定食屋、最新分類4型
地代の高い都心でありながら、安くておいしい定食にこだわり、熱い支持を受け続けている店には、ちゃんと知恵と工夫がある。それらを探るのも醍醐味だが、この厳しい時代に「儲けが薄そうなその業態を続けるのはなぜか」ということに、いちばん興味がある。ガッツややる気や親の志を守る一心だけでは、あまりにしんどすぎるのだ、この商売は。
今回は近年の成功している定食屋の分類と特徴、および正しく定食屋を楽しむための大人の流儀を2回に分けて記したい。
まず、取材20軒ロケハン40軒のべ約60店舗を独断で分けると以下になる。
A、新規参入スマート戦略系
ほかの飲食業態で成功。または、親の代で途絶えかけた店を一から立て直し、ほぼ新規参入状態で経営する。
CASE1)『キッチン男の台所』オーナーは、自ら興した豚骨醤油ラーメンの誠屋と百麺(ばいめん)を人気店にした後、定食屋を開店。
「東京のように住宅が密集した地で豚骨をやる場合は、ニオイ対策が重要。換気のほかにも油汚れのメンテナンスにも膨大な費用かかかる。今後、豚骨を増やしていくことに限界を感じた」ことが動機に。
CASE2)『キッチンABC』のイチバン人気、黒いオムカレー。店主は父親が経営する店で、コックから始めて立て直し、4店舗に拡大。
<特徴>
・ボリュームたっぷり
・カレー、カツ、唐揚げなど誰もが好きな定番メニューを核に、割安なセットが多彩。限られたメニューの組み合わせでバリエーション豊富に見え、客は選ぶ楽しみが増える。店は効率化を図れる
・メニューがSNS映えする。客の発信で口コミで広まる
・人材が営業継続最大の鍵と心得ているので、シフトや勤務時間、給料体系、バイトの教育をシステム化している。働きやすい環境に心を配る
・メニューが写真入りで見やすい
5代目菱田アキラさんの生姜焼きで大ブレイクした『菱田屋』。店のレシピを公開した料理本も人気
B、パンク唯我独尊系
味も内装もメニューも我が道を行く派。時代や周囲の流行に左右されない。かたくなに自分を信じて、方法論を変えない。店主の考え方がパンク。店主が元バンドマンだったりする。
このグループで、リーマンショック時も生き残った店は、コロナ禍でもダメージが最小の感あり。
『ブルドック』店内。一番目立つところに店主の絵画が
CASE3)『ブルドック』店主は、「バンドの練習帰りに通った、安くておいしい豚バラ定食が原点」と語る。
CASE4)米や味噌はもちろん、塩の産地や製造法にまでこだわる『美松』の営業は1日3時間。店主の取材は、月の満ち欠けや宇宙の波動にまで話が及んだ。
麻布十番で44年目の『喫茶レストラン縄』。ひとりで定食24種をつくる
<特徴>
・内装が個性的
・価格設定、品数、ボリューム、メニュー数ともに「我が道を行く」。他店や口コミグルメサイトを一切気にしない
・店主の個性が強い
・いろんな意味で「癖」が強い。客を選ぶ
・SNSをしない
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