「そうだ。われらとは団結力が違う」
「しかし薩摩二才(さつまにせ)は物事を考えません。それがわれらと違う点です」
二才とは若者のことで、彼らは「おせんし(先輩)」の命令に黙って従うのを常としている。もしも異論を唱えれば、議者(口だけの者)として仲間外れにされる。
副島が初めて口を開く。
「つまり結束を取るか、自由を取るか、ということだな」
大隈がすかさず言う。
「そうです。われら佐賀出身者は、自由闊達に意見を交換し合えるところがいいのです」
長州や土佐にも自由な気風はあるが、個々が別の派閥に入って政敵になるほどではない。せいぜい個人的に仲がよくないという程度のことだ。つまり、いざとなれば結束できるだけの団結力は保持している。
江藤が口を挟む。
「個々の意見が違い、それによって政治的立場を違えるのは致し方ない。だが向後は、われらが結束しないと大きな弊害が出る」
運ばれてきた膳に舌鼓を打ちながら、大木が問う。
「確かにそうだな。われらは政治勢力となっていないので、個々が薩長のどちらかに腰巾着のように付いていかねばならぬ」
「それだけではない」
江藤が口惜しげに言う。
「問題は国元だ」
皆が顔を見交わす。
「われらは政府に職を得たが、国元では藩庁や県庁に職を得られればましな方で、仕事もなく収入の道も絶たれ、くすぶっている連中がたくさんいる」
ここ数年、版籍奉還、廃藩置県、徴兵制議論、散髪脱刀令など、士族の神経を逆なでするような政策が相次ぎ、士族階級の不満は積もりに積もっていた。こうしたことから士族たちは徒党を組み、集会を開き、政府に対しての不満をぶちまけていた。それが最も盛んな地の一つが佐賀だった。
島が話を引き取る。
「蝦夷地から帰ってきて、次の仕事の拝命があるまで間があったので、わしは帰郷してきた。すると待っていましたとばかりに若い連中が集まり、わしを取り囲むようにして議論を挑んでくる。今の佐賀は、まさに弾薬庫のようだ」
副島が問う。
「島さんは、連中が反乱を起こすとでも言うのですか」
「それは分からん。だが誰かが鎮撫しないと、佐賀が生贄にされる恐れがある」
「生贄とは、どういうことですか」
大木が箸を休めて問う。それには江藤が答えた。
「士族たちの鬱屈が各地で高まっている。おそらく大久保さんは、どこかを見せしめに討伐することで、御親兵の強さを見せつけ、残る地域を黙らせるつもりだろう」
島の言葉に副島が首を左右に振る。
「そんな馬鹿なことを、大久保さんが考えるわけがありません」
「では聞くが、どうして御親兵に佐賀を加えなかったのだ」