ここ数年、私は毎日ビールを2500ml~8000mlほど飲む生活をしているのですが、いい加減、こりゃアルコール依存症かな、とも思うわけですね。しかしながら手が震えたりはしないワケで、「いや、オレは大丈夫だ。手が震えていないし幻聴もない、オレは大丈夫だ」と言い聞かせてはいたのですが、そこに「いや、アル中ではないの?」とズバリ指摘してくれたのが、コラムニストの小田嶋隆さん。
12日にオンエアされたTBSラジオ「荻上チキ・Session22」で「炎上」について語った際、番組OA直前の控室で打ち合わせをするでもなく、ひたすらアル中について小田嶋さんと話し合いました。初対面だったのですが、妙にこの話で盛り上がりました。
小田嶋隆(以下、小田嶋) 中川さん何歳ですか?
中川淳一郎(以下、中川) 39歳です。
小田嶋 そうかぁ~、オレが酒を飲むのをやめた年だなぁ~。
中川 えっ? ってことは、もう17年も禁酒してるんですか?
小田嶋 そうですよ。なんとか続くものですよ。
中川 苦しくないですか?
小田嶋 いや、全然。オレさぁ、それまで年間363日くらい酒飲んでいたんですよ。たまに飲めない日ってあるんですよね。それはどうしようもないほど体調が悪くて、水を飲んでも吐いちゃうような日ってあるじゃない。
中川 ありますね。なんか酸っぱい胃液みたいなのしか出てこない、みたいな。
小田嶋 そうそう、その状態ね。そんな日を除き、毎日飲み続けていたのよ。いやぁ~、ヒドかったなぁ。でも、まず5日間禁酒したら、幻聴とかするようになったんだけど、不思議なことにそれでもう酒飲まなくなっちゃった。それで17年。
中川 すげー! よくできますね! で、何の酒飲んでいたんですか?
小田嶋 ジンだね。酒って飲み続けていると、だんだんハードなリカーに行くものなんですよ。中川さんは何飲むのですか?
中川 ビールです。
小田嶋 ずっとビール?
中川 はい。最初から最後までビールです。
小田嶋 それは珍しいですね。どれくらい飲むんですか? つーか、ビールだけだとカネかからない? それがオレがジンに行った理由の一つでもありますよ。
中川 2500~8000mlくらいですね。カネはかかりますね……。年間200万円くらいはビールに使っている気がします。オレ、朝から牛丼作ったりするのですが、「牛丼を作るには色々と材料を切ったりするのが大変だ。より、おいしくするにはビールが必要だ」とか理屈つけては朝から500ml缶を2本開けちゃったりするんです。
小田嶋 あぁ、典型的アル中の言い分だ。
中川 そして、昼間は原稿を書く時も「原稿をより面白くするにはビールが必要だ」なんて言ってはまた500ml缶を2本。夜はほぼ毎日飲みに行っているので、ジョッキ6杯とか飲むんですね。
約束を覚えていない恐怖
小田嶋 ビールって不 思議ですよね。オレたちくらいの年になると、ビールの大瓶のケースは重くて運べなくなるけど、それだけの量を飲むことはできるんですよね。
中川 そうそう! ションベン出しながらだと持てる量以上に飲めてしまう。ションベンもまったく色がなく、単なる透明な水になってしまう。昔、オレはションベンをゼミの部屋に溜めていたことがあったのですが、その中には水みたいに無色透明なものもあって。
小田嶋 なんでションベンを溜めてたの?
中川 ゼミ室とトイレが遠かったんですよ。冬とか暗くて怖いし寒いんで、瓶の中に入れてたんですね。しょっちゅうゼミ室で宴会やっていたんです。ゼミのメンバーに馬場っていうやたらと心が純粋な男がいて、そいつが「淳ちゃん! これはキレイなションベンだなぁ! こんな透明なの、オレ、見たことないよ!」なんて言うの。
小田嶋 ガハハハハハ、呑気な人だね。
中川 そいつは酒をまったく飲めないんで、そんな透明なションベンは出ないんですね。ところで小田嶋さんはさっき「幻聴があった」っておっしゃいましたが、どんな状態だったんですか?
小田嶋 オレは結局心療内科を受けたんですよ。39歳の時、オレもう酒飲み過ぎていて、原稿に穴を空けちゃうことなんかもあったんですよ。
中川 えっ? 小田嶋さん、その頃相当忙しかった時期じゃないですか! 雑誌のコラム書きまくってましたよね。
小田嶋 そうそう。でも空いちゃうんですよ。というのも、いきなり電話が来て「小田嶋さん、原稿まだですか!」なんて言われる。
中川 でも、本人は何も覚えていない……、と。
小田嶋 そうなんだよ。どうも酔っぱらっている時にその仕事を受けてしまっていたみたいなんだよね。
中川 あるある!!!!
小田嶋 あとは仮にメモを取っていたとしても、まったく識別不能な文字が書いてあるので、結局メモの意味をなしていなかったりもする。
中川 あるある! オレもこうやって手帳に「NEWPORT14:30」なんて書いてはいるのですが、「これって誰と会うんだっけ?」なんて思うのです。NEWPORTってよく行くカフェですね。大抵の場合、取材とか打ち合わせはそこでやってしまうのです。
小田嶋 あるある!
あのオッサンが衝撃の姿になる!
中川 それで、ここに書いてある(手帳を見せる)NEWPORT14:30ですが、なんと、これは嬉しいサプライズがあったんです。14:35くらいに、電話が来て「田中」って携帯に着信表示がされたんですよ。そこで「あぁ、そういえば土曜午後に酔っぱらっていた時に田中さんと8年ぶりに会う約束したな」なんて思い出しました。
小田嶋 ふむふむ。
中川 その田中ってオッサンは昔一緒に仕事をしていたイベント会社の社長で、「なんか久々に会わない?」なんて言っていたわけですね。その人だって安心したら、「道に迷っているのでもう少しかかる」と言うのです。そこでニンテンドーDSをやりながら待っていたら、そのカフェの入口で派手な女が手を振っている。ポカーンと口を開けていたらそれが田中さんだったんです。
小田嶋 どういうこと?
中川 8年経ったら女装マニアになっていた。そして「あら、イヤね、ちょっと、いいでしょ? 似合う?」なんてオネエ言葉になっている。56歳で小田嶋さんと同じ年齢です。そして「ホント、女装って楽しいのよ! アナタもやってみる?」なんて言うんです。
小田嶋 ガハハハハ、そりゃ面白いや。
中川 それはさておき、小田嶋さんは心療内科に行ったらすぐに治ったのですか?
小田嶋 元々その心療内科の先生ってのが、久里浜のアルコール依存症患者の治療施設出身だったのですが、一度アル中から抜け出してもすぐに戻ってしまう患者ばかり見て、すっかりイヤになり、自分で心療内科を開くようになったんです。そして、アルコール依存症患者の診断はしたくない、と言っていたんだけど、オレには「アンタはインテリだから一度抜け出したらもう大丈夫だろう。見てあげましょう」なんて言って受診したんです。
中川 そしたらどうなりましたか?
小田嶋 「アッ、あんたはアルコール依存だ」ってすぐに分かって、禁酒生活突入ですよ。でもね、ホント、さっき言ったみたいに5日禁酒をしたら、キツかったけど、それを越えたら別に酒なんて飲まなくても良くなっちゃってね。不思議なもんだね。それから17年も禁酒は続いていますよ。続くと別に酒を飲みたい、なんて思わなくなります。
中川 小田嶋さん、オレ、これを詭弁と捉えられることもあるんだけど、オレがアル中じゃない根拠言っていいですか?
小田嶋 どうぞ。
オレはアル中じゃない! と言い張るも……
中川 オレはあくまでも「ビール」が好きなんですよ。
小田嶋 なるほど。
中川 たとえば、編集者なので、「記事書いてね」という意味も込めてメーカーの人から発泡酒を送ってもらったりするじゃないですか。あとは家で宴会とかする時、チューハイとか焼酎とか持ってくる人がいるんです。
小田嶋 はい。
中川 でも、オレはビール以外の酒には一切手をつけないんですよ。つまり、徹底的にビールしか飲まないということは、「オレはビールの味が好きなだけであり、アルコールが好きというわけではない。大好きで仕方のないビールという飲料の中にたまたまアルコールが含有されていた」ということを意味するんです。
小田嶋 典型的な詭弁ですね。
中川 えーっっ!!
小田嶋 オレもアル中の時は、実家とか帰って酒が自由に買えない時あるじゃない。その時、アルコールが入っていれば何でもいいや、と親が健康のために飲んでいたマッズいニンジン酒なんて飲んじゃうのよ。中川さんだって、たとえば大震災が発生したりしてビールが買えない状態になったら家にある焼酎とか発泡酒とか飲んじゃうはずだよ。
中川 ……。
小田嶋 場合によってはオレが受診した心療内科、紹介しますよ。
中川 ……。はい、お願いします……。
小田嶋 おっ、本番の時間だよ。スタジオに行こう。
(了)
【感想】
小田嶋さんは、酒を辞めてから抑鬱状態になることもなくなったと言います。私も完全禁酒とは行かないまでも、休肝日を頻繁に作るほか、酒量そのものを減らそうと考えるようになりました。
しかし、この小田嶋さんとの対談後も相変わらず「ビールを続けて飲み続けている」と言う中川さんですが、ついに「食事が食べられない」「胃が痛いのに、朝から飲まずにはいられない」など、体調に異常をきたしつつあるという中川さんからの報告が。
「アルコール中毒経験者である小田嶋さんに、手遅れになる前に、いろいろお伺いしたほうが良いのでは……」という老婆心から、cakesでは中川さんと小田嶋さんの対談を行いました。
その対談の模様は近日公開です!