朝目が覚めたホテルでは、窓からセミの鳴き声が聞こえていた。
好きと性行為が結びつく女の子っていいなと思う。
好きな人としかできない、ありえない。
こんな言葉を周りからもよく聞いていた。
それだけ今まで、清い人間関係に囲まれて生きてきたんだろう。
生憎、私の人間関係はそう清くはない。
好きじゃなくてもキスや性行為をできる人は、この世の中に沢山いる。
よくある話で、私はその「好意のない性欲」をぶつけられることが度々あった。
初めてそれを経験した相手は、二年前に好きだった男の子。
大学一年の時に好きだった彼は、 あっさりと私の心から清さを奪っていった。
たまたま被った授業で席が前後だったのがきっかけだったと思う。 話してみるとノリも趣味も合うので、 私が彼に惹かれるのにそう時間はかからなかった。
何回目に彼と遊んだ日だろう。
多分、初めて一緒に美術館に行った日。
季節はもう冬になっていて、その年の初雪が降ったあの日。
ふと、彼が帰りの車の中で 「俺のこと思ってくれる人なんていないよ」 なんて呟くから、とっさに
「私は好きだよ」
と言う予定ではない本心を伝えてしまったのだ。
本当に伝えるつもりはなかった。
なぜなら、私と彼はあくまでも友達であると知っていたから。
少し間が空いて彼が言った「ありがとう」に 私は驚かなかった記憶がある。
彼は好きな女の子に「ありがとう」なんて曖昧な返事をする人ではない。
車内はどんどんと冷たくなっていく。
もう少し楽しめば良かったな、何で言っちゃったんだろうと、少し自分を責めながら、 私は窓の外の初雪を眺めていた。
「キス、してもいい?」
流石に気まずいなと思いはじめていた頃、 彼は私に言ってきた。
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