」が覆されたのは、二〇二〇年五月のことだった。その頃、感染症が日本中に広まっていたせいで、私は三ヶ月以上もの間、大好きなラブホテルに行けていなかった。誰にも会わず、一人家の中で、オンライン授業と就活のエントリーシートとに格闘する日々。憔悴しきっていた私が、やっと、久しぶりにラブホテルに行ってみようと判断できたのは五月の終わりで、いつも一緒にラブホ巡りをする男の子に「気分転換にラブホテルに行こう」とLINEを送ると、「いいね」と返事がかえってきた。
電車に揺られて相模原まで行ったのは、宇宙がコンセプトのラブホテルに行ってみたかったからだ。なんとなく、宇宙のラブホテルにいけば、今の生活の気分転換になると期待していた。海や空、スカイツリーの展望台からの東京の街、あまりにも広大なものを目にした時、私は自分がちっぽけだと感じることができる。ちっぽけな存在になるっていうのは、全然嫌な気分じゃない。むしろ、良い気分だ。私の悩んでいることは、なんて小さなことなんだと安心できるし、同時に、小さいけれどこの大きな世界の一部であることをも実感して、嬉しくなる。引きこもりの生活をしていた私は、広大な宇宙を感じることのできる場所を求めていた。
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