恋人と別れるときは、自然消滅がいい

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は「自然消滅」についてのお話です。昔はきっぱりとけじめを求めていた森さんですが、ある経験から、自然消滅推奨派になったのだそう。別れの最終形態を考えていきます。

昔、私は自然消滅が嫌いだった。嫌いというか、そういうタイプではなかった、と言うべきかもしれない。自然消滅、もはや消滅しているかどうかも定かではない関係というのが、どうにもモヤっとしていて先に進めない気がしたのだ。だから恋愛で終わりが見えた時には自分からきっちり別れを告げていた。

純粋さというオブラートに包んだ暴力

あ、終わらせようとしているな、という相手側からの別離オーラを感じたときも、決して引き下がらなかった。「終わりにしたい? 終わりにしたいんだよね? 終わっているんだよね? じゃあ、終わらせようって言ってくれる?」と迫った。実際、相手がうまく離れようとしているのに、それを重々承知しているのに、連日電話やらメールを入れて、「終わりだよね」「別れたいんだよね」「嫌いって言ってくれる?」と迫った。

だったら自分から「別れましょう」と先まわりしてもいいのだが、私側はまだかなり、とても、すこぶる大好きだったものだから、相手を慮ってもそんな嘘はつけなかった。自分の気持ちに嘘をつくなんてできないよ! だって大好きなんだもん! という、純粋さというオブラートに包んだ暴力をふるっていた。1日1回、文面を変えて送られてくる「別れるって言って」「終わらせたいって言って」メール。せめて相手を退屈させないように、日常をおもしろおかしく綴って、最後の〆に別離の催促をした。

今、振り返ってみると恐怖だ。相手にとって迷惑以上の何物でもない。これを書きながらも、相手に対して申し訳なさでいっぱいである。

きっぱりとけじめをつけてくれないと前に進めない、ほんの少しのやさしさがあるなら、別れの言葉をください、という欲求は女性に多いかもしれない。よく言われるとおり、女性の恋愛は上書き保存で、男性の恋愛はフォルダ保存なのだろう。これも一括りにはできないが、こういった傾向だと思う。

さて、先程の私が1日1回別離の催促メールを送っていた彼だが、確か10日~14日後の大晦日にやっと別離メールをくれた。「ごめんなさい、別れてください。お願いします」との一文だった。定型文というかシンプルそのもの。私は、これでやっと新年を迎えられる、とホッと胸を撫でおろしただろうか。答えはノーだ。私の心は後悔に苛まれた。自分はなんてわがままだったのだろう、自分勝手で、エゴのかたまりで、恋愛する資格もない。どうして、相手が一番言いたくない言葉を無理に言わせてしまったのだろう。

嫌われたとしても、嫌悪されたくない

世の中には、けじめをつけたり、人との別離を言い渡すのが死ぬほど嫌な人がいる。別れたい、終わらせたい、と願っても、それを相手に伝えるのは罪のように感じてしまうタイプか、やさしすぎてそれができないタイプ。稀に、こっちは嫌いでも相手にはいつまでも好きでいてほしいからあえて言わない、というタイプもいる。私は、相手のことがかなり、とても、すこぶる好きだったくせに、そういう相手の性質を理解していなかった。

自分の気持ちに嘘はつけない、なんて単なるカッコつけ(だから、単なるエゴ)で、別離の催促で相手の気を引いていただけだ。もしかしたら一発大逆転があるかも、別離の催促にかこつけて日々おもしろメールを送ってあげている私を見なおしてくれるかも、という勘違いもはなはだしい期待が私の中にはあった。思い返しても火が出るほど恥ずかしいです。

そして本当に別離のメールがきてしまった。けじめをつけられてしまった。もう、連絡を取ることができない、さっくりとばっさりと縁を切られた。いや、結果、ズタズタに縁を切り裂いたのは私自身だったのだ。相手が望むようにスーッと自然消滅にしてあげれば、後味は悪くはなかっただろう。しばらくはモヤモヤするけれど、相手の気持ちを尊重した自分を誉めてあげたくなっただろう。

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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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