クラブで知り合った年上の男とセフレになったことがある。
よくあるワンナイト話と違うのは、私は元々彼のことを知っていたということだ。
彼は私が行った実習先の研修医だった。
綺麗な肌とパーツの整った顔立ち。今流行りの塩顔ってやつだ。細身の彼は白衣がよく似合っていて、それに加え学生にも優しく丁寧に教えてくれる。
私たち実習生の話題は彼の話で持ち切りだった。
例外なく私も先生に憧れていたし、何とか顔見知りになりたいとツテをたどったこともある。
私の学校は学生と職員が交流を持つことを禁じているらしく、それは叶わなかったけれども。
だから、深夜2時のクラブで彼に声を掛けられた時はとんでもなく動揺した。
「すごい可愛い子がいるなと思ってずっと見てた」
酒の回ったとろんとした目で笑われて顔が火照るのがわかった。
騒がしいフロアは話すのも一苦労で、彼は私の肩を抱いて耳元で話し掛けてくる。
冷や汗をかくのも束の間、これはチャンスだと思った。このまま彼を知らないふりをしていれば、あわよくば。据え膳食わぬはなんとやら。どうせワンナイトで終わる関係だ。
ふう、と深呼吸して私は腹を括った。
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