両津のデジタル・デバイド宣言と情弱いじめ
両津の新しいガジェットにかける情熱、新技術への興味・関心度の高さ、知識・技術の習得センスは並外れている。イノベーター理論で言うなら、(連載初期を除き)両津が上位2.5%のイノベーター、あるいは13.5%を占めるアーリーアダプターであるのは間違いない。
ここで大切なことがある。両津はデジタル系新製品の技術や発想についていけない者──イノベーター理論における下位16%の「ラガード」層──を常にバカにしているという点だ。『こち亀』作中におけるラガードとは、多くの場合において年配層を指す。その代表格が部長だ。
94年46号「携帯電話はソースの香り!?の巻」(91巻)では、携帯電話を持っている部長(実はゴルフコンペでもらった)に対し、両津が「グレードが一気に最下位に落ちた…/チンパンジーがゲームボーイで遊ぶレベルまで落ちたぞ」とディスる。
96年15号「ハイテク世代V.S.オヤジ世代!!の巻」(98巻)では、両津が葛飾署のパソコン教室の「幹部・管理職部門」クラスを訪れ、なんと13ページにもわたって部長らを含むIT音痴をバカにする。ここで両津は秋葉原を訪れた際のエピソードとして、「アダルトCD-ROMを買ったはいいがパソコンでの見方がわからず、会社PCのスロットに入れたはいいが、排出できなくなってパニックに陥る管理職の悲哀」を、おもしろおかしく語っていた。
この回での両津のセリフは象徴的だ。両津は「Windows 95」の登場が、今までパソコンに興味のなかった層を振り向かせたとして、こう述べる。
「だからこそ(以前からパソコンを操っていた)わしらが優位に立てる訳だ!!/知る者と知らん者と(の間には)大きな差がある!!/動かせる人間は神様扱いだ!」(カッコ内、筆者補足)
知る者と知らん者との間の大きな差。これは後年「デジタル・デバイド(情報格差)」と呼ばれるものだ。そして「知らん者」はネット上を中心に「情弱(情報弱者)」という屈辱的なレッテルを与えられることになる。
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