将棋を知らない開発者がつくった「Bonanza」の衝撃
加藤 ところで、最近のコンピュータ将棋の開発者は、あまり将棋が強くない方も多いって本当ですか?
山本 はい。アマチュア5級もない方もたくさんいます。みなさん、話しているだけだと将棋がすごく強そうなんですが、指すと驚くほど弱い。名前はふせておきますが、とある強豪ソフトの開発者の方が、対局中に銀を横に動かした(注1)ことがあります(笑)。
注1:銀将の駒は前方と斜め後ろにしか動かせない
加藤 おお(笑)。初心者がやりがちなミスですね。
山本 私はもともと指す将棋から入っているので、開発者同士で話をしていても、けっこう指し将棋の話をしてしまうんです。「◯◯さんのソフト、最近よく“ダイレクト向かい飛車(戦法の一つ)”指すよね!」とふっても「なにそれ?」みたいな反応を受けることがあって悲しいです(笑)。それでもみなさん、どの囲いがいいとか、このかたちはプログラムが苦手そうとか、そういうことは判断できるんですよ、不思議なことに。
加藤 うーん、おもしろいですねえ。山本さんの場合、ご自身の将棋が強いというのは、将棋ソフトの開発に役だっていますか?
山本 どうでしょう……モチベーションとしては有利に働いているかもしれませんが、ちょっと強いからどうなんだ、というところもありますね。開発にはあまり関係ないかもしれません。むしろ、コンピュータ将棋で大事な概念が、指す将棋の方にはなかったりして、2つの世界の翻訳に苦労する面もあります。
加藤 ちょっとそもそもの話をしていいですか。山本さんは、どうして将棋のプログラムを開発しようと思ったんですか?
山本 大学に入るまではコンピュータが苦手だったんです。でもせっかくだから、苦手なことにチャレンジしたほうがいいかなと思って、プログラミングを勉強しました。そしてプログラミングに詳しくなるにつれて、「将棋ってプログラムで指せるんじゃないかな」と思ったんですよね。将棋の方は、昔からやっていましたから。
加藤 なんか、意外というか、だいぶ素朴なきっかけですねえ。
山本 そうなんですよ。軽いノリで開発を始めてしまったことが、名前にも表れています。BonanzaをもじってPonanzaって、ねえ。開発当初にタイムスリップして「もっとちゃんと考えろ」って自分に言ってやりたいですよ(笑)。しばらくは「Ponanza」でGoogle検索すると「もしかして Bonanza」と表示されていました。
加藤 (笑)。では、コンピュータ将棋の盛り上がりとは関係なく、いわばなんとなく開発を始めたんですね。
山本 そうです。だから、コンピュータ将棋の発展や、Bonanzaが出てきた当時の様子などはあまり知らないんです。
加藤 ああ、そうなんですか。僕は20年前くらいから将棋ソフトに触れてきていて、そのころソフトはとても弱かったので、2005年にBonanzaが出てきたときはすごい衝撃を受けましたよ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。