「悪い男になるよ、俺、悪い男になってやる」
大学二年の夏、彼女に浮気されて捨てられたばかりの僕は、大学の友人たちに泣きながらそう息巻いた。
友人たちはそんな僕を笑ったが、小さな居酒屋でしたその宣言が、自分でも意外なほどに、僕を「悪い男」へ仕立て上げていった。
数日後、僕がフラれたことを聞きつけた同級生の女の子が、僕を飲みに誘ってくれた。
その子は僕も仲のいい先輩と付き合っていて、当然、その先輩も連れてくるものだと思っていたが、その子は一人で明大前の改札に立っていた。
「先輩は?」と聞くと「今日は呼んでないよ?」と、口角をキュッと上げ、大きな目をキラリとさせながら「こっち!」と僕を手招きした。
居酒屋でひとしきり彼女にフラれた経緯を話し、それを慰めてもらって、それからは好きな音楽の話で盛り上がった。
トイレから帰ってきたその子はひどく酔っ払っていて、僕の膝を枕にするように仰向けに座敷に寝転んだ。
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