志村けんと『こち亀』
2020年3月、日本が誇る国民的コメディアン・志村けんが新型コロナウイルスに罹患して逝去した。志村が「東村山音頭」で大ブレイクしたのは1976年、『こち亀』の連載がスタートした年である。
志村の死にとりわけ心を痛めたのは、『こち亀』のコア読者と同様、団塊ジュニアからポスト団塊ジュニアの男性であろう。1970年代後半から90年代にかけ、『8時だョ!全員集合』『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』『志村けんのだいじょうぶだぁ』『志村けんのバカ殿様』といった志村の出演番組に親しんだ世代である。
ただ、志村逝去で日本中が哀悼一色だったなか、少しだけ“ノイズ”が混じっていた。「番組コントに登場したさまざまなエロ描写──女性の乳房や下着の露出、言葉や行動による女性へのセクハラ──は、志村の喜劇人としての功績とは別に、安易に許容してはならない」という意見がTwitter上で見られたのだ。
中でも『志村けんのバカ殿様』に登場した「胸部をくり抜かれた衣装で乳房が露出した腰元女性たちによる人間神経衰弱」や、『志村けんのだいじょうぶだぁ』の名物キャラ・変なおじさんによる変質者同様のセクハラコントには批判が集中。志村への追悼をきっかけに、地上波テレビ番組が現在よりずっと「エロ(お色気)」に寛容だった時代を懐かしむ男たちに対して、不快感を示す声も聞かれた。曰く、「女性へのセクハラや性の商品化を故人への追悼と一緒くたにして正当化するな」「これらの番組を見て育った男が現在、無自覚にセクハラするオヤジになっている」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。