ヒルズ族からリーマン・ショックまで「失われた20年」を活写する『こち亀』

現代の「浮世絵」たる『こちら葛飾区亀有公園前派出所』には、「庶民の金回り」の“リアル”がにじみ出ています。前々回前回に続いて、第3回は「経済格差」について。「ヒルズ族」に代表される「セレブ」、一方で「リーマン・ショック」による就職難。日本に「階級」が根付いてしまった!? 9月12日発売の『『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く』(稲田豊史)から特別集中連載(毎週水・土曜日更新予定)。

ヒルズ族とセレブいじり

 03年4月、東京都港区六本木6丁目に複合商業施設・六本木ヒルズが開業した。デベロッパーは森ビル。商業施設・映画館(TOHOシネマズ)ほか、オフィスビル(六本木ヒルズ森タワー)、美術館(森美術館)、ホテル(グランドハイアット東京)、テレビ朝日本社社屋などが立ち並び、00 年代を代表する東京の都市再開発の象徴として、また東京の新たな観光地として、以後数年間にわたり大きな注目を集めることになる。

 六本木ヒルズの特徴は、ズバリ「高級志向」だ。商業施設のテナントは、アパレル・雑貨・飲食すべてにおいて庶民感が払拭されており、オフィスビルにはオープン時にゴールドマン・サックス、ヤフー、楽天、J-WAVEがテナントで入り、04年にはライブドアが、06年にはリーマン・ブラザーズなどが加わった。

 そんななか注目されたのが、併設する住居棟「六本木ヒルズレジデンス」に住まう、高額所得の若手経営者や芸能人たちである。彼らは「ヒルズ族」と呼ばれ、ごく日本語的な語法における「セレブ(やや揶揄とやっかみの意図を含んだ“品のない金の使い方をする富裕層”“成り上がりの金持ち”の意)」の中に包摂される概念として、やがて庶民のボキャブラリーに定着していった。

 ヒルズ族のイメージは、06年6・7号「両さん&中川のはっぴいにゅーいやー!!の巻」(151巻)で描かれている。たまたま中川の商談にアメリカまでついていったジャージ姿、やけに態度のでかい両津が、先方企業のトップに「IT関連の社長だ!!」と間違われるのだ。彼は両津を一瞥して言う。「あの『世の中金だ』という顔つき! 間違いない!」

 06年28号「ここはどこ?私はだれ?の巻」(153巻)では、株で莫大な利益が出た両津が「六本木ヒルズに暮らす」と豪語する。この時期には、小学生レベルでも「六本木ヒルズ=金持ち」という認識が浸透していたのだ。

 「セレブ」が初めて描かれたのは、その1年ほど前のこと。05年20号「トウキョウセレブ時代の巻」(147巻)だ。銀座の高級レストランで両津・中川・麗子が日中に食事をしていると、お嬢様学校St.フェアリー学園小学部の少女たちがこんな会話をしている(以下抜粋)。

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こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く

稲田豊史

昭和~平成にかけて「週刊少年ジャンプ」で読まれ続けてきた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。連載40年、全200巻という偉業を果たした国民的漫画は、大衆社会を活写し続けたまさに「浮世絵」です。「こち亀と日本社会の40年」を紐解いた『『こ...もっと読む

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