情け容赦ないルッキズム
『こち亀』内でのジェンダーの押し付け、旧時代的女性観、あからさまな能力差別は、世相に連動する形で00年代以降減っていくが、女性絡みのポリコレ案件の中で、連載終盤までいっこうに“反省”しなかった思想がある。ルッキズム(容姿差別)だ。
70年代生まれの文化系・サブカル属性男子がたどった道のりには、80年代のとんねるずや90年代の電気グルーヴといった「兄貴」たちがいた。前者は芸能界の現場にまつわる知識やギョーカイカルチャーのダイナミズムを、後者は海外テクノ啓蒙を通じた反J-POP、嘲笑すべき仮想敵のセレクトから垣間見える笑いのセンスなどの面で、ボーイズたちに多大なる影響を与えている。
その偉大なる「兄貴」たちが好んで磨いていたのが、「ブスを嗤うセンス」である。人権意識の高い現代においては大人の厳罰注意が徹底しつつあるためかなり減ったと思われるが、小学生の男の子がクラスの女子を、「ブース、ブース」と言ってからかう光景は、前世紀にはよく見られた。これが中学生になっても、高校生になっても、大人になっても「ブスは嗤ってよし」を引きずりがちなのが、70年代生まれを中心とした文化系・サブカル属性の男子である。これは『こち亀』の中心読者である団塊ジュニア〜ポスト団塊ジュニアの一部ともかぶってくる。
「ブスを嗤っていい」空気の成分は、時代とともにどう変化し、どう変化しなかったのか。『こち亀』が「ブス」を嗤いものにする描写はあまりにも多いが、その一部から「変化」と「非変化」を追いかけてみよう。
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