新・街場のパン屋論 朝から開いてて飲めるパン屋を始めた理由ー下北沢・ミクスチャー

ケトルVol.05は、「パン屋」特集! 朝7時から開いてるパン屋はエラい!ビールかワインが飲めたら尚良し! そんなパン屋さんが下北沢にありました。

近所のお店のおばさんが、朝ごはんのためのパンを買いに来たり、出勤前の会社員がモーニングを食べていたり、若夫婦がさわやかにサンドイッチをかじっていたり。下北沢に暮らす、いろんな人々が朝早くから集まってくる、街のパン屋さんの理想の形、ミクスチャー。今っぽさと懐かしさと、両方がうまい具体に溶け合った、不思議な落ち着き感がこのお店にはあるんです。

朝から開いてて飲めるのはご近所さんに好きなように楽しんでもらうため。

比較的朝が遅い下北沢。朝9時から始まる、南口の喫茶店、ザックが早起きとされるくらい、朝の下北沢はとても静かです。そんななかで、朝7時半から開いているミクスチャーは早起き族にとっては非常にありがたい存在。
 
例えば平日、会社に行く前。新聞を読みながら、厚切りの食パントーストのほかに2種類の焼き立てパン、ゆで卵、サラダ、ドリンクがセットになった500円のモーニングがおいしすぎること。目がギュッと詰まった山型パンを、分厚くスライスしてさっくりトースト。心地よい歯触りとしっとりとしたやわらかさ、ふかふか感に誰もが幸せになれる味。これ、焼かずにそのまま食べてもすごくおいしいんです。朝食ついでに1斤買って、歩きながら袋の中のいい香りをくんくんするのも至福の時間です。なんでパンってこんなにいい匂いがするんでしょうね。
 
ほかにも、朝イチビールとともに味わうサンドイッチも激旨です。大きな牛の塊肉を丁寧にローストした、肉感たっぷりの自家製ローストビーフを挟んだ「ミクスチャーサンド」(470円)、B.L.T.C.サンド(CはチーズのC・モッツァレラとゴーダのミックスチーズです)、スモークサーモンサンドが三大人気サンド。どれもクロワッサン、フランスパン、フォカッチャ、食パンと4種類のパンから好きなものを選べます。というのも、ミクスチャーのお客さんは老若男女、世代を大きくまたがっています。だから例えば、歯が弱めなお年寄りでも好きなサンドが食べられるように、配慮されているのです。すごくいいでしょう?
 
でも、朝が遅い下北沢でどうしてこんなに早くお店を開けているんですか?

「おじさんから受け継いだお店だから、地域とのつながりを大事にしたいんです。いつでもやっていること。なるべく開いている時間が長いこと。これらはずっと守っていきたいと思っています」 

大英堂とミクスチャー

店主の中井慈さんが「おじさん」と呼ぶその人は、ミクスチャーがオープンする数ヶ月前まで、下北沢一番街の同じ場所にあった「大英堂製パン」の関忠雄さんのこと。ミクスチャーのロゴをよーく観ると、「mixture bakery & cafè」という店名の脇に、小さく「大英堂」という文字が添えられています。目黒の不動前駅にある同名のパン屋さんで修業した関忠雄さんが独立し、のれん分けで開業した大英堂。目と鼻の先にある成徳高校(女子バレーの強豪校としても知られています!)での構内販売なども行うなど、地元で人気を博していました。

 
関さんのパンに、中井さんが出合ったのは2000年頃。物理化学を学んでいた大学時代、カフェブームの真っ只中にいた中井さんは、当時のブームを牽引した鎌倉のカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュなどに憧れて、カフェ店主を夢見ていました。
 
しかし、卒業後はカフェではなく大きな企業にエンジニアとして就職。仕事は楽しかったものの、「5年をめどに働いて、それでもカフェの夢をあきらめきれなければ思いきって、やってみよう」。そんなふうに考えていた中井さんでしたが、社会人2年目の時、大英堂の裏に住んでいた友人に、おいしいパン屋さんだからと連れていってもらったことをきっかけに、会社が休みの土日限定でおじさんの手伝いをすることになりました。


「大英堂に数回通ってからでしたね。パンのおいしさはもちろんでしたが、会って間もない僕の話を真剣に聞いてくれたおじさんの人柄に惹かれたことも大きかったんです。ここでおじさんからパン作りを学びたい!と、手伝わせてもらえるように、一生懸命頼み込みました」
 
それから約4年にわたって、会社員とパン屋の弟子という二足のわらじ生活を送った中井さん。

「とにかくおじさんはいつも笑っていました。お店に来るお客さんも、パンだけでなくおじさんの笑顔を見たくて来ていたんだと思う」
 
そうして会社員6年目を迎えた時、中井さんはカフェを開く夢を叶えるべく、会社を退職しました。おじさんが突然亡くなったのは、そのわずか1ヶ月後のこと。

「心筋梗塞だったんですが、本当に急に亡くなられてしまったんです。直前までパン作りをしていたから、パンの材料もたくさん残したまま。で、弟子は僕一人だったし、おじさんの代わりに店を継ぎたいと、おばさん(関さんの奥様)と娘さんに相談したら、残念ながら反対されてしまったんです。当時、一番街自体にお客さんが減っていたこともあり、ここでお店をやっていくのは厳しいだろうからって」

大英堂から受け継いだ、ベーシックな食パンが一番売れています

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朝から開いてるパン屋が大好き!

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ケトルVol.05は、「パン屋」特集! 「朝から開いてるパン屋が大好き」をテーマに、 東京・京都・福岡・千葉・岩手にあるパン屋さんをご紹介します。 「食パンの歴史」「バターの正しい塗り方」などの小ネタもたっぷり。 朝7時から開...もっと読む

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