「Windows 95」のパソコンブームにかぶりついた『こち亀』
『こち亀』が携帯電話以上にフィーチャーしたテクノロジーガジェットと言えば、何をおいても「パソコンとインターネット」であろう。特に「Windows 95」が登場して以降の90年代後半から2000年あたりにかけては、辟易するほど作中にパソコンとインターネットネタが頻出し、回によってはほとんどパソコン解説書と呼べるほどの(作者の)マイブームぶりが、臆面もなく表明されている。
『こち亀』におけるパソコンのフィーチャーは、葛飾署や派出所の端末で、本庁とオンラインでデータのやり取りができることで巻き起こる騒動を描いた87年8号「両さん新人研修の巻」(53巻)や93年43号「パソコン・モンタージュ!の巻」(86巻)に、その端緒を見ることができる。
また、パソコンやスマホ“前夜”としての電子手帳の進化を描いた93年44号「電子手帳ハッカー!の巻」(86巻)、94年29号「警察手帳進化論!の巻」(90巻)では、警察手帳が電子手帳に変わったというフィクション設定のもと、デジタルツールとしての“夢の万能ぶり”に、作品自体が酔っている感が強い。
世界中にパソコンブームをもたらし、個人がパソコンを所有し、操り、安価かつ容易にインターネットへ自由にアクセスできるきっかけを作った決定的な立役者である「Windows 95」の日本語版発売は、その翌年の1995年11月23日。当時は発売日のお祭り騒ぎぶりが国内ニュースで大きく報道された。
「Windows 95」はマイクロソフト社が発売したオペレーティングシステム(OS)であり、それ自体がワードやエクセルといった機能をもつアプリケーションプログラムではない(という概念を、当時多くの大衆は理解できなかった。スマホしか触れていない現代の若者の中にもOSの概念に馴染みがない者は多い)。特徴は大きく2つ。マウスを使って直感的・視覚的に操作できるわかりやすいインターフェイスと、ネットワーク(初期はパソコン通信、のちインターネット)接続との親和性だ。
前者は初心者にとってのパソコン操作のハードルを下げ、後者は「個人が世界中の情報に自由にアクセスできる」というSF的ロマンチシズムや万能性を大衆に強く印象づけることで、パソコンを「身近で魅力的なガジェット」の地位へと押し上げた。
一貫して「初物好きの大衆」の立場を取る『こち亀』が、これに飛びつかないはずはない。「Windows 95」発売の約4ヶ月後、なんと3号連続で純度100%のパソコン解説回が描かれたのだ。
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